36 知らずに召喚! 新執事!
なんか、身体がだるいなぁ。
そう思いながらゆっくり身体を起こす。
「うー、昨日はいろいろあったからぁ……疲れが残ってるのかも……ぉ」
のろのろとした動きでベッドから下り、立ち上がる。
けど、どうも調子がおかしい。昨日は宿でゆっくりお風呂に浸かって早めに休んだんだけどな。
「んー? 部屋が、回ってる……?」
あ、これってもしや。私の目が回ってる?
ゆるゆるとした動きで腕を上げ、額や首筋に手を当てる。
……熱い。これは、発熱ってやつだ。
えー、いつぶりだろう。健康にはそこそこ自信があったんだけどなぁ。
ひとまず水を飲んで、もう一回寝ようかな。そう思って水差しに手を伸ばした時、急に視界が真っ暗になる。
「あ、やば……」
そのまま耳も聞こえなくなり、血の気が引いた。
次に気付いた時には目の前が床で、自分が倒れたのだということがわかった。
熱が高いからか、意識が一瞬途切れたからか、倒れた時の痛みを感じない。
これは、ちょっとまずいかも。
「執事、を……」
誰でもいい、せめて水を飲ませてほしい。
ついでに手を貸して……。ベッドに、行かなきゃ。
「執事、召喚……」
誰でもいい。誰か……。
薄れゆく意識の中、目の前にいつもの魔法陣が現れ、誰かが現れる。
「お呼びで……っ! 大丈夫ですかっ!?」
良かった。召喚は出来たっぽい。
そのことに安心したのか、私の意識はフェードアウトしていった。
◇
「あ、れ……?」
どれくらい寝ていただろうか。気付けば私はベッドの上にいて、熱もなんだか下がっているような気がした。
ベッドの近くにはタオルと着替え、水差しとコップが用意されている。
それから起きた時に食べられるようにだろう、フルーツの乗ったお皿があった。これはありがたい。
「アレクサンダーかな? また迷惑かけちゃったみたいだね」
しゃくしゃく、とリンゴをかじりながら一人呟く。
たぶん魔力が切れて帰還してしまったのだろう。つまりそのくらいたくさん寝ていたということだ。
むむ、お世話されていた記憶がない。ちゃんとお礼を言わないとね。
リンゴを全部食べ終え、水を飲み、身体を拭いて着替えを終える。
うん、だいぶスッキリした。朝のだるさが嘘のように身体が軽く感じるよ。
自分のステータスを確認すると、魔力も半分以上は回復している。
どんだけ寝てたの私? 窓の外を見ればもう暗くなってるし、ほぼ丸一日寝てたってこと……?
一度も目覚めなかった自分が恐ろしい。
その割に喉が渇いてないから、本当に甲斐甲斐しくお世話してくれていたんだろうな。
とにかく、目覚めたことを知らせるためにも召喚しないとね! そう思って早速、私はアレクサンダーを呼び出した。
「お呼びいただきありがとうございまーす! おや、どうやらすっかりよくなられたようですね。ご気分はいかがですか?」
「おかげさまでだいぶいいよ。アレクサンダーだよね? またいろいろと迷惑かけたみたいでごめんね」
相変わらずのテンション感でやってきたアレクサンダーにお礼を言うと、予想外の返事がきた。
「私ではありませんよ?」
「えっ? 違うの!?」
どうやら、倒れている私を解放してくれたのはアレクサンダーじゃないらしい。
ええっ!? じゃあ誰が私を助けてくれたの? たしか、召喚は成功したと思うんだけど……。
困惑する私に、アレクサンダーがついっと指さして冷静に教えてくれた。
「ええ。タブレット端末を確認してみてください。新たな執事のステータスが乗っているかと」
「そっか! すぐ確認する!」
意識朦朧としていたから、誰を召喚したのか確認さえ出来なかったんだね、きっと。
アレクサンダーは新たな執事って言ってた。つまり、これまで召喚した執事でもないということだ。
うわぁぁぁ、せっかく新しい執事を呼ぶなら、きちんと挨拶したかったのに!
こんな酷いファーストコンタクトはないよね。謝らなきゃ。というか、お礼を言わなきゃ!
慌ててタブレットを開く。一体私はあの状態でどんな執事を召喚したというのだろうか。
「えーっと、キュア執事……?」
なんか華麗に変身して悪と戦ってそうな女の子たちみたいな名前の執事だな……。
ステータスを確認してみると、MPが以上に高く、体力が低いのが特徴的だった。
攻撃力も防御力もないけど、運がSと最高レベル。器用さや賢さも結構高いみたい。
「キュアっていうくらいだから……治療、的な? あっ、私が熱を出したから、それを治すために特化した執事を召喚したっぽい?」
「それはもう一度召喚して確かめてはいかがですか? 彼、コトリ様にずっと会いたがっていましたから」
「えっ、そうなの?」
「ええ。ようやく彼のことを話せそうで私としてもひと安心です」
これまではどの執事でも対抗心を燃やしていたアレクサンダーがそんなことを言うなんて珍しい。
よし。まだ魔力はあるし、呼び出してみよう。
「……執事召喚!」
まだ名前を知らないから、キュア執事を思い浮かべて召喚する。
いつも通りに魔法陣が出てきて、そこからゆっくりと執事が姿を現していく。
「え、わ」
淡いピンク色のふわふわの髪、透き通るような空色の大きな目。
露わになった太ももとベルトで繋がった白のハイソックス。
小柄な体躯に、愛らしい蝶ネクタイ。
「お、お呼びいただき、ありがとうございますぅ。あの、ボク、エミルって言います」
「かっわ」
可愛い。めちゃくちゃ可愛いショタがいる。
ねぇ、これ合法? こんな子どもを執事として働かせていいわけ? まだ十歳くらいに見える美少年なんだが?
「あの、あの。お加減はいかがですか? お治しするためにずっと熟睡し続けていたかと思うんですが……疲れてないですか? ボク、ちゃんと治せていましたか?」
「うん。あのさ、エミル。少しいい?」
「え? あ、はい」
キュッと両手を胸の前で握り、おどおどとした様子のエミルを私は真剣な眼差しで見つめた。
不安げに揺れる瞳がまた綺麗だ。
「ちょっと私のこと、お姉ちゃんって呼んでくれない?」
「へっ!? いや、あのっ」
「コトリお姉ちゃんって! ね? お願い!!」
「えーっと、そのぉ」
エミルが困ったようにアレクサンダーに視線を向けたのがわかった。アレクサンダーはにこりと微笑むのみだ。
よしよし、余計なことは言うんじゃないぞ、アレクサンダー。
「コ、コトリお姉ちゃ……うぅ、あのっ、コトリお姉さま、はダメですか?」
「ぐふっ」
「コトリ様ぁ!?」
あまりの尊さに胸を押さえ呻く。
慌てて私に駆け寄り、心配そうに顔を覗き込んでくるのもヤバい。これは、本当に、ヤバい。
「あ、新しい扉が開きそう……」
「それは開けてはならぬ扉ですね、コトリ様。どうかお閉めください」
「善処します……」
ニコニコと微笑むアレクサンダーに言われ、どうにか答える。
えーーーーーっ! だって! エミル、可愛すぎでしょぉぉぉ!?
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【エミル】
タイプ:キュア
HP:50
MP:100000
攻撃力:F
防御力:E
素早さ:C
賢さ :B
器用さ:A
運 :S




