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スキル「執事召喚」でコトリは異世界を優雅に歩く  作者: 阿井りいあ
一章

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7 ギルド職員さんに言い訳しよう


 かなり視界がクリアになったことで、向こう側にいた人たちの様子が見えるようになってきた。

 男の人が二人と女の人が一人、かな。何か言い合いをしているみたい?


「な、なにが起こったんですか!?」

「さっきのマッチョがやったってのか!? あり得ねぇだろ!」

「だからそれしかないって言ってんでしょ! 慌てふためくんじゃない!」


 女の人が強ぉい……。立ち姿からしてなんかカッコいい。

 騒いでいた男の人二人がしゅんと縮こまっている。

 私もうっかりつられて縮こまってしまった。


 どうしよう、近付くタイミングを失っている。

 戸惑っていると女の人のほうがこちらに気付いて声をかけてくれた。


「森側にいた女性ってあんたのことだね! こっちおいで!」

「あ、はいっ」


 緊張しながらも小走りで向かうと、女の人は私に目を向けた後にきょろきょろ辺りを見回した。


「あれ、あのマッチョはどこに?」


 あっ、やっぱりそうくるよねー。

 でもバリーのおかげでちゃんと言い訳ができる。 


 良心は少しだけ痛むけど、しれっと嘘を吐いてしまおう。


「砂ぼこりがすごかったので、私もどこへ行ったのかはわからなくて」

「ふぅん。不思議な男だったね。助けてもらったんだから詳しく話を聞きたかったのに」


 詳しい話なんて聞かれても困るので、そうですねー、と相槌を打っておく。ごめんなさいね。

 今こそ、先生の前でだけ優等生っぽく振る舞うスキルを使う時だ。


「あんな大岩を一瞬で壊すほどの力を持った人なんて、高ランクの冒険者か名のある武人でしょうね。せめて名前だけでも聞きたかったのですが」

「笑い飛ばしちまったことも謝りたかったんだがな……」

「それはあたしも同じさ。どうせ出来やしないのに変なヤツだと勝手に決めつけてしまったからね」


 バリーが言ってたように、本当にいい人たちっぽいね。自分の態度を反省出来る人ってのはなかなかいないし。


 バリーが繋いでくれた縁だから、うまいこと言って町まで連れて行ってもらいたいところだ。


「それで、あんたはどうして森に?」

「あー、それは……」


 しまった。その辺は考えてなかったよ。

 適当に相槌を打つだけならまだしも、あんまり嘘を吐くとボロが出かねない。んー、なんて答えればいいんだろう。


 彼女たちのいる町から森へはしばらく行けなかったんだからそこから来たとも言えないし、他の町からなんてもっと遠い。その間、ずっと森にいたのかって話になる。

 急に転移されたなんて話が通じるのかもわからないし、この世界の常識はまだ学んでいる途中。


 詰んだ……?


 私が困ったように言い淀んでいると、女性は急にハッとなって声を潜めながら私に耳元で囁いた。


「もしかして……ゴブリンかオークに連れ去られてたのかい?」

「えっ」

「ああ、言わなくていいよ。怖い目に遭ったね。見たところ無事なように見えるけど……まだ手を出される前に逃げ出せたってところか?」

「あっ、えっと。そんな、感じです……」


 なんかよくわからないけど、とりあえず肯定してみる。するとものすごく気遣わしげな目を向けられてしまった。

 っていうか、ゴブリンやオークなんてファンタジー生物もいる森だったんだね……。魔物がいるのはわかっていたけど、ますます異世界っぽさを実感するなぁ。


「きっとその恰好が奴らを惑わせたのかもしれないね。森に入る時は男の格好をしろって推奨されてるんだけど、信じないで嫌がる女が多くてね。あんたは賢いよ」


 しかし続けられた話に、私はとんでもない恐怖で震えた。


 なんでも彼女が言うには、ゴブリンやオークは人間の見分けがあまりつかないらしく、殺したり穢したりする前に女かどうかを観察するところから始めるという。

 人間を攫った後は集落の一か所に集めて、男女を判別する作業が間に入るんだって。

 その際、スカートを着ているとすぐに女だと判断されてあっという間に穢されるのだとか。だから女であっても森に行く時はパンツスタイルが良いと言われているそうな。


 異世界、シビアすぎる……。


 知りたくなかったような、教えてもらえてよかったような複雑な気持ち……。

 もし一人の時にゴブリンやオークに出会っていたら……ひぃ、考えたくもない!


 べ、別の角度から考えよう。今の私の格好がそこまで浮いた姿じゃなくてよかったって感じで!

 異世界の服は変、って感じで浮いたらどうしようとは思ってたしね!


 そんなことより、誤解のされ方がちょっとアレだけど、どうにかなったのなら次の手を打たないと。


「あの、ご迷惑でなければ一緒に町まで連れて行ってもらえませんか?」

「もちろんさ! あたしはロッテ。冒険者ギルドの職員なんだ。大変な目に遭ったお嬢さんを一人残していったりしないよ」


 ロッテさんはニカッと笑って快諾してくれた。笑うと可愛いらしい人だな。


 それにしても冒険者ギルドか。ファンタジーといえば、って感じ。町に行くのがちょっと楽しみになってきたかも。


 密かにワクワクしていると、男の人二人も近付いて声をかけてくれた。

 まず口を開いてくれたのはちょっとぼさぼさな茶髪をした男性で、右腕がたぶん……義手の人。


「同じく、俺も職員のショーンだ。元は冒険者だったんだが、この腕だ。今は引退してこき使われてる」

「普段はそこまで忙しくないでしょうが。今回は大岩のせいでドタバタしたけどさ。それも解決したじゃない」


 ロッテさんの明るいツッコミが入った。仲が良さそうだ。こういう職場だったら楽しく働けそうだね。

 するとそこへ、小柄で眼鏡の男性が口を挟む。


「解決してないですよ! 大岩を破壊した謎の人物についてあれこれ聞かれますよ、きっと……。あっ、僕はマルコといいます。同じく職員です」


 なんか苦労性っぽい人だ。勝手なイメージだけど。

 おっと、皆さんが自己紹介をしてくれたんだから私も名乗らないとだよね。


「私は恋鳥といいます。えっと、すみませんが町までよろしくお願いします」

「コトリね。町にはなんの用で?」

「えっと……知り合いが、いるので」

「なるほどね。んー、あのさ。悪いんだけど町についてから少し時間をもらえない?」

「時間、ですか?」


 何か変なことを言ってしまっただろうかと思いながらヒヤヒヤしていると、ロッテさんは苦笑しながら教えてくれた。


「大岩を破壊したマッチョについての証言がほしいんだ。目撃者はここにいる四人しかいないからね。協力してもらえない?」


 なーるほど。ロッテさんたちは冒険者ギルドの職員だもんね。調査とか報告とかが必要なのだろう。


「わかりました。協力します。……あまり答えられることもないですけど」

「よかった! それでもいいんだ。ありがとうね」


 よし。猫かぶりモード継続かな。うまく誤魔化せるといいんだけど……!


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