第15話 鉱山への道、黒い魔力の気配
カザンの朝は、冒険者たちの喧噪で始まる。
ギルドの扉を開けると、受付前にはすでに長い列。
セシルとミーナは、少しだけ背筋が伸びた。
受付嬢が手を振る。
「セシルさん、ミーナさん、おはようございます!
Cランク依頼、正式に受理しますね」
二人はギルドカードを差し出す。
受付嬢が魔力印を押すと、カードがふわっと光った。
《Eランク冒険者・正式登録》
ミーナが嬉しそうに微笑む。
「これで……本物の冒険者だね」
「うん。なんか引き締まるな……」
横でゲイルが無言でカードを見せる。
受付嬢は一瞬だけ姿勢を正し──
深く頷いた。
「……《白銀の刃》ゲイル様。
同行、本当にありがとうございます」
その呼び名を聞いた瞬間、
ギルドホールにいた冒険者たちがざわつきはじめる。
「あれ本物だぞ……白銀の刃……」
「王国騎士団の伝説じゃないか……」
「Eランクの子供たちを鍛えるために……?」
セシルは驚いてゲイルを見た。
「ゲイルさん……“白銀の刃”って……?」
ゲイルは淡々と返す。
「昔の呼び名だ。気にするな」
受付嬢が依頼書を広げた。
「依頼ランクは C。
調査依頼ですが、危険度は高めです。
鉱山で黒い魔力が確認され──
鉱夫の行方不明も出ています」
ミーナはその言葉にびくっと震えた。
「……ガイダンスが反応した……
ギルドの言う“異常地点”より……もっと奥が危険……」
同時に、セシルの《気配感知》が
チリ……と微かに揺れる。
(……なんだ、この重たい空気……)
だがその時──
ゲイルは受付の説明の途中で
ほんの一瞬だけ “山の方角” を鋭い瞳で見た。
セシルはその変化に気づいた。
(……ゲイルさん、今……)
ゲイルは気配を戻し、短く言った。
「行くぞ。時間を無駄にするな」
■ 鉱山への道中
ミーナの《ガイダンス》、セシルの《気配感知》が
それぞれ微弱に反応し続けていた。
分岐路に差しかかった時、
ミーナが立ち止まる。
「……左のほうが安全。右は……“嫌な方向”って出てる」
ゲイルが頷く。
「導き手は方向に強い。従っていい」
セシルは風の流れの中に
黒い魔力のかすかな残滓を感じる。
(……だんだん強くなってる……)
ゲイルは静かに言った。
「ガイダンスも気配感知も役割が違う。
どちらも自分たちの“目”だと思え」
二人は強く頷いた。
■ 鉱山前──黒い魔力の痕跡
鉱山の入り口は、
本来なら鉱夫の声や荷車の音で賑わっている。
だが今日は──
風の音すらしない。
壊れた木柵。
割れた魔石箱。
そして壁には 黒い魔力の焼け痕。
ミーナが震えた声で言う。
「……黒い魔力……
悪魔系の魔力だよ……」
途端、セシルの《気配感知》が激しく震えた。
(……いる……!
奥のほうから……!)
ゲイルは黒い焼け痕に触れ、
ひと息だけ長く吐く。
そして静かに呟いた。
「……第一位階、堕天の王か」
セシルは言葉を失った。
「だ……第一位階って……
堕天の王って、ルシファーの……?」
ゲイルは立ち上がる。
「勘違いかもしれん。
本物が人界に降りるのは考えにくい。
だが──この魔力は間違いない」
そしてもう一言、
過去を振り返るように低く呟く。
「昔……“写し身”を斬ったことがある。
苦労した。あれは軽い敵じゃない」
セシルとミーナは息を呑んだ。
ゲイルは振り返らない。
「進むなら覚悟を持て。
戻るなら今のうちだ」
セシルは剣を握り直した。
「行きます……ミーナと一緒に」
ミーナも強く頷く。
三人は暗い鉱山へと足を踏み入れた。
■ ラスト:悪魔視点
──鉱山最深部。
黒い霧が渦を巻き、
レッサーデーモンたちがうごめく。
「キヒ……人間……きタ……」
その中心に、
黒い影がゆっくりと姿を現した。
整った顔だけが浮かび上がる。
紅い瞳。
影そのものの身体。
── 堕天の王ルシファーの写し身。
写し身は愉快そうに微笑んだ。
「……ほう。あの“白銀の刃”がまだ生きていたか」
レッサーデーモン:
「ア、アレは危険ナ人間……!」
「かつて我が影を斬り裂いた……
生き延びたこと自体、奇跡に近い」
写し身は深く息を吸い──
別の方向を見る。
「そして……あの少年。
“理外の欠片”か。
面白い」
レッサーデーモンがひれ伏す。
写し身は薄く笑った。
「好きに動け。
ただしゲイルには気をつけろ。
少年は……まだ殺すな。
もっと“見たい”」
黒い霧が揺れ、闇に溶けた。
──鉱山の暗闇は、彼らを待っていた。
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