35 試合終了、たぶん?
エテルナからの容赦のない言葉を浴びせられ、カイトはもはや虫の息だった。
同情は……しなくもないけど自業自得だしなぁ。などと思っていたら急にカイトがガバッと立ち上がってこっちに向かってきた。
……こっちに向かってきた!?
あれ、なんかすっごい私のこと睨んでない? なんで!?
「っていうか! お前だろ! 変な入れ知恵しやがって!!」
「えっ、私ぃ!?」
「昨日もエテルナと一緒にいたじゃねぇか! お前意外に考えられない!」
なんで急にそんな責任転嫁……と思ったけど合ってるな? エテルナに入れ知恵したのは確かに私だ。
カイトめ、意外と鋭いじゃん。馬鹿扱いしてごめん。
「お前さえっ、いなければ……!」
「え」
そんな呑気なことを考えている場合じゃなかった。
気付けば目の前にカイトがいて、拳を振り上げている。
こ、これは、私……殴られるやつ!?
反射的にギュッと目を瞑って身体を硬直させ、衝撃に備えた。
だけど、いくら待っても何も起こらない。
不思議に思って恐る恐る目を開けると、私の目の前にはドムの背中があり、カイトの拳を掴んでひねり上げているところだった。
あの距離をこんな一瞬で!? と思ったけど、そうだドムは俊足だった。
「痛ぇぇぇぇっ! 痛っ、お前っ、離——」
「おい、お前」
ぽかんとしてその様子を見ていたら、ドムの背中から低い声が聞こえてくる。
え、これ本当にドムの声? 陽気で、高めで、明るいいつもの声とはとても思えない。
「オレの大切な人に、なにしようとした?」
「ひっ」
あっ、怒ってる。それはそうか、執事として守るべき主人を殴ろうとしたんだもんね、カイトは。
けどこれはいけない。ドムは精霊でカイトは人間。
ドムの攻撃力はDであまり強くはないけど、それは執事基準だからであって、人間基準でいくとかなりのゴリラだ。
いくらカイトが愚か者でも、傷害事件に発展するのはよくない。
というわけで、私はそっとカイトの背に手を当てると静かに告げた。
「ド、ドム、ありがとう。でもいったん落ち着こう?」
「でもっ」
「お願い」
「……うぃっす。わかったっす」
素直な子でよかったよ。
ドムはすぐにカイトから手を離すと、口を尖らせながら数歩下がった。
「最低っ! 女の子に暴力を振るおうとするなんて!」
「嫌われて当然よ!」
「女の敵っ!!」
そんな中、カイトには非難の声が集中する。主に女性から。
地面に座り込み、呆然とするカイトのHPはもうゼロよ!
と、言いたいところだけど。さすがに手を上げられそうになったからね。
ここらで私も言ってやろうと思う。
「あのさ、この際だから言っちゃうけど。カイト、あんたエテルナが好きなんでしょ?」
「なっ!?」
「……え?」
私の言葉に、カイトだけでなくエテルナも驚いた声を上げた。
カイトは顔をみるみる内に真っ赤にしていたけど、もう見てらんないんだもん。
素直にさえなれば、こんなにこじれたりしなかったんだから!
「好きな子相手に素直になれず、脅すようなことばっかり言って。子どもなの?」
「な、な、何を馬鹿なことっ! 別に俺はエテルナのことなんか……」
「好きじゃないの? 違うんだ。なら話しは終わり。二度とエテルナに近付かないでね。なんの関係もない危険人物、友達に近付かせられないよ。はい、解散―」
「まっ、待てっ……!」
この期に及んでまだそんなことを口走るなら、話はおしまいだ。
手をパンパンと打ち鳴らしていると、ようやくカイトは慌てだした。
「そっ、そうだよ! 俺はエテルナが好きだよっ!! 悪いか!」
「悪い。そして遅い」
「んなっ」
ふん、まだそんな態度を続けるっていうのならハッキリ教えてあげるよ!
第三者で、君たちの問題にはまったく関係のないこの私がね!
