41 旅はまだ始まったばかりなのに
異世界に来て早半年近く。
石橋を叩いて渡るタイプの私はしっかり下準備をし、レベルも上げたところで初めて訪れた町を旅立った。
ふふふ、そうなんんだよ、レベルを上げていたんだよ、実は!
だってさ、出来れば一日中執事を呼び出しておきたいじゃない? せめて半日くらいは気にせず召喚し続けたい。
その上で、いざという時に他の執事も呼び出せる余力もほしい。
というわけでコツコツ頑張ったんだよ。といっても召喚しまくっただけなんだけど。
その結果、私のレベルは三つほど上がった!
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【コトリ・アサウミ】Lv6
HP:32
MP:73
攻撃力:F
防御力:F
素早さ:E
賢さ :C
器用さ:D
運 :A
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祝! レベル6!!
魔力成長率5倍の特性を持っているおかげで、こんなに増えたよ! 10しかなかったあの頃と比べるとかなり違う。
次は100を越えるかな? そうなったら一日中召喚も夢じゃなくなりそうだ。消費魔力の少ないエミルならすでに出来るしね!
召喚中も少しずつ魔力が回復はするし、他の執事でも出来る日は近いと思う。
これはいよいよ本格的に新しい執事を召喚していくフェーズに入ったかな?
タブレットの説明書きによると、まだ召喚してないのは四人。次の町について宿が決まったら一人新しい執事を呼んでみようかな。
それよりも何よりも、今は旅路に集中しないとね。ご利用は計画的に。
次の町までは、徒歩で一週間くらいかかるという。
乗合馬車を使えば少し時間も短縮できるし、楽に移動出来るとは聞いていたんだけど……他の人がいると執事を召喚出来ない。
そうなると道中の食事が簡素なものになってしまうのだ。旅の間のメニューを聞いて少し顔が引きつっちゃったもん。
干し肉と乾燥野菜を使ったスープに固いパン。しかもほぼ毎食同じ、というね。
贅沢に慣れきった私に突然その生活を送れと言われても、早々に病む自信がある。
わかってるよ! 甘ったれだって!
でも仕方ないじゃんっ! 執事が出してくれる料理が美味しいんだからさぁ!!
というわけで、とても疲れるし時間もかかるけど、美味しい食事には勝てないと結論付け、徒歩での移動を決めたのだ。
それからは地図を買ってロッテさんたちに安全な道順を聞き、何度も脳内シミュレーションした。
まぁ、私がそんなに頑張らなくてもアレクサンダーや他の執事たちがこの世界のことを熟知しているのでナビゲーターになってくれるんだけどね。
でもほら、いつ召喚出来なくなるような事態に陥るかわかんないし、頼りっきりになるのもちょっとな、って。
人間、甘えることに慣れ過ぎたら簡単にダメ人間になるんだから。
すでになりかけているけど最後の一線は守りたい。
「よし。この辺りの道はしばらく安全なんだよね。というわけで。執事召喚、エミル!」
いつものように右手をかざすと、手の甲に私の紋章が浮き上がる。
目の前の地面にも同じ紋章が現れ、光を放ちながらエミルが現れた。
「コトリ様! お呼びいただきありがとうございます!」
「ようこそ、エミル~! 今日も可愛い!」
「え、えへへ……」
照れるエミルも大変可愛い。ふぅ、すでに癒された。
ここまでずっと一人だったから少し心細かったんだけど、その寂しさが一瞬で消えた。さすがは癒し専門キュア執事だ。
正直言うと、旅をするのにエミルはあまり適任ではない。
もちろん執事なので私よりはずっと強いけど、中堅冒険者くらいの強さしかないので強い魔物が出てきたら即アウト。
それでもエミルを呼び出したのは、これこそが彼の望みだったからだ。
面接をした時に一人一人に聞いた望み。
エミルは「三日に一回は召喚されて、コトリ様と一緒にいたい」という可愛すぎる望みだったのだ。
鼻血が出るかと思ったね。尊い。可愛い。天使すぎる。叶えるに決まってる。むしろ毎日呼びたい。
アレクサンダーも似たような望みだった。あれはあれで可愛かったなぁ。執事たちは本当に私の心を潤わせてくれる。
「しばらくは退屈な時間が続くから、呼び出してちょっと申し訳ないんだけど」
「そんなことありません! コトリ様がボクの望みを叶えてくれて、すっごく嬉しいんですよ! それに、退屈ならなおさら呼んでほしいです。たくさんお話出来ますから……」
「うぐっ」
「コトリ様!?」
尊さで命の危機を感じる……!
私にも弟がいるけど、エミルの弟ぶりは異次元だ。
実際の弟ってやつは生意気さが際立つからね。もちろん可愛いことに変わりはないけど。
「もしや、ご不安ですか? やっぱりボクじゃ頼りないですよね、すみません……」
「そんなことないよ! すっごく頼りにしてる! 私よりずっとずっとエミルのほうが強いんだから」
しょんぼりするエミルも可愛……じゃなくて、これは本心だから。小さな魔物でさえ私には倒せないし危険なのだ。
すぐさまフォローを入れると、エミルの顔がパァッと輝きだす。あっ、眩しい……。
「お任せくださいっ! ボク、精一杯コトリ様をお守りしますからねっ!」
「ありがとう、ありがとう、ありがとう……」
「なぜ三回も!?」
両拳を作って張り切るエミル……しかも私を守ろうと意気込むのほんと、本当に……。
いかん、いかん。ここは比較的平和な街道とはいえ、いつどこから魔物が来るかわからないんだから。
何かあった時にいつでもすぐ対応できるように気を引き締めないと。
ちらっとエミルに視線を向けると、気付いたエミルがこちらを見上げてニコッと笑う。
さっきから可愛いしか思ってない気がするけど仕方ない。可愛いっ!!
「あれ……? なんでしょう。コトリ様、ボクの後ろにっ」
「え? え? 何?」
突然、エミルが真剣な声色で告げると、私の前に守るように立った。ひぃ、可愛い……。
ええい、いい加減にしろ私! ただならぬ雰囲気なんだから、ちゃんと状況を把握するっ!
「何かあるの?」
「よくはわかりませんが、何かがこちらに向かって来ている感じがします。結構なスピードで……もしかすると魔物かもしれません」
「ひえ、どうしよう。逃げられそう? それともエミルは相手出来そうかな」
「戦って勝つのは難しいです。でも逃げるだけなら……あっ」
「何!?」
エミルがひと際大きく声を上げたので私も視線の先に目を凝らす。
まだよく見えないけど……少し影のようなものは認識出来た。
「馬車です! 馬車が魔物に襲われているみたいです!」
「ええっ!? それって緊急事態ってこと?」
「そう、ですね。でもコトリ様の身の安全が第一なので、逃げたほうがいいです」
エミルがキュッと私の手を握ったので私の胸もキュッとなる。
……だからそういう場合じゃないんだってば。
しかし、誰かが危険な目に遭ってるのがわかっていて、逃げることしか出来ないのは心苦しい……。
というわけで、私の取る選択はこれだ!
「チャズを呼ぼう。エミルは私と一緒にいてくれる?」
「! はいっ! コトリ様のことはボクが守るっ」
「ぐは……っ! よ、よし! じゃあ早速! 執事召喚、チャズ!」
旅立ってからまだほんの少ししか経ってないというのにイベント盛りだくさんだなぁ、もう!
二人とも、お願いしますよーっ!!




