37 思い出して軽くホームシック
可愛い可愛いエミルに癒されまくっているけど、まずは助けてくれたお礼を改めて伝えるべきだよね。
おどおどした様子で立つエミルをにこにこしながら眺める。何度見ても可愛い。じゃなくて!
「エミルは治療に特化した執事だったんだね。おかげですっかり良くなったよ。本当にありがとうね」
「い、いえ! お元気になられてよかったです!」
「それとごめん。ベッドまで運んでくれたんだよね? 重かったでしょ……?」
「そんなことありません。コトリ様は羽のように軽かったです!」
「ぐふ……」
「コトリ様! 人にお見せ出来ないほどにやけておられます!」
う、うるさいやい、アレクサンダー!
しかしどこでそんな上手な言い方を覚えたんだ、エミル。お姉ちゃんはそろそろ心臓が持たないよ!
改めてエミルを観察する。
なんかさ、このくらいの男の子を見ていると弟を思い出すんだよね。エミルみたいな美少年ではないんだけど。
「あのさ、エミル。嫌なら嫌って言ってほしいんだけど」
こんなお願い、本来はダメかもしれないけど……一応聞いてみる。
「少しだけ、ハグしてもいいかな?」
「えええっ!?」
「ごめん! ねぇ、アレクサンダー! これってセクハラ案件かな!?」
「エミルも執事ですので。ご主人様のご命令とあらば喜んで引き受けると思いますよ」
「職権乱用してるじゃん、それ! っていうか私、スケベおやじみたいなこと言ってる自覚あるもん!!」
「ならばそんな要望をおっしゃらなければよいのでは?」
っくー! 正論!
本当にそこまでやましい気持ちはないんだよ? 弟じゃないから多少のやましさはあるけど。それから背徳感も……それ感じる時点でアウトかもだけど。
「うーんとね。私にはさ、少し年の離れた弟がいるの。それがエミルと同じくらいの年頃でさぁ。ちょっと……懐かしくなっちゃったんだよね」
まっ、そんな私の事情なんてどうでもいいよね。自己満足のために無理させたくないもん。
はい、この話は終わり! と思ったら、エミルがおずおずと腕を広げているではないか。
「どうぞ、コトリ様」
「え、でも」
「ボクはキュア執事。外傷や病だけでなく、コトリ様のお心も癒す存在です。それに」
エミルはそこで言葉を切ると、頬を赤く染めてプルプル震えながら言った。
「ボク自身がコトリ様とギュってしたいので! ……あっ、執事の分際でそんなこと言ったらだめですよね! ごめんなさい!」
かっわ。なんだこの可愛い生き物……。
っていうか優しすぎない!? 普段は胡散臭いアレクサンダー、昨日まではやたらうるさいドムと一緒にいたからか余計に優しさが沁みるよ!
いや、別に二人が優しくないわけじゃないんだけどさぁ!
「……ううん。嬉しいよ、エミル。じゃあ、少しだけいいかな?」
「はい!!」
エミルの言葉が本当か、気遣いゆえの嘘かまではわからない。でも好意は伝わったのでありがたくハグさせてもらう。
エミルの背中に手を回し、優しくギュッと抱きしめると、エミルも控えめに抱きしめ返してくれた。
「エミルの髪はふわふわだねぇ。背格好も、素直で優しいところも、弟と似てるなぁ。あ、でも弟のほうがちょっと生意気だけどね」
この遠慮がちな力の入れ具合も弟っぽい。
この世界に来る直前のあの子は、家族よりも友達優先って感じの年頃でさ。ハグしようとすると照れるようになってたっけ。
『ねーちゃん、急に抱き着くのやめてよ!』
『えー、いいじゃん。お姉ちゃんは弟が可愛くて仕方ないんだよぉ』
『うー……』
『でも、そうだよね。鷹臣だって年頃だもん。こういうスキンシップは嫌だよね。ごめん』
『べ、別に……いっ、家の中だけなら、いいよ……?』
『んもーっ! そういうところ、大好きっ!』
『うわぁっ!?』
生意気だけど優しくて可愛いんだよね~。自慢の弟なのだ。
自慢、の……。
「あ、れ……?」
なんか、涙出てきた。一度溢れると止まんなくてボロボロと次から次へと流れていく。
「う、うぅ~~~……」
「コ、コトリ様……?」
「ぐすっ、ごめん。エミルに弟を重ねたりなんかして。ほんと、最低だよね」
ホームシックってやつだ。これまで我慢してたのが、一気に溢れちゃったって感じ。
もう、女子大生にもなってこんなことで泣くなんて。しかもエミルみたいな子どもに縋りついて泣くなんて情けなさすぎ!
本当、召喚したばっかりでずっとエミルに迷惑をかけ続けてるよね。不甲斐ない。
「そんなことありません! コトリ様の心が軽くなるのなら、いくらでもボクを利用してください!」
しかも優しい~~~! 良い子~~~!!
けど、それに甘えるわけにはいかないよ。いくら本人がいいっていってもそれは違う。
私はエミルの身体を離し、グイッと袖で涙を拭った。
「ううん。弟は弟だし、エミルはエミルだから」
「っ、そう、ですよね……図々しいことを言いまし──」
「だからさ、エミルはもう一人の弟みたいに思っててもいいかな?」
一瞬だけ落ち込んだように見えたエミルだったけど、私の提案を聞いてパッと表情を明るくした。
誰かの変わりなんて、誰にもなれないんだよ。
あなたはあなたで、私は私。
これから新しく関係を作っていくんだからさ。
「コトリ様ぁ……! はい、もちろんです!!」
ふふっ、やっぱり可愛いなぁ。この世界でも弟が出来るなんて夢みたいだ。
これからたくさん愛でよう。そうしよう。
ところで……。
「ちょっと、何一人で優雅にお茶なんて飲んでるの、アレクサンダー」
「いえ、美しいやり取りだと感動しまして。ただ眺めるのはもったいないと」
「私たちのやり取りをお茶請け代わりにするんじゃない」
まったく、わざとらしくハンカチで目元なんて拭って。出てないじゃん、涙なんて一滴もさぁ!!
ちなみに、エミルの紋章は胸元にあった。どこにあるのか探していたら、エミルがおもむろに胸元のボタンをはずして見せてくれたのだ。
鼻血を出す寸前だったよ。いやはや、君は最も危険な執事かもしれないね!
これからよろしくね。私の新しい弟執事!
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キュア執事
名前:エミル
外見年齢:10歳くらい
身長:132㎝
必要魔力:2
ピンクのふわふわくせ毛がとっても可愛い。女の子に見紛うほどの美少年ぶり。
素直で優しく、文字通り癒し系で身も心も癒してくれる。魔法が得意みたい。
少し自信がなさげでいつもおどおどしている。エミルはすごい子なんだよってたくさん言ってあげたい。
いつか一緒に寝るのが夢だけど、さすがにアウトかなぁ。




