第12話 カザン前、石畳で拾った護衛依頼
丘を越えた瞬間、景色が一気に変わった。
土の道だった街道は、いつの間にか綺麗に整えられた石畳に変わり、
旅人や荷車が増え始め、空気そのものが少しざわついている。
「ほんとだ……もう村とは全然違うね……!」
ミーナが息を弾ませながら言った。
「うん。活気があるというか……にぎやかというか……」
セシルも高揚していた。
石畳の先に、煙と煙突の影をにじませた灰色の街――
(あれが……カザン……!)
ゲイルが淡々と言う。
「気を抜くな。街が見えたからと言って安全とは限らん。
この辺りは人通りが増える分、事故も起こりやすい」
たしかに。
すれ違う荷車は多く、馬のいななきも増えている。
セシルは胸のあたりに小さな振動を感じた。
(……まただ。《気配感知》が反応してる……
でも、昨日の魔物のそれとは……ちょっと違う……?)
ミーナが袖をつまむ。
「セシル……?」
「なんか……嫌な感じというか……変な揺れがする」
ゲイルが視線を前方に向けた。
「……あれだな」
街道脇に、ひっくり返った荷箱と、散乱した麻袋。
荷馬車の横で、恰幅の良い中年の商人が頭を抱えていた。
「おーい、大丈夫ですか?」
セシルが駆け寄ると、商人は振り向いた。
「おお? お前さんら旅人か?
すまねぇな……馬がいきなり跳ねて、荷物ぶちまけちまったんだよ!」
白い髭をたくわえ、分厚い革コートを着た中年の男性。
年の頃は五十前後、職人と商人の中間のような雰囲気。
「散らばってるの……これ、魔石?」
ミーナが落ちている黒い鉱石を指さす。
商人は肩を落とした。
「そうさ。“魔石”だ。
カザンの鉱山で採れた貴重品なんだが……
今は鉱山が閉じちまっててな。仕入れも滅多にできねぇんだ」
「鉱山、閉じてるんですか?」
「原因不明の魔物が出るようになっちまってよ。
鉱夫が襲われかけて、採掘が止まってるんだ」
セシルは息を呑んだ。
(正体不明の魔物……?)
ゲイルが周囲を見渡す。
「……魔石の匂いが漏れている。寄ってくるぞ」
「ひっ……!」
中年商人が後ずさる。
そのとき――
セシルの《気配感知》がビリ、と震えた。
(……来る!)
「右側……!」
セシルが叫ぶと同時に、
石畳の上で“岩”がぐにゃりと歪んだ。
岩のような殻。
だが中身は灰色で、ぬめった肉塊が蠢いている。
「うわ……なんだあれ……」
ミーナが顔をひきつらせる。
ゲイルが短く言う。
「“岩蛭”。
岩に擬態して魔力を食う魔物だ。
魔石をばらまけば寄ってくる」
ガンビルは一瞬で跳ね上がり、セシルへ飛びかかる。
(……跳ぶ角度が……分かる!)
《気配感知》が鮮明に反応し、
セシルは横薙ぎに剣を振った。
ガギン!
硬い殻にヒビが入る。
「ライトショット!」
ミーナの光弾がヒビに直撃し、
殻が大きく割れた。
(今だ!)
セシルは踏み込み、
中から飛び出した肉塊へ斬撃を叩き込む。
ザクッ!
ガンビルは地面に崩れ落ちた。
その瞬間、視界に光が浮かぶ。
【スキル《気配感知》Lv2 → Lv3】
【敵の動き出しをより早く察知できます】
(……また上がった!)
ミーナが駆け寄ってきた。
「セシル、今の!
完全に“来る方向”分かってたよね!」
「うん……なんか、動きが“浮かぶ”感じがするんだ」
ゲイルは短く頷いた。
「良い成長だ。
岩蛭は動きの癖がない分、察知が難しい」
中年商人が頭を下げた。
「助かった……!
お前さんたち、腕があるな!
すまねぇ、自己紹介がまだだった。
俺は ブルノ・バザル。カザンの商人だ」
「セシル・グレイフです!」
「ミーナ・エルドです」
ブルノは荷物を拾いながら言った。
「カザンまではあと少しなんだが……
この通り“魔石”をぶちまけちまってな。
もしよけりゃ、街まで護衛を頼めねぇか?」
ゲイルがわずかに顎を動かした。
「悪くない。目的地は同じだ」
「ほ、本当にいいのか!? 助かる!」
ブルノは心底嬉しそうに笑った。
そして馬車を整えながら、
少し声を落として言う。
「街に着いたら“冒険者ギルド”に向かうといい。
腕が良けりゃ、仕事はいくらでも舞い込む。
……実は、頼みたい“正式な依頼”があるんだよ」
ミーナがきょとんとする。
「正式な依頼……?」
「鉱山のことさ。
最近の“異変”……気になってしょうがない」
セシルの胸がざわついた。
(……気配感知が、また揺れてる)
ゲイルが街を指した。
「行くぞ。カザンはもう目と鼻の先だ」
歩き出す三人。
ブルノの馬車が続く。
石畳の向こうには――
鉱山都市カザンの塔屋根が、うっすらと煙に霞んで見えていた。
セシルの胸は、期待と緊張で膨らんでいた。
(ここから……本当に冒険が始まるんだ)
ここまで読んでいただきありがとうございます。
今回はカザン前での“初めての護衛依頼”の回。
ウルフ系ではない新しい魔物・**岩蛭**を登場させ、
セシルの《気配感知》の成長も丁寧に描きました。
魔石を運んでいた商人 ブルノ・バザル との出会いは、
今後の 鉱山編・悪魔眷属編 への重要な伏線になります。
次回はいよいよ 鉱山都市カザンへ到着。
ギルド登録、そしてブルノからの正式な指名依頼が動き出します。
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