48 ほんの数日でもすごく久しぶりな感じ
フェイビアンにマナーを教えてもらえることが決まったところで、そろそろエミルを執事界に帰してあげようと思う。
旅に同行者がいるとなかなか帰還させてあげられないからね……。エミルには随分お世話になっちゃった。
当の本人はこの先もずっと一緒にいますよ! と張り切ってくれていたけど、子どもをこれ以上働かせるのは私の良心が抉れる。
ありがとうね、また呼ぶからねと何度も声をかけて頭を撫でたことで、しぶしぶエミルは執事界へと戻って行った。
そんなに働くのが好きなのかなぁ? もしくは、私のことが大好きって思ってくれてたりして? なんて都合が良すぎるか。
でも、少しは好かれていると思いたい。もちろん私はエミルが大好きだ。可愛すぎる。
今日の授業はおしまいということでフェイビアンも帰還してもらい、久しぶりに完全に一人の状態に。
……うん、心細い。
すぐ呼ぼう、今呼ぼう。というわけで!
「執事召喚、アレクサンダー!」
呼び慣れた名前だけどちょっと久しぶりな気がしてドキドキする。
あのうるささも、いなきゃいないで寂しいものだ。早く会いたいとすら思うんだから不思議だよね。
光り輝く魔法陣から隙のない佇まいでアレクサンダーが現れる。
挨拶しようと口を開きかけた時、私よりも先にアレクサンダーが言った。
「おや、コトリ様。しばらく見ない間にずいぶんと姿勢が美しくなりましたね。私がしばらく見ない間に」
「拗ねるじゃん……」
めちゃくちゃ拗ねてる。口が尖ってるもん。
しかし本人は認めない。わかっていた反応ではある。
「いーえ? 拗ねてなどおりませんとも。たった数日間、呼び出されなかっただけですし? 私のような平凡な執事などなんのお役にもたてませんし?」
「すごく拗ねてるじゃん!」
「いいんですよ、私は。コトリ様が幸せでいてくださるなら別の男と過ごしてくださっていても構いません! 別の! 男と!!」
「言い方ァ!!」
よよよ、と言いながら流れてもいない涙をハンカチで拭うアレクサンダー。
すごい、呼び出した瞬間からツッコミが止まらないよ!
久しぶりのノリが少し楽しいのと、拗ねてくれたのがなんだか嬉しくて顔がにやけそうになる。
しかし、ここでにやけた顔を見られようものなら何を言われるかわかりきっている。
私は心の中で落ち着けと自分に言い聞かせると、アレクサンダーの顔を下から覗き込みながら告げた。
「ごめんって。思いがけない同行者がいたから呼べなかったんだって何度も言ったでしょ?」
「何度もお聞きいたしましたし、別に気になどしておりません」
「んもー」
まったく、困った執事だ。大きな子どものようだよ。エミルより子どもっぽい。
もしくは面倒くさい彼女のような反応だ。ええい、誰が彼氏だ。
仕方がないけど、メインで呼び出す約束をしているくせにしばらく呼べなかったのは事実なので、どうにかご機嫌取りを頑張ろう。
「ずっと頼りにしてるよ、アレクサンダー」
「……コトリさ」
「エミルもフェイビアンも、アレクサンダーよりおいしいお茶や料理を出すけど、アレクサンダーが用意してくれるお茶や料理も庶民的で落ち着くし」
「あまり褒められている気がしませんねぇ……台無しでございます、コトリ様。せっかく感激いたしましたのに」
「冗談だよ」
冗談にしたほうが、アレクサンダーだって気まずくならないでしょ? 主人なりの気遣いだよ!
でもさ、実際にアレクサンダーはあまりにも普通の執事なのだ。
いや、精霊という時点で普通ではないんだけど、召喚執事の中で特別得意な何かがあるわけではない、という意味で。
戦闘に関してはチャズがいるし、力だってバリーに頼るほうが早い。
走る速さと陽気さはドムがナンバーワンだし、エミルとフェイビアンなら二人揃って呼び出してもアレクサンダーを一人呼び出すのと同じ消費魔力。
加えてお茶や食事もアレクサンダーより美味しいものを提供出来る。
まだ呼び出していない執事たちも特化しているものがあって、それらはアレクサンダーをはるかに凌ぐ腕前なのだろう。
そしてその事実を、アレクサンダーは最初から知っているのだ。受け入れてもいる。
だから始めはどうせ最初のうちだけだと少しやさぐれていたのかもしれない。
今も、約束はしたけどいつまた呼び出されなくなるかと不安に思っているのかも。
ただの勝手な推測だけどね、そんな気がするのだ。
「アレクサンダーはなんていうか、家族みたいな枠なんだよね」
「か、ぞく……?」
「そう。気兼ねなく、一番私らしくいられる相手ってこと。だからもう呼び出さなくなるなんてことはないよ。絶対」
「ぜったい……かぞく……」
どうしたら安心させられるのかはわからない。
でも思っていることは伝えてあげないと意味がないからね。
アレクサンダーは家族。家族は特別何かをしてあげたり、してもらったりしなくても縁が切れることはないんだよ。
まぁ、事情のあるご家庭もあるのだろうけど、私にとってはそういうものだ。
「嫌だった?」
笑ってアレクサンダーの顔をさらに覗き込むと、しばらく黙り込んでしまった。
あれ、本当に嫌だった可能性……?
と思ったら、アレクサンダーは急に顔を上げて大きな声を張り上げた。
「さぁ! 本日は私に何をお求めで!? お茶ですか、お食事ですか、ご入浴ですか!? それとも身体ですか!!」
「ええい、変なテンションになるんじゃない! どれも違うっ」
照れ隠しかな? 照れ隠しだな?
ま、気付かなかったフリをしてあげよう。せっかく元気を取り戻してくれたんだしね!
「もうすぐ町に着くでしょ? 宿を取った後に行かなきゃいけない場所があるんだ」
「ああ、確か貴族のお屋敷でしたっけ? コトリ様をいやらしい目で見るという貴族の」
「執事界では何がどう伝わってるの……? さてはエミルだな?」
執事界で私のことをどんなふうに話しているのか気になるところだ。いや、聞きたくはないけど。
「とにかく! やっと次の町に着くからさ、エスコート頼むよ、アレクサンダー!」
「おっまかせください! 完璧にこなしてさしあげますよーっ!」
「ええい、やっぱりうるさいな、アレクサンダー」
けど、それがアレクサンダーだ!




