第10話 ベルナ村、出発
ベルナ村を離れ、セシルとミーナの“世界”が始まります。ゲイルの圧倒的な存在感、村との別れの温かさ、そして初めての旅の実戦を楽しんでください。
朝のベルナ村は、どこかいつもより明るく見えた。
鳥の声、井戸の水音、パンの匂い──
全部が今日の朝を特別にしているように思える。
セシルは荷物を背負い、胸当てや手足の防具を確認した。
どれもバルドが夜遅くまで仕上げてくれた装備だ。
「ねぇ、セシル! 準備できた?」
ミーナが荷物を抱えて駆けてくる。
杖と肩掛けの鞄を揺らしながら、息を弾ませていた。
「うん。……ミーナは? 重くない?」
「大丈夫、大丈夫。気持ちのほうが重いかも」
少し肩に食い込んでいるのをごまかすように笑った。
二人で村の入口へ向かうと、
すでにゲイルが立っていた。
白銀混じりの髪、外套、革鎧、黒革の鞘。
佇むだけで空気が張りつめる。
「来たな」
短い言葉。
だがそれだけで、旅が本当に始まるのだと分かった。
「おはようございます、ゲイルさん」
「ああ。二人とも荷の重さは問題なさそうだ。
ミーナ、杖は持ち替えながら歩け。肩が固まる」
「う、うん!」
ゲイルはセシルの装備も目で確認する。
「胸当てと腕の装備は悪くない。
革のしなりも丁度いい。動きにくさも無いな」
そこへ、ドタドタと駆けてくる足音。
「セシルーー!!」
バルドが肩で息をしながら走ってきた。
その後ろには村の人たちと子どもたち。
「ほんとに行っちまうのか。……ほら、最後にもう一回見せてみろ」
バルドはセシルの胸当てを軽く叩き、ベルトの締まりを再調整する。
「よし、これでいい。壊すなよ。……戻ってこい」
「うん。必ず」
ミーナには小さな布袋を渡す。
「薬草と包帯、それと食料だ。お前の母さんからだ」
「ありがとう、おじさん!」
村の子どもたちが口々に叫ぶ。
「セシル兄ちゃん、気をつけて!」
「ミーナ姉ちゃんもがんばれ!」
「ぜーーったい戻ってきてね!」
そんな声を聞いていたら、胸が少し痛くなった。
そこへ、馬の蹄音が響く。
辺境伯家の紋章をつけた使い馬だ。
若い兵士が封書を差し出した。
「セシル・グレイフ殿へ。ラザール様からです」
封を開くと、整った文字が並んでいた。
『まずカザンの街へ向かいなさい。
冒険者ギルドで世界を知り、己を知ること。
焦らずともよい。
望むなら私はいつでも君の推薦者になる。
――ラザール・ベルナス』
読み終わるころには、胸の奥がじんと熱くなっていた。
ゲイルが横目で見てつぶやく。
「……らしいな、あいつらしい」
セシルとミーナは村の人々に深く頭を下げた。
「行ってきます!」
拍手と声援が背中を押した。
村の出口を抜けたところで、セシルはふとゲイルに声をかける。
「ねぇ、ゲイルさん」
「なんだ」
「こうやって……歩くのが旅なんですね」
「そうだ。旅は足で進む。
まず足を作れ。剣はその次だ」
街道は柔らかい日差しに照らされ、
草原が続いていた。
その草の影で──
ガサッ、と音。
ミーナが杖を握りしめる。
「……魔物の気配。ねぇ、セシル……」
ゲイルがわずかに視線を向ける。
「二匹だ。“ホーンラビット”と“スパイクモール”。
どちらも序盤の魔物だが、油断すれば刺される」
草むらから飛び出した角うさぎ。
続いて、地面を盛り上げて棘だらけのモグラが姿を見せた。
「ミーナ、援護を!」
「うん……!
大丈夫、お母さんに“基礎魔法”だけは教わってるから!」
ミーナが杖を向ける。
「ライトショット!」
白い光球が弾け、ホーンラビットの目を眩ませた。
「もらった!」
セシルが滑り込むように踏み込み、斬り払う。
同時にスパイクモールが地中に潜り、
セシルの足元へ向かって土が盛り上がる。
「セシル! 下から来るよ!」
「分かってる!」
横へ飛び、避けた瞬間に地面が裂けた。
ミーナがもう一度杖を構える。
「ライトショット!」
今度はスパイクモールの顔付近に光が弾け、
魔物が怯んで動きを止めた。
「はあっ!」
セシルが踏み込み、古剣を振り下ろす。
モグラは土埃を巻き上げて沈黙した。
息を整えたその瞬間、視界に光が浮かぶ。
【セシルのレベルが上がりました】
Lv6 → Lv7
HP:37 (+4) → 41
MP:19 (+1) → 20
STR:11 (+1) → 12
VIT:13 (+1) → 14
DEX:13 (+1) → 14
INT:5 (+0) → 5
MAG:5 (+0) → 5
RES:10 (+1) → 11
ミーナの視界にも光が灯る。
【ミーナのレベルが上がりました】
Lv2 → Lv3
HP:20 (+2) → 22
MP:25 (+2) → 27
STR:4 (+0) → 4
VIT:8 (+1) → 9
DEX:10 (+1) → 11
INT:13 (+0) → 13
MAG:14 (+1) → 15
RES:9 (+0) → 9
ミーナはぱっと顔を明るくした。
「やった……! 本当に上がった!」
セシルも嬉しそうに笑う。
「すごいよミーナ! 光の魔法、すごく助かった!」
ゲイルが静かに歩み寄り、二人を見た。
「……悪くない。
セシルは踏み込みがさっきより良い。
ミーナ、お前は恐れずに魔法を撃てていた。
どちらも伸びる」
短く、それでも十分な言葉。
夕方には小さな林の中で野営した。
ゲイルが火を起こし、セシルが薪を集め、ミーナが水を汲む。
焚き火の火が揺れ、暖かい空気が包む。
「ねぇ……今日だけで、なんかすごく旅してる感じするね」
ミーナが笑う。
「うん。村にいたときと全然違う」
ゲイルは焚き火越しに二人を見て言う。
「世界は広い。
魔物も人も、すべて“自己責任”だ。
だが──
二人で組めば、十分に強い」
セシルは古剣に触れながら、強く心に誓った。
(もっと強くなる。
誰かを守れるぐらいの強さに──)
夜空には、ベルナ村で見たのと同じ星々が輝いていた。
その下で、三人の旅は静かに始まっていた。
セシルとミーナ、そしてゲイルの三人旅が正式にスタートしました。次回は道中でもう少し強い魔物や、旅人、そしてカザンの街の影が見えてきます。




