5 執事召喚、力自慢!
一体どんなアイデアが出てくるのかと思ったら、思わぬ言葉を聞いてぽかんとしてしまう。
「新しい、執事……?」
「そうでございます。私はスタンダード執事ですから、あらゆることを平均以上にこなせます。しかしながら、何かの能力に突出しているわけではありませんので」
アレクサンダーが説明を始めてくれたけど、私は少しだけ混乱状態だ。
執事って、アレクサンダーだけじゃないんだ……?
いや、よく考えなくてもスキルの説明に最適な執事を召喚、みたいなことが書いてあったっけ?
アレクサンダーも、我々って言ったり執事によって違う的なことを言ったりもしてたな……。
わけわからないことだらけで、なんとなく理解してればいっかー! ってスルーしてた。
説明書もサラッとしか読まないタイプだからね、私。けど、自分の能力のことなんだからしっかり読んで、聞いて、理解しなきゃダメですね! ……反省。
でも、そっか。召喚する時に名前を呼ばれてやたらと嬉しそうだったのは、他にも執事がいるからだったんだ。自分が選んでもらえた、って喜んでいたんだ。
……正直に言ったらアレクサンダーがショックを受けるかもしれないので黙っておこうっと。
「執事には得意分野が偏っている者が多くいるのです。よく言えば才能特化型、悪く言えばそれ以外はポンコツ」
「酷い言い草すぎる」
幸い、アレクサンダーの説明はわかりやすい。私に理解しやすい言葉を選んでくれているのかもしれないな。
それなのになんとなくで聞いていてごめん。これからはしっかり説明を聞きます。本当に!
「さすがの私も大岩を撤去することは叶いません。しかし力に特化した執事であれば……?」
「撤去できるほどの力持ちってこと? え、そんなに? だって町の人たちが大勢で協力しても数日はかかりそうなんでしょ?」
「問題ありません。執事ですから」
「さっきも言ったけど、執事ってそういう存在だったっけ?」
「ああ、それと。力特化は戦いにはあまり向いてませんよ。盾役や力仕事を頼むといいでしょう」
「……うん、もういいや。そういうものだって受け入れるわ」
深く考えたら負けな気がしてきた。
ま、まぁ、問題が解決出来るならありがたいことだしね。執事だからってことで納得してしまおう。
しっかり聞くと決意したばかりでなんだけど、考えすぎてもよくわからないことは時間の無駄になる。そういうのも大事ってことで。
「今の私の魔力でも召喚出来る?」
「もちろんでございます。レベル1の状態でどの執事でも一度は召喚出来るように設定されていますから」
「設定」
「一番コストのかかる執事で8……いえ、9ですかね。これから呼ぼうと思っている力特化の執事は私よりも魔力が必要、とだけ」
「コスト……へ、へぇ? 意外と親切設定だね。でもそっか。力に特化しているとアレクサンダーよりコストがかかるんだ」
「単純に体の大小や、秘めた力の大きさで変わってきますからね。ちなみに最もコストのかからない執事は1ですよ」
「1もいるの!?」
それはなんてローコスト。でもそれってどんな特化型の執事になるんだろう……?
いろいろ試したい気持ちはあるけど、今は目の前の問題を解決するのが先決だよね。
それに、用もないのに気になったからってだけで呼ぶのはなんとなく申し訳ない気もするし。
「今すぐ力特化の執事を早速召喚したいところだけど、まずは大岩のある現場に行ったほうがいいよね? レベルアップしたとはいえ、私の魔力じゃまだ時間制限があるし」
「なんと思慮深い。コトリ様は天才ですね……!?」
「大げさだなぁ……」
というわけで、はやく召喚したい気持ちはあるけどまずは現場へ向かうことにした。
なぜか道を知っているアレクサンダーに案内してもらい、歩くこと十数分。
少し前から大岩は見えていたけど、目の前に立つとこれはすごいな……。
小さな渓谷というだけあって、両側は岩肌に囲まれているから、大岩というよりもはや道のど真ん中に現れた壁って感じ。
高さは四メートルくらい……? 両サイドにある岩肌の壁はもっと高く、ちらっと木々の緑が見える。
あの上からこっちを見下ろしたらわかりやすく崖になっているのだろう。怖そう。
そんなことよりも。
「……これを本当に撤去出来るの?」
「ええ、彼なら簡単に」
ニコニコしながら答えるアレクサンダーを今は信じるしかない。
っていうか、もしチャレンジして無理だったとしても、復興するのを待つだけだもんね。一助になれたらその分はやく通れるようになるかもしれないし。良いことしかない!
