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未来を知っている彼女と、知らない俺

掲載日:2026/08/16




「20XX年、人類は滅亡する!」

「な、なんだってぇっ!?」



 昼休み、クラスのアホどもが騒ぎ出した。

 最近、急にSNSで話題になっている予言だ。



「あと二か月で世界が終わるとか、怖くね?」

「……終わるならな」



 話を振られ、俺は適当に返した。



「放課後、駅前にナンパしにいこうぜ」

「どうして、そうなる?」



 今度は呆れた。

 脈絡がなさすぎる。



「お前も童貞だろ?」

「いや、まあ……。そうだけどさ」



 ますます呆れながら、思わず視線を教室の隅に向ける。


 彼女が席を立ち上がった。

 教室を出てゆく。



「童貞、捨てないとまずいだろ? 世界が滅ぶんだしさ」

「百理あるな!」

「いや、ねーよ!」



 たまらず突っ込む。

 馬鹿話は嫌いじゃないが、声が大きすぎる。



「ん? どこ行くんだ?」

「トイレ」

「おう、気張ってこい」

「違うわ!」



 苦笑しながら、教室を後にした。




 ******




「あっ、いた」



 特別教室棟の屋上へ続く階段。

 物置代わりに使われている踊り場の奥。

 そこが、彼女の特等席だった。



「……なに?」



 彼女がスマホから顔を上げる。

 少しだけ、不機嫌そうな表情だった。



「ここ、涼しくていいよな」



 そう言って、彼女との間を一人分空け、階段に腰を下ろした。



「……で、何の用?」



 彼女は横へずれ、さらに一人分の距離を空けた。

 視線はすぐにスマホへ戻る。



「いやー……。」



 塩対応すぎる。

 引きつりそうになる顔を、どうにか堪えた。


 何か話さなければ。



「あと二か月で世界が終わるって、マジだと思う?」



 言った瞬間、失敗したと思った。



「馬鹿じゃないの」



 一刀両断だった。

 それでも、俺はめげない。



「……昔、いろいろ教えてくれたじゃん?」



 彼女は黙ったまま、スマホを見つめていた。


 指は動いていない。

 画面も、止まったままだ。


 彼女の勘は、昔から異様なほど当たる。


 遠足の前日。

 「明日は雨だよ」と彼女が言えば、本当に雨が降った。


 登校中。

 「今日はプリンが出るよ」と彼女が言えば、本当に給食にプリンが付いた。


 宿題を忘れた朝。

 「今日は先生がお休みだから平気」と彼女が言えば、本当に担任は風邪で休んだ。


 小さな出来事を挙げれば、きりがない。

 だけど、彼女は小学校高学年になる頃には、そんなことを言わなくなった。


 当たりすぎる予言は、「すごい」では済まされない。

 やがて彼女は、不気味がられるようになった。


 とどめになったのは、ある女の子の怪我だった。

 彼女の忠告を無視した結果、本当に怪我をしたその子は、「あんたのせいだ」と彼女を罵った。


 中学校に上がる頃には、彼女は一人で過ごすことが多くなった。

 高校二年になった今では、俺以外の誰かと話している姿を見たことがない。



「終わらないよ」



 ぶっきらぼうな一言だった。

 唇を尖らせたまま、彼女はほんの一瞬だけ俺を横目で見る。


 すぐに視線はスマホへ戻った。



「そっか」



 俺は小さく笑う。


 世界が続くことが嬉しいのではない。

 彼女が答えてくれたことが嬉しかった。



「……信じてないくせに」



 彼女はスマホから目を離さない。

 その一言だけを置いて、また沈黙が落ちた。



「信じてるよ」



 俺は苦笑しながら答える。



「嘘」



 今度は即答だった。

 その声は責めるようでもなく、諦めたようでもあった。



「嘘じゃないよ」



 俺は彼女を真っ直ぐ見た。



「命の恩人なんだしさ」



 それは、冗談でも大げさでもない。


 あれは、小学四年の夏休み。

 父方の祖父の家へ、一人で向かう朝だった。

 突然、彼女が泣きながら俺の家へやって来た。



『行っちゃダメ! 死んじゃうんだから!』



 両親は困惑した。


 新幹線の切符は、もう取ってあった。

 だが、俺は彼女を信じた。


 その日、祖父の家へ向かうはずだったバスは、山道で横転した。


 死者十数名。

 当時、日本中で報じられた大事故だった。



「それ、覚えて……。」



 彼女が大きく目を見開いた。

 顔を勢いよくこちらへ向ける。



「……あっ」



 次の瞬間、彼女は息をのんだ。


 焦点の合わない瞳が、どこか遠くを見つめる。

 口をぱくぱくと動かしながら、頬がみるみる赤く染まっていく。



「んっ?」

「わ、私! う、浮気なんて許さないから!」

「……どういうこと?」



 俺は戸惑う。


 俺と彼女の関係は、俺からすれば友達だと思っている。

 でも、彼女にとっては、残念ながら知り合い程度だ。


 胸の内を明かすなら、俺は彼女のことが好きだった。

 できるなら、付き合いたいと思っている。


 だけど、ずっと告白できずにいる。


 理由は簡単だ。

 彼女が、あまりにも塩対応だから。



「し、知らない!」



 彼女は勢いよく立ち上がった。



「な、ナンパでも何でもすればいいじゃない!」



 そう言い残して、逃げるように階段を駆け下りていった。



「……やっぱり聞こえていたんだ。

 失敗したー……。」



 俺は肩を落とした。


 やっぱり、彼女は塩対応だ。

 いや、いつも通りと言えば、いつも通りなのだけど。


 あとで、余計なことを言ったアホどもには文句を言ってやろう。




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