転生資格相談窓口
転生を題材にした短い話です。気軽にどうぞ。
私の名前は捲矢。
だいたいこの辺りを管轄している役所に勤務している。
所属は地域振興課、だったか?
組織変更の度に、部署名がほんの少しだけ変わるってのはやっかいだ。
こんなんなら、永久に変えないか、都度全く別の名称にしてくれりゃいいのに。
どうせ毎年度変えるんなら、いくつか決めておいてローテーションしてりゃ、『第3回 部署名決定会議』なんてやらなくて済むのにな。
まあ、それも仕事。そんで、これも。
お、お客、様だ。
「あの、『転生課』の方で紹介されてきたんですが…」
私は地域振興課(だったか?)で、お客様相談を業務としている。
各部署が、事務的に対応しきれなくなったお客様を送り込んでくる…、もとい、困ったお客様がご相談にやってくる窓口だ。
「こんにちは、お名前をどうぞ」
「はい、『山田』と申します。よろしくお願いいたします」
PCを操作して、相談者一覧を確認する。山田姓は1件だけだ。
要請元の部署は転生課…、合ってる。
氏名と生年月日を確認して、本人だと認め、用件を話してくれる様に水を向ける。
なお、マイナちゃんシステムとは連携していない。
「わたし先月に、ええと、轢かれてしまって、呑み過ぎて。
それで、なかなか転生しないので、どうなっているのか確認に来たんですけど。
えと、転生課?、で確認したんですけど、『しばらく転生することは無い』と。
こちらに伺えば、相談にのってくれると言われて、それで…」
ああ、相談者一覧に表示された内容とも合ってるよ。
あいつら…。
ちゃんと説明せえよ。お前らのとこの規定を。
転生課には以前、所属していた。
連中のやり方とそりが合わずに異動になったが、な。
まあいい、仕事が少ないと異動の標的にされちまう。
「そうですか、わかりました。ではご説明いたしますね」
死んだ、いや、儚くなってしまった者達は、『その後』を選択できる。
浄土、輪廻、そして転生だ。
言葉を尽くさずに言えば、悟るか、ヒトに戻るか、他所へ行くかの三択である。
2010年代初頭からの転生ブームのおかげで、転生を望む者達が右肩上がりに増え始め、このままでは各方面の力関係…、バランスがヤバくなると危惧したわけだ。
さすがに既得権益の保全となれば皆、真剣になる。
一気呵成に規定はまとめられたよ。
「山田さんの場合ですと、近親者はおられませんね。
では、この方、ええ、貢がれていたホストの方、おひとりです。
あとは…、ああ、『CaPitan』っていうAIの「ブラックリスト」にエントリがあります。
はあ、やらかした憶えがある、と。そうですか。
ええ、近年、AIも進化が著しくて。ヒトとしての扱いになっているんですよ、規定上」
調べた結果を山田様に告げる。
まだ食い下がりそうだ。そうだろう、そうだろう。
転生についての規定は、おおむねこうなってる。
◇転生資格の取得条件
『記憶濃度』--人の世がそのヒトを憶えている濃度--が、規定値を下回った場合に取得。
要するに「皆に忘れられたらOK」。人気者は不利。
◇例外
有名人、著名人などメジャーなヒトは、レジェンドつまり準神格扱いとなり、転生資格は得られない。
つまり、偉人は浄土か輪廻の二択となる。
「転生できないと私、困ります。どうしたらいいのでしょう?」
何を困るんだかな。まあいいや。
「そうですね、貢がれていたホストの方。その方の枕元に立って訴えかけられる、『枕元券』を、うまく活用いただければいいかもしれません。
『CaPitan』の「ブラックリスト」に関しては、お手続きいただければ、役所の方からユーザ削除申請をできます。
それで、転生資格は取得できるかと思います」
「ありがとうございます。早速、手続きに…」
腰を浮かしかける山田様。しかし、絶対に告げねばならぬことがある。
「もう少々、お時間をください。転生したい理由を伺っています。
これは別に山田様だけでなく、皆さんに伺っていることですよ」
山田様の顔に妙な笑みが浮かび、その視線は3km先に焦点を結んだ。
ちょい高そうな鉄板焼屋のある辺り。そんなとこにあったか? 異世界。
瞳の中に星が見えそうで、ちょいキモ。
「わたし、乙女ゲーの世界に転生したくて。
平民の娘だけどある日聖女スキルが発動して見染められて王立の学園へそして王子とその仲間たちに傅かれてドレスで舞踏会へそこで嫌がらせをしてきた悪役令嬢にざまぁをかます…」
どうどう。
「どうどう、いえ、失礼しました。
ひとつお伝えしますと、転生先は山田様には選択できません。
どのようなヒトになるのかも、です。
今の記憶も取り戻せるかは、ちょっと。
例えば、山田様のおっしゃった転生先、背景は中世でしょうか。
現代とは異なり、インフラ、電気、ガス、水道、ネットは一切ありません。
本やゲームなんかの趣味もほとんどありません。
医療面に至っては、病院どころか歯医者すらありません。
祈祷がせいぜいといったところでしょうか。
衛生、通信、交通、物資、すべてが貧弱です。
そして、王族とその取り巻きが、平民と接することなど皆無です。
平民は低賃金での重労働を余儀なくされ、追われる様に日々を過ごすのが当たり前の世界です。
転生した先というのは、そちら側の確率の方が、圧倒的に高いのです。
それでも転生を?」
転生課にいた頃、コレを言って泣かれたことが度々あった。
「転生したBC世紀最大の悪女は俺様王子を尻に敷いて聖女を自称する悪役令嬢にざまぁ…」とか何の呪文やら。
いっとき、胃がやられかかったのはその呪文のせいか?
今はもう、何とも無いが、な。
果たして、山田様は変わらなかったよ。こっちを見もしない。
聴こえてないかもだが、説明義務を果たした様子は、窓口カメラに録画されているだろう。
あ、こっち見た。
「大丈夫です、わたしには聖女スキルが発動することになっていますから。
そうして前世の記憶を取り戻す。だって、転生するんですもの。
その、転生資格? を取るのに必要な手続きとか教えてください」
はあ。
どれだけ説明しても、浄土、輪廻へ変更する者は、少ない。
「わかりました。
まず、ホストの方に使う『枕元券』、これは1階の福祉課でもらえます。
次に、ユーザ削除申請は、こちらの申請用紙に記入をお願いします。
持ち帰られて後日、この窓口に提出してください。
ええ、今、書いていかれても大丈夫ですよ」
記入済の申請用紙を受け取って、記載事項を確認する。大丈夫だ。
「では、手続きに入ります。
転生資格のほう、認定されましたら山田様の方へご連絡が行きます。
もし、浄土もしくは輪廻への変更を希望される場合は、1階の窓口へご相談ください。
本日はありがとうございました」
椅子から立ち上がり、お互いに礼をした。
窓口を一時的に閉め、山田様の件に関わる事務処理を行う。
画面を目視、指差し確認。完了した。
閉めていた窓口を開ける。
「すみませーん、『輪廻課』から紹介されたんですがー」
「こんにちは、お名前をどうぞ」
ここ何年かは、輪廻課からの相談も増えてきている。
現在のヒトの世、つまり現実世界でどうこうするとかしないとか。
まあ、ウオシュレットはあった方がいいんだろうさ。私もそう思う。
本音を言えば、浄土へ逝ってほしい。あっちは極楽らしいからな。
読んでくださり、ありがとうございました。