「えーっと、召喚する時に必要なものを想像するんだったよね」
あの時はまさか、他の執事も召喚出来るとは思ってもみなかった。
単純に、自分に合う執事を召喚出来るだけだとばかり思ってたから。
そういえば、名前を呼んだほうがちゃんと召喚出来る気がするっていう感覚があったけど、あれは思っていたのと違う執事を召喚してしまうリスクを軽減するためだったのかもね。
私はそれをなんとなく察知していたのかな。スキルの力? 勘ってやつ? よくわからないけど。
さて集中、集中。初めて召喚する執事なんだから、しっかり想像しておかないと。
力に特化した執事、力持ち、力自慢……。よし!
「執事召喚っ!」
右手を前に突き出し、右手の甲と足元に紋章の描かれた魔法陣が現れ、光り出す。
地面からゆっくりと姿を現していく新たな執事。
金色のツンツンした髪、筋骨隆々とした体、褐色肌で……す、すごく大きい。
そして私の目を特に引いたのは、その執事服だ。
「袖のない執事服、シュールすぎる……」
なんか筋肉が多すぎると、普通のTシャツも着てられないって聞いたことがある。そういうことなのかな。
……動きにくいなら執事服じゃなくてもいいのに。
もっと気になるのは、右上腕部に刻印された私の紋章だ。
そんなに厳つい見た目をしているのに可愛い紋章が入れ墨かのごとく刻印されている……!
アレクサンダーと違ってかなり目立つんだけど!? は、恥ずかしい! なんか包帯とか巻いて隠したいっ!
「召喚、ありがとうごぜぇます! 俺はパワー執事のバリー。力仕事はなんでもお任せくだせぇ! ご主人!」
「は、え、あっ、はい! 私は恋鳥です。名前で呼んでもらえると、助かります……」
「コトリ様ですね! 合点承知!」
パワー執事だというバリーは、威勢よく返事をしながら上腕を見せびらかすようにポージングをしてみせた。
うん、逞しいね。マッソゥ……。
「コトリ様。新しく召喚した執事はまずステータスを確認すると良いですよ。そうすると、頼めることなども自然とわかるように——」
「あっ」
バリーを見上げて呆けている私にアレクサンダーがアドバイスしてくれたんだけど、その途中で消えてしまった。
なんで!? 延長で一時間は留まるはずだったのに……って、いや違う。
その間に私はバリーを召喚したから、残りMPは3だ。延長できない。ぐ、ぐぬぬ……!
仕方ない。バリーのステータスを見つつ、やることを早くやってしまおう。これでバリーまで時間切れになったら意味がないもんね。
ふんふん。へー、なるほど。力特化だ。
でも力自慢なはずなのに、私よりずーーーーっとMPが多いの、なんかずるい。
い、いや。精霊だもんね。人間より基本的に能力は上なんだよ、きった。
私が弱すぎるってわけじゃ……ない、はず。
……気にしたら負け!
よし、メモしておこうっと。
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【バリー】
タイプ:パワー
HP:80000/80000
MP:200/200
攻撃力:S
防御力:S
素早さ:E
賢さ :C
器用さ:E
運 :E
【コトリ・アサウミ】Lv.2
HP:22/22
MP:3/15
攻撃力:F
防御力:F
素早さ:E
賢さ :C
器用さ:D
運 :A
知ってた。私がまだまだやっぱり弱いってこと、知ってたよ! ……ぐす。




