8 このご恩は必ず返さねば!
町は思っていたより大きかった。
まず、町に入る前に大きな門があって、そこで検問みたいなことをしているみたい。
「身分証は?」
「うっ、その……持ってない、です」
兵士に聞かれて正直に答えると、ロッテさんがすぐさまフォローに入ってくれた。
「この子、ゴブリンがオークに連れ去られたみたいでね……未遂だったみたいだが、そこで荷物を奪われたのかも」
「ああ、そうか……大変だったな。ロッテと一緒なら大丈夫だろう。ようこそ、時告げの町へ」
あっ、ものすごく同情の目を向けられている。居た堪れないけど気にしたら負け。
曖昧に微笑んで軽く頭を下げると、より一層笑みを深められてしまった。良心が痛む。
それにしても時告げの町、か。素敵な名前だなぁ。
町の中に入ったちょうどその時、少し低めの鐘の音が響いた。
重厚な響きだ……ちょっと好きかも。
見上げていると、町の中心にある時計塔がこの町のシンボルなのだとロッテさんが教えてくれる。
なるほど、だから時告げの町か。
「コトリさん。大岩の件で報告に協力してもらうことになりますから、新しい身分証はこちらで発行しておきますね。書類の記入はしてもらうことになりますが」
「いいんですか!? 助かります!」
マルコさんにそう言われ、思わず声が大きくなっちゃった私を見てクスッと微笑まれてしまった。
やめて、これ以上私の良心を痛めつけるのは。
でもこれは運がいい。身分証なんて最初から持ってないし、ここで作ってもらえるのなら本当に助かるもん。
そういえば私のステータス、運だけが良かったもんね。こういうところで発揮されるのかもしれない。
それから、私は三人に連れられてギルドへと向かい、別室であれこれ報告に協力した。
とはいえ、私から言えたのは「マッチョな袖なし執事が大岩を粉々にした後、気付いたらいなくなっていた」ということだけ。
あれは私の執事なんです、とは言えないし言ったとしても「は?」ってなるだけだしね……!
あまり力にはなれなかったというのに、三人ともすごく感謝してくれて、私の良心がさらに痛んだのは言うまでもない。ほんと、本当にごめんなさいね……!
「さて、この町に知り合いがいるって言ったけど……一応これを渡しておくよ」
「え? ……えっ!? これってお金じゃ……!」
「こんだけあれば二日くらいは宿に泊まれるし、食うにも困らないだろう? それまでに連れと合流できればそれでよし、できなくて困ったらまたおいで。いつでも力になるからさ」
「さすがに受け取れませんよっ!!」
良心が痛むどころの騒ぎではないんですが!!
もしステータスで私の良心ダメージが見られたら、今頃ゼロ張り切ってマイナスだよぉ!
「困ったときはお互い様。使わなかったらそのまま返しにきたらいいし、必要だったら気にせず使えばいい。その代わり、いつか誰かが困ってたらコトリが助けてやんな」
「ロッテさぁん……!」
あっ、人の優しさに触れて涙が。
ここまで言われちゃったら受け取らないわけにはいかない。
実際、執事召喚をしたところでお金は持ってないわけだし……。
ああそうか。生きるにはお金がいる。稼ぐ方法も考えなきゃいけないね。現実に戻った感じ。気を引き締めなきゃ。
私は改めてロッテさんたちに向き直り、深々と頭を下げた。
「なにからなにまでお世話になって……本当にありがとうございました!」
「気にすんな! 当然のことをしたまでだ」
「そうですよ。これが僕たちの仕事でもありますし」
「いえいえ! 必ず借りた分はお返ししにきます!」
「余裕が出来てからでいいよ。あたしたちはこのギルドにずっといるからさ」
ロッテさんたち、マジ神っ!
これは早いところお金を稼ぐ手段を得て、借りた分をおまけ付きで返さなきゃ。
というわけで、ギルドを出た私は早速今日の宿を探すことに。
といっても、おすすめの宿もショーンさんから教えてもらったんだけどね。
「いらっしゃいませ! お泊りですか?」
「あっ、はい」
ドキドキしながら宿に入るとすぐさま元気なおかみさんに声をかけられ、しどろもどろになりつつ宿泊手続きを済ませた。
一泊銀貨五枚で、宿泊する人は食事を銀貨一枚で食べられるのだそう。食事のみの利用だと一食につき銀貨二枚。
んー、執事を召喚すれば美味しいご飯も食べられるとはいえ、この世界の普通を知っておきたいところだよね。
無駄遣いするのもよくないので明日の朝食だけ頼んでおくことにした。
「ふー、やっと一息つける」
部屋に案内され、ドアのカギを閉めてベッドに腰掛ける。
客室はとてもシンプルで、ベッドと机に椅子のみ。
お風呂に入るという文化はなさそうだなぁ。水浴びとか? むむ、日本人としてはなかなか厳しい。
「なんて贅沢言ってる場合じゃないね。もっとこの世界のことを知らないと、今後のことを考えるどころじゃないよ」
まずは執事召喚だ。移動の間にすっかり魔力も回復したことだし、今の魔力なら途中で1回復することも考えて一時間半は召喚し続けられる。
もちろん召喚するのはアレクサンダーだ。もしかしたら他に世界についての説明が得意な執事がいるのかもしれないけど、必要魔力がどの程度かもまだわからないからね。
それに、すでに慣れた相手のほうが今は落ち着ける。
「執事召喚、アレクサンダー!」
だいぶ召喚にも慣れてきた。大げさに喜び打ち震えるアレクサンダーにも。
「ああっ、コトリ様はいつもこの私を欲してくださるのですね! この! 私を!」
「誤解を招くような言い方はやめよ?」
見目麗しいくせに自分の体を抱きしめるようにそんなことを叫ばれると台無しだな……。
「というか、あまり大きな声を出さないでね? 一人分しか宿泊費払ってないんだからっ」
「密談ですね? かしこまりました……!」
「だからいちいち誤解を招くような発言やめよ?」
さてはこの執事、わざとやってる? 無駄に色気が駄々洩れだし!
ええい、綺麗に微笑むな。……なんかうさん臭く見えてくるし。
最初はもっと丁寧で忠誠を誓ってます! って雰囲気だったけど……慣れてきたのか本性が出始めてない?
ねぇ、アレクサンダー。貴方は本当に私の絶対的味方、なんだよね? 信じるよ?




