6 力こそパワー!
メモを終えるまで大人しく待っていてくれたバリーに改めて向き直る。放置して申し訳ない。
……と思ったけど、振り返った先で私が見たのは彼が木の枝に足を引っかけて逆さになりながら腹筋している姿だった。わぁ……。
「バリー、お待たせ。改めてお願いしたいことがあるんだけど」
「おっ、出番ですかい!?」
私が声をかけるとバリーはそのまま木から足を外し、半回転して地面にズドーンと音を立てて着地した。
アレクサンダーがいちいち大げさな執事なら、バリーはいちいち豪快な執事だな……。
「あの大岩をどかしてほしいんだ。あれのせいでこの先の町に行けないの」
「ほほぅ、これはなかなか良い大岩。腕がなりますなぁ!」
大岩に良いも悪いもあるんだ。一般人の私には何もわからないよ。
「して、この大岩は粉々にしてもいいんですかい? それとも形はそのままでどこかへ?」
「えっ、それはたぶんどっちでもいいと思うけど……。もし大岩の向こう側に岩の撤去をしに来ている人がいるなら、その人たちに危険がないようにしてもらいたいかな」
事も無げにそんなことを言ってくるものだから私のほうが戸惑っちゃう。
とにかく安全第一は守りたいと思って言ってみたけど……こんなに大きな岩の向こう側の状況なんてわかんないよね。
大人数で騒いでいたり、岩を撤去しようと大きな音を立てていたらわかるんだろうけど、そういった音は聞こえないからどうだろう?
私みたいにこれをどうしよう、って話しているだけだったら人がいるかどうかなんて……。
「ふむ、大岩の向こう側には人が何人かいるようですな」
「わかるの!?」
「へい。気配がしますからな!」
「すごいね、バリー!」
「そうですかい? へへっ、褒められるってのは嬉しいもんですなぁ!」
照れるバリーがちょっと可愛い。大げさに喜ぶ執事ばっかり見てたから新鮮でもある。
でもそっか。向こう側にも人がいるんだ。
……異世界で出会う最初の人では!? 執事はほら、精霊の枠に入るからさ。
どんな人たちなのかわからないし不安もあるけど、接触しないという選択肢はない。
バリーが帰ったらしばらく待たないと執事召喚できないし、それまで独りぼっちにならないためにも出会っておきたい。
あわよくば町まで連れて行ってもらいたい!!
「突然バリーが岩を破壊したら驚かせちゃうかな。どうやってどかすのか聞けたらいいんだけど……」
「おっ、そんなら俺が聞きにいってきやすぜ!」
「えっ!? あっ、待っ……うわ、大岩に登った!?」
やることなすこと豪快すぎる。あと、ちょっとばかり話を聞かずに突っ走るところがあるっぽいな。
まぁでも、最初に接触してくれるというのならそのほうが安心といえば安心だけど。
……急に大岩を超えてマッスルが現れたら、それはそれで驚かせてしまうのでは。
心配したって仕方ない。というかもう遅い。
すでにバリーの姿は見えないし、今頃は向こう側の人と対面しているはず。
……うっすら驚いた声が聞こえた気がしなくもない。なんかすみません。うちの執事が。
待つこと数分。召喚出来る残り時間を考えて私がちょっと焦り始めたころ、上からバリーが降ってきた。
降ってきた!?
大岩の上まで来てから飛び降りたのだという。びっくりするからやめてほしい。
「向こう側にいるのは町の代表で来たって言ってましたぜ。ギルドの職員とかなんとか。壊せるものならやってくれと鼻で笑われちまいました!」
わっはっはと豪快に笑うバリーは気にしてないみたいだけど、なんかちょっと嫌な感じの言い回しだな?
いや、でも考えてみれば急に現れたマッスルがこの岩をどうにか出来るとか言われてもそう簡単には信じられないか。
ただの筋肉自慢が馬鹿言ってる、って私でも思ってしまうだろうし、鼻で笑うくらいはしてしまうかも。
「少し離れて待っててくれって言っときましたんで、今から岩を割ります。コトリ様も離れていてくだせぇ」
「えっ、うん。わかった。バリーもケガをしないように気を付けてね」
「……心配なんてしてくださるんですかい。こりゃあ、良いご主人に出会えたなぁ。へい、気を付けやす!」
アレクサンダーを見てるし、ステータスからも執事がすごいってことはわかってるけど、心配してしまうのは別の話だよ。たったそれだけで良い主人なんて思われても、複雑だなぁ。
なんて思いながら、バリーと大岩から数メートルほど離れて待機した。
「いきやす! どっっっせぇぇぇぇぇいっ!!」
「ひゃ、あ……!」
バリーは両足を開いて腰を低くすると、力を溜めて思い切り右拳を突き出した。
その瞬間、ものすごい衝撃音と爆風が起こり、砂ぼこりで辺りがなにも見えなくなる。
ねぇ、それパンチなの? ねぇ本当にただのパンチなの!?
砂煙で何がどうなったのかよく見えない。もう少しだけ収まるのに時間がかかりそうだ。
バリーは大丈夫かな? どうにか見えないだろうかと身を乗り出した時、背後から声がかけられた。
「コトリ様」
「ひゃおうっ!」
「お、驚かせちまいましたね。すいやせん」
いつの間にか私の背後に来ていたバリーに心臓がバックバクだ。はー、驚いた。
「俺がここにいられるのもあとわずかです。向こう側の人たちには、気付いたらいなくなってた、と言ってくだせぇ。向こう側で困ってる女性がいるって話はしておいたんで」
「え? あ、そっか。私のスキルって珍しいんだもんね。あんまり知られないほうがいいか」
「まぁ、最初は隠しておくのが無難でさぁ。あとはあっちの人たちと一緒に町に向かうといいですぜ。悪い人たちではないようですから」
バリー、あなたなんて思慮深いの……!
これなら私も「何もわかりません」で押し通せるし、魔力回復まで独りぼっちという状況を解消出来る上、町まで一緒に行ってもらえるかもしれない。
「いろいろとありがとう、バリー。また力を貸してね」
「いつでもお呼びくだせぇ! コトリ様ならいつだって歓迎ですぜ!」
ニカッと笑った時のバリーの白い歯が眩しい。それにしても良いヤツ!!
そろそろ砂煙も収まるし、向こう側にいた人たちの声も聞こえてきた。
私は視界がハッキリする前にバリーを送還すると、意を決して人のいるほうへと足を踏み出した。
第一異世界人とのファーストコンタクト、緊張するーっ!
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パワー執事
名前:バリー
外見年齢:30代前半くらい
身長:2メートルは超えてそう
必要魔力:7
金髪ツンツンで筋肉ムキムキのでっかい人。袖のない執事服シュールすぎ。
力こそパワーって感じ。常に筋トレしてそう。
戦うというより、盾役か働き手として召喚するのが良いとのこと。
豪快に笑う明るい人。迫力のあるマッスルさんだけど、優しくて気が利く。助かる。




