第18話 中層深部──黒牙犬の咆哮
中層深部へ足を踏み入れた瞬間、
空気はねっとりと重く、冷たい霧が肌にまとわりついた。
床には黒い筋が走り、
壁の隙間からも、薄く黒い魔力が滲み出している。
「……ここって、本当に同じ鉱山なの……?」
ミーナは震える声で言った。
《ガイダンス》の淡い光は揺らぎながらも、
“危険な方向だけ”をしっかりと示している。
セシルも緊張で喉が鳴り、《気配感知》に集中する。
黒い霧が、まるで何かの“気配”を覆い隠しているようだった。
ゲイルは前を歩きながら静かに言う。
「深部はこういうものだ。
うかつに動くな。影の気配が濃すぎる」
その直後、
地面の奥から低い振動が響いた。
ゴォン……。
ミーナが肩をびくっと震わせる。
「な、なに……!?」
「来るぞ」
ゲイルの声と同時に、
通路奥の黒霧が渦を巻き始めた。
黒い霧がまとまり、形を取る。
影のような毛並み。
黒い牙。
底の見えない真っ黒な眼。
セシルは息を呑んだ。
「……影犬より、ずっとでかい……」
影犬の二回りはある巨体。
全身から黒霧が噴き出し、
その毛並み自体が霧のように揺れている。
ミーナは杖を握りしめ、青い顔でつぶやいた。
「なにこれ……こんなの見たことない……!」
ゲイルが低く告げる。
「黒牙犬だ」
その声にはわずかな怒気があった。
「影犬が悪魔の霧に深く汚染されて生まれた“変異魔物”。
本来、この大陸には存在しないはずのものだ」
ミーナが息を呑む。
「……悪魔の……変異……」
黒牙犬は、一度だけ低く唸り──
影のように気配を消した。
完全に消えた。
「──右っ!!」
ミーナのガイダンスが跳ね、
セシルの体が反射で動く。
その瞬間、
右の壁から黒霧を裂いて、黒牙犬が飛び出した。
ガンッ!!
古剣で受け止めるが、
影とは思えない重さが腕に響き、
弾かれた勢いで黒い爪が左腕をかすった。
「っ……!」
熱い。
黒霧が傷に入り込むような、不快な熱さ。
「セシル!」
ミーナが駆け寄り、即座に手をかざす。
「ヒールタッチ!」
あたたかな光が傷に染み込み、
黒霧の熱がふっと消えていく。
痛みもすっと引いた。
「ありがとう、ミーナ……!」
「ううん! まだ来るよ!」
黒牙犬は再び霧へと溶け、
姿と気配を完全に消した。
セシルは息を整え、
《気配感知》を最大限に研ぎ澄ます。
(……どこだ……?
気配が歪んでる……)
だが黒い霧の“揺れ”だけは──
確かに感じ取れる。
「上!」
セシルとミーナの声が重なる。
ミーナのライトショットが天井を撃ち抜き、
白い光が黒霧を裂いた。
──黒牙犬の姿が露わになる。
セシルは踏み込む。
(黒霧に触れた瞬間……火花が伸びる……!)
古剣を振り抜いた。
チリッ!!
赤い火花が跳ね、
黒霧へ触れた瞬間、
細い“線”となって伸びた。
刃の通りが異様に良い。
黒牙犬の身体が裂け、
影が爆ぜるように黒煙が舞った。
ガァァァァッ……
黒牙犬は黒い煙になり、消滅した。
その刹那──
白いUIウィンドウがふわりと浮かび上がる。
⭐【レベルアップ!】
■ セシル:Lv8 → Lv9
HP:47 → 53(+6)
MP:20 → 21(+1)
STR:13 → 14(+1)
VIT:15 → 16(+1)
DEX:15 → 16(+1)
INT:7 → 8(+1)
MAG:5(—)
RES:11 → 12(+1)
(やっぱり……黒霧の魔物に当てたときだけ、
火花の伸びが全然違う……
スキルが……反応してる……!)
■ ミーナ:Lv4 → Lv5
HP:27 → 31(+4)
MP:33 → 37(+4)
STR:5(—)
VIT:8 → 9(+1)
DEX:10 → 11(+1)
INT:17 → 19(+2)
MAG:19 → 21(+2)
RES:11 → 12(+1)
スキル:
《ライトショット Lv2》
《ガイダンス Lv2》
《ヒールタッチ Lv1(回復量上昇)》
ミーナは自分の手を見つめ、小さく微笑む。
「……ちゃんと、強くなれてる……」
UIが消えると、
黒牙犬の消えた場所に黒い晶石が落ちていた。
ミーナはそっと拾いあげ、息を呑んだ。
「魔石……?
でも、中で黒い筋が……脈打ってる……」
ゲイルが重く言う。
「悪魔汚染の魔石だ。
本来こんな場所にあるはずがない」
セシルは眉をひそめ、拳を握る。
(もしこれが増えれば……
カザンだけじゃない。街全部が危険だ……)
その時、
《気配感知》が大きく揺れた。
ミーナの《ガイダンス》も、
恐怖に震えるように光る。
「セシル……この奥に、もっと大きな影が……!」
ゲイルは剣を軽く構え直した。
「行くぞ。
ここから先が──本当の深部だ」
黒霧は、さらに奥へと流れ続けていた。
◆ 悪魔視点パート
黒霧に満ちた深部の奥。
三体のレッサーデーモンが跪き、
その中心に、影の男が静かに立っていた。
ルシファーの写し身だ。
「黒牙犬が敗れたか……
火花の伸び、悪くない」
影が、愉悦を滲ませながら笑う。
「次は“蛇”だ。
影飛蛇──
深部へ誘え」
黒霧が天井へ昇り、
巨大な影が闇へ溶けた。
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