40 さぁ、異世界旅を始めよう
この町に来て、数カ月。
採集や解体もかなり上手に出来るようになって、宿代の支払いと日用品の購入くらいなら出来るほど安定して稼げるようになった。
まぁ、食事代がかからないっていうのが大きいよね。
いまだにアレクサンダーや他の執事たちがいつもどこから食事やお菓子やお茶を用意してくれているのか謎。
いつも聞こうと思って忘れちゃうんだよ。
たぶん、私もそこまで知りたいと思っていないのかもしれない。そんなものか、って思っちゃうのが私の悪い癖かもね。
けれど、その謎は意外なところで判明することとなった。
「そろそろ違う町に行こうと思うんだ」
「左様でございますか。では旅の支度ですね?」
「うん。ただ、この町に滞在している間に服とか物が増えたからどうしようかと思ってさ。いくつか捨てるか売るかしないと大荷物になっちゃうよね……」
「なりませんよ?」
「え?」
腕を組みながら荷物とにらめっこしつつ話していると、アレクサンダーが軽い調子で言うので思わず振り向く。
「コトリ様の荷物なら、執事界に保管しておけますから」
「……便利!!」
そうか、執事界に置くという手があったのか……! これは盲点。全然気づかなかっ……あ、ちょっと待って。
「もしかしてさ、これまでどこからともなくいろんな物を出してくれてたけど……まさか、過去の主人の持ち物だったり……?」
「おっしゃる通りでございます」
「それこそ勝手に使ってよかったの!?」
「もちろんです。むしろ引き継いでいただかなければ無駄になりますからね。我々が使うには気が引けますし」
「それはっ……まぁ、そうか」
相続、みたいな感じかな?
知らない間に会ったこともない遠い縁者の財産を引き継いでしまった時ってこんな気持ちなのかもしれない。
ちなみに食材関係は時間が経過しない倉庫のような場所に保管しているのだそう。
なんだそれ、めっちゃ便利。だからいつでも出来立ての料理が食べられたんだ……!
そしてお金も……! は、はわわ……!
ドムがどこからともなく取り出したマントも、昔の主人が使っていた服だったのかな。
ってことは、歴代の主人の誰かがバスルームを作ったってことだよね? マジ神。最高。
「ってことは、私があまり好き勝手に食べたり消耗していたら、いつかなくなっちゃうよね?」
「それはそうでしょうが、恐らく一生かかっても使いきれないと思いますよ」
「ど、どれだけあるの……? あ、いや、聞かないでおく」
私が今こんなにも優雅な異世界生活を満喫出来ているのは、代々の主人のおかげだったってことか。
より感謝して日々を過ごそう。そして私も元の世界に帰る前に次の主人のために何か残しておきたいところだ。……先は遠そうだけど。
とにかく、荷物問題は解決したってことだよね。
ならあとは……ロッテさんやショーンさん、マルコさんに挨拶しつつ、次に向かうのにおススメの町とか道中のことを聞いてこよう。
あとはエテルナにも挨拶出来たらいいなぁ。実はあれ以来、会ってないんだよね。
なにかあったのかなって心配だけど……わざわざ素材屋を探して会いに行くっていうのもどうなんだろうって尻込みしている。
なーんて考えていると、遭遇したりするものだよね。
「コトリー!」
いよいよ出発、という朝。
結局会いに行くこともなく、ちょっとした心残りに後ろ髪を引かれていた時、聞き覚えのある声が私を呼んだ。
驚いて振り向くとそこには予想通り、エテルナの姿があった。
「エテルナ! ……と、カイト?」
そしてカイトの姿も。
ど、どういう状況だろうこれは。
しかもカイトってば、前に見た時のような動きやすい適当な服ではなく、きちんとした作りのお洒落な服を身に纏っている。
どことなく執事っぽく見えるのは気のせいだろうか。気のせいということにしたい。
そんなカイトは、エテルナが口を開く前に一歩前に出ると、私の前で直角に腰を折った。な、なになになになに!?
「コトリさん! あの時は本当に申し訳ありませんでした!!」
「え、どうしたの、これ。怖い」
謝罪されたのだということはわかったけど、豹変ぶりについていけない。
会わなかった間にいったい何があったというのか。
私が目を白黒させていると、エテルナが照れたように頬を搔きながら教えてくれた。
「うーん、わかりやすく言うと……調教?」
「やだ、もっと怖い」
「なんでよ。コトリが言ったんでしょ? 嫌なら私好みに変えてしまえばいいって」
「私は良い男になってもらいなって言っただけだよ、誤解を招くようなこと言わないでくれる?」
要するに、エテルナはあの時に話していたことを実行に移したということだ。
カイトが自分のことを好き、という情報を巧みに使って脅し、甘え、飴と鞭をうまく使ってここまで矯正したのだという。
詳しくは聞かない。怖い。
と、とにかく、旅立つ前に会えてよかったよ。
それに安心もした。この二人がなんとかなりそうでさ。
「コトリが旅立つって、実は聞いてたんだ。だから今日、見送りに行こうと思って」
「そうなの? もっと早く会いにきてくれたらよかったのに。私が言えたことじゃないけど」
「んー、あんなことがあった手前、ちょっと申し訳ない気持ちがあってさ。コトリだって、気まずい思いがあったでしょ?」
「ま、まぁ」
だからこそ、カイトをしっかり調教するまで会うのはやめようと決めていたのだそうだ。
そこへきて、私が旅に出るという話を聞いて慌てて来てくれた、と。
なんかありがたいな。カイトは急ピッチで躾られて大変だったかもしれないけど。
「寂しくなるね。でもさ、いつかまたこの町にも帰って来てよ! あと魔導伝言板にメッセージ書いてね」
「あー、あれか。わかった」
冒険者ギルドの魔導掲示板は二種類あって、一つは依頼受付、もう一つは伝言板になっている。
この伝言板はどこの冒険者ギルドからでも見ることが出来るのだ。ギルドカードに登録されている番号を登録すれば、伝えたい相手にだけ伝言を残せるからかなり便利。
まぁ、私はまだこの町しか知らないので使ったことはないけど。
使う時はまたアレクサンダーに聞こうと思う。だって今聞いたってどうせ忘れるからね。
最後に、異世界で初めて出来た友達と別れの挨拶をし、ハグをした。
ハグの文化はないからちょっと照れ臭かったけど……悪くない。
「元気でね、コトリ。それと、ドム様と仲良くね!」
「だからそれは誤解だって……あー、もういいや。またね、エテルナ」
何を言ってもエテルナの妄想の手助けにしかならなそうで諦めたよ。まったくもう。
よし、これで心残りもなくなった。心機一転、新たな旅路への第一歩だ!
町を出て、しばらく街道を進む。
それから森のほうへと逸れていき、周囲に誰もいないことを確認。
「そろそろいいかな。旅のお供は必要だよね! 執事召喚、アレクサンダー!」
さぁ、異世界旅を始めようか。
これにて一章はおしまいです。
次回からは毎月曜21時の定期更新になります。
引き続きお付き合いくださいませ!