私は人差し指をビシッとカイトに向ける。
「あんたの好きはただの押しつけ! 自分の気持ちばっかりで、エテルナのことをなんにも考えてない」
「お、俺は考えて……」
「考えてない。エテルナが今どんな気持ちなのか。何が好きで、何が嫌なのか。エテルナの口から話すのをちゃんと聞いたことがあるの? 自分に都合のいい解釈をして知った気になってるだけじゃない」
ぐっと言葉に詰まって口ごもるカイト。
私は最後に彼を見下ろしながら言ってやった。
「弱いところを見せるのがかっこ悪いとか思ってるのかもしれないけど。自分より弱い子の前で吠えて、従わせようとするほうがよっぽどダサいから!」
周囲から拍手が沸き起こる。
……注目、集めちゃったなぁ。私は少し離れたところから様子を見るだけの予定だったのに。
ふぅ、落ち着け。私が怒って冷静になれなくてどうするの。
小さく深呼吸を繰り返していると、エテルナが駆け寄ってきてくれた。
「……コトリ、ありがと」
「別に……っていうか、しゃしゃり出すぎた。ごめん」
「ううん。友達って言ってくれて嬉しかった!」
エテルナのはにかんだ笑顔に少し救われた気持ちだ。
どう考えても余計なお世話だったけど……少しでもエテルナの助けになれたならいいかな。
……あれ? なんかこれってさ、ドムを呼んで面倒なことを頼む必要なんてなかった、か?
ま、まぁいいか!
そうこうしている間に、カイトがゆらりと立ち上がって無言で立ち去っていくのを見た。
ふらふらとした足取りで、そうとうショックを受けているのがわかる。……あれ、大丈夫かな。
「どうしよ。私が好き勝手言ったせいでカイトが逆上したりしたら」
「そこは大丈夫。両親にも話すし、今日見てた人もたくさんいるからね!」
たしかに味方は多そうだ。特に女性たち。
両親にもちゃんと相談するというのなら大丈夫、かな?
「本当にありがとう、コトリ! それと……お幸せにね」
「へ……?」
カイトが去ったことでそろそろ解散の雰囲気が漂い始めたころ、帰り際にエテルナから耳打ちされる。
お幸せにって……どういう意味?
「もー、わかってるよ。ドム様と恋人同士なんでしょ?」
「……はぁっ!? なんでそうなるの!?」
「照れなくたっていいよー。私がドム様好き! って言ってたから、黙っててくれたんだよね? 気を遣わせちゃってごめんね!」
「いや、あの」
「オレの大切な人、だなんて言われちゃってさー。んもう、ドム様ったらコトリにベタ惚れじゃん! さすがに私だって入れないよ」
頬を両手に当てて夢見る乙女モードになっているエテルナ。
もうどこからつっこめばいいいのかわからない私。
「私は私でちゃんと考えるからさ! また懲りずに遊んでよね! じゃ、ドム様と仲良くねーっ!」
走り去るエテルナの背をただ見つめてしまう。
とんでもない誤解をされてしまったな……?
けど、思い返してみれば勘違いされてもおかしくはない状況だった。
ちらっと隣に立つドムを見上げるも、両手を頭の後ろで組んでよくわかていない様子。
うん、君はそのままでいておくれ。
「? なんすか? コトリ様」
「ううん、なんでもない。なんか、色々ありがとね、ドム」
「オレちゃん、お役に立てたっすか!?」
「とってもね。はぁ、どっと疲れちゃったな」
両手を上げてうーんと伸びをする。
肩も凝った気がする。これが気疲れってやつか……。
「それならオレちゃんが、コトリ様のお好きなバスルームを出してあげるっすよ!」
「ん、ありがと。じゃ……宿に帰ろっか」
「うぃーっす! あ、抱っこするっすよ☆」
「しないからね」
なにはともあれ、どうにか乗り切れたかなー?
ただ、私は心に決めたよ。
たとえ絆されても、もう二度とこんな面倒ごとには首を突っ込まないんだからね!!
うっ、お風呂に入りながら一人反省会だっ!




