49 いろんな趣味の人がいるのはたしか
この先の町に行くのならその前に良い場所がある、と言うアレクサンダーに連れられ、今、私は永遠に続くんじゃないかと思える坂道を登っている。
町からは離れていってるし、アレクサンダーは一体どこへ連れて行こうとしているのだろう。
ずっと呼び出さなかった復讐かな? と疑い始めた頃、アレクサンダーが元気に口を開いた。
「あと少しですよ、コトリ様! ここ! ここにきて見て! 早く!」
あまりにも無邪気。そんな顔もするんだ……?
なんだか私も楽しみになってきたので、最後の力を振り絞って小走りで向かう。
連れて来られたのは小高い丘の頂上。
視界が急に開けて、風がぴゅうと私の髪を揺らした。
「わ、ぁ……!」
眼下に広がる町並み、それがまるで一枚の絵画のようだった。
ただの町ではない、これは……!
「カラフルすぎる! 可愛い~っ!!」
建物の屋根や壁が青や黄色、赤やピンクなどとてもカラフルで、まるで海外に町に来たかのよう。異世界だから海外みたいなもんだろうけど。
それでいて色がうるさいわけでもなく、ごちゃごちゃして見えないのがすごい。
真っ青な屋根とか、オレンジの屋根とか、パステルカラーのピンクの壁とか……メルヘン~!
「そうでしょう。これから向かう町は『彩の都』。ご覧の通り、あらゆる色で溢れているのです」
「へぇ~~~、彩の都か。名前までおしゃれ」
「町中ももちろん美しいのですが、入ってから見る前に町を一望出来るこの場所からぜひ見ていただきたくて」
「それ、大正解だよ! 感動が違うっ! うわぁ、本当に素敵! 可愛い! 綺麗っ!」
これは頑張って坂を登ってきた甲斐があるというものだ。アレクサンダーの英断っ!
それにしても良い眺め……。結構大きな町みたいだね。
カラフルな建物の合間に屋台が並ぶ通りや少し開けた広場とか、あとは町はずれには畑や果樹園のようなものも見える。
えーっ、この町いいかも。こういうところに住んでみたい!
あとは環境がどうか、が問題だけどね。いくら外観がよくても、近所に住む人と合わないみたいなことになったらさすがに長居はしたくないし。
……そもそも、この町はミハイルさんの領地みたいだし。ちょっと気まずさはある。
でも、屋台の通りや果樹園には行ってみたいな。時間が取れるといいんだけど。
「今度さ、ここでピクニックでもしたいね。今はお茶でお腹がいっぱいだけど」
「む、ではその時はぜひフェイビアンをお呼びください。最高なティータイムが過ごせるでしょう」
「んー、それもいいけど」
たしかにフェイビアンのお茶をここで飲めたらさぞ高貴な気分を味わえるだろう。
それはそれでやってみたいけど、一番やりたいことは少し違うんだなぁ。
「町の名産とか買ってさ、呼び出せる限りの執事を呼んでみんなでワイワイしたいな」
昔、家族としたみたいに。
大きなレジャーシートを敷いて、お弁当を広げてさ。あの時はお花見だったな。
ここはお花見という場所ではないけど、良い景色を眺めながらお弁当を食べるという点では同じだ。
この世界での、私の家族のような存在となった執事たち。
親交を深めるためにも、そういう機会があってもいいかなって思ったのだ。
今の私だと、全員と同時に過ごせる時間は一時間くらいだけど……ちょっと過ごすにはちょうどいいよね。
それか、せっせとレベルを上げるか。こっちはまだ先が長そう。
どれだけいるかもわからないし、それまでにレベルが上がるかもわからない。
だから一時間程度でも、みんなで楽しむことをこの町での目標にしようっと。
「やりたいことが出来て楽しみだなーっ! もう少し休憩してから町に入ろうか」
「かしこまりました。時にコトリ様」
「うん?」
「ヒンギス家への訪問のことは覚えていらっしゃいますよね?」
「…………覚えてるよ」
「間がありましたね」
覚えてるよっ! 失礼な!! さっきだってふと過ったし!
……はぁ。ミハイルさんの領地なんだよな〜……これから行かなきゃいけない貴族の。
「嫌なことはさっさと終わらせるに限りますよ。さっさと訪問して借りを返し、あとは自由に過ごされては?」
「借りを返すって……言い方に悪意を感じるなぁ。渡されちゃった救難信号の魔石を返すだけじゃん」
ま、こんな高級品をずっと持っているのも怖いし、早く返しに行くのは賛成。
マナーのほうは最低限は身に着いた、と思いたい。フェイビアンからしたらまだまだだろうけどね。
「ただ、一つ心配がございます」
「心配? 何?」
「例のミハイルという男……コトリ様を諦めないかもしれません」
「どゆこと? え、あっ、まさかアレクサンダーまでエミルみたいなことを言うの? あはは! ミハイルさんが私みたいな平凡な女を相手にするわけないじゃん!」
「甘いっ!!」
「うわ、びっくりした」
急に大きな声を出さないでよ、もう。
「コトリ様の自意識が底辺なのはわかりますが、そういう問題ではないのです。良いですか? 世の中にはあらゆる趣味の者が存在します。一般的に美人を好む傾向が高いのはそうかもしれませんが、中には変わり種を好む者も一定数いるのですよ!」
「私のこと変わり種って言ってる?」
そりゃあ自分が美人とか可愛いだなんてまったく思ってはいないけど、変わり種って言い方は……くそっ、妙にしっくりくる!!
「そうではございません。世の中に絶対はないと申し上げているのです。いつ、どこで、誰が、どんな相手に執着するかなどわからないのですよ。時には性別や年齢も超えてきます。人類、恐ろしいですね!」
「あー、まぁ、それはそう」
「ですから、あり得ないと一蹴せず、危機感をお持ちくださいと言っているのです!」
「危機感、か。……たしかに私、まだ平和ボケしているかもしれない」
「ご理解くださったのならよかったです」
ふん、と鼻を鳴らしながらピッと上着を引っ張るアレクサンダーは満足したように息を吐いた。
……そんなに私、危なっかしいボケボケ小娘に見えるのかなぁ?
アレクサンダーの得意げな顔を見てるとなんか悔しいけど、気にはしておこうと思います。はい。




