33 穴だらけの作戦でGO!
翌日、私は冒険者ギルドの前でエテルナを待った。いつもは私を待ってくれているので逆パターンだ。
当然、エテルナは驚いたように目を丸くしている。
「あれっ、約束してたっけ?」
「してないよ。ただ、今日は会わせたい人がいてさ。ちょっと待ってて」
制限時間いっぱい使えるように、エテルナと会ってから召喚しようと思って。
私はささっと人気のない路地に向かうと、こそこそドムを召喚した。
昨晩、次に召喚した時は静かに出てきてねとお願いしたから大丈夫だろう。
「いぇーい! オレちゃん、参じょ、むぐっ」
「お馬鹿っ!!」
大丈夫じゃなかった。ご機嫌すぎる。
慌ててドムの口を押えて睨みつけると、ようやく思い出したのかドムはハッとなって自分の両手で口を押さえた。
「申し訳ねっす」
「……以後気を付けて」
「うす」
ドムに約束ごとは少し早かったようだ。
でも執事服を隠すために上から大きなマントを着てるから及第点だ。アレクサンダーが被せてくれた可能性もあるけど、結果オーライ!
「コトリ!? 今なんか声が……」
「あっ、エテルナ」
大丈夫だったかな、と周囲を見回すその前に、路地にエテルナが駆け付けきてしまった。
私が向かった先で陽気な声が聞こえたら気になるよね、私でも様子を見に行っちゃうよ。
ま、まぁ召喚している場面を見られたわけじゃないから大丈夫だろう、うん。
さて、エテルナの反応は……。
「ド、ドドドドドドム様ぁぁぁ!?」
「おっと、お触りは禁止っすよ、お嬢さん」
「そんなぁ! 先っちょだけでも!」
「エテルナ、それ以上はいけない」
本人を前にして変態性が増したなぁ……。
鼻息荒く手をわきわきさせるんじゃありません、年頃の乙女が。
「昨日、エテルナと別れた後に偶然会ったんだよ。それで、ちょっと時間をくれないかってお願いしたんだ」
「最高、大好き、もう何でもします、コトリ神様」
「神格化しないでもらえる?」
ひとまず興奮するエテルナを落ち着かせ、ドムとは数メートルの距離を取らせてから話を切り出す。あんまりのんびりもしていられないからね。
今の私の魔力でドムを召喚し続けられるのは一時間半程度なので。
「昨日の話を聞いてさ、私としてもあんまりだなって思ったんだ。だからエテルナ、一度カイトにがつんと思い知らせてやろうよ」
「えっ、カイトに?」
「ドムはさ、別にエテルナの恋人になってくれるわけじゃないけど、カイトの女性への扱いには思うところがあるみたいで」
「女性に優しく出来ないのは男として、人としてどうかと思うっす!」
「やだ、ドム様ったら……顔だけじゃなく性格も紳士っ」
エテルナったら、今はドムが何をしてもときめくフェーズに入っている……。
ま、まぁいい。話が早ければそれで。
「えーっと。これだけ素敵な男性ががつんと言ってやれば、カイトも少しは反省するんじゃないかなって思って」
「なるほど……? でもなんでカイト? 私の両親じゃなくて?」
「あー……」
当然の疑問だね。エテルナはカイトに好かれている自覚がないんだもん。
普通だったら、結婚話の説得はまず両親だ。
とはいえ、ドムを恋人として紹介することが出来ない以上、変えるべきは結婚相手として一番可能性の高いカイトの意識。
この先、エテルナがカイトと結婚する未来があるのかどうかはまだわからないけどさ、もしそうなった時に今後ずーっとうざったいカイトの相手をしなきゃいけないのはかわいそうだからね。
それもこれも、カイトが素直にならないのが悪い。
エテルナだって、好意を向けられてるって知れば少しは意識するかもしれないのに。
……これ、言っちゃダメだよね? いくら嫌な奴でもさすがにカイトの気持ちを第三者が明かすわけにはいかない。
言いたい気持ちをグッと抑え、私はそれっぽい理由を並べ立てた。
「だってさ、このまま相手がいなかったらカイトと結婚するかもしれないんでしょ? だったらせめて、カイトに良い男になってもらわなきゃ」
「なんて新しい視点なの……? 考えたこともなかったよ。そっか、嫌なら相手の性格を変えてやればいいのか。私好みに」
「こ、好みに出来るかは、その、人によると思うけど」
「顔も変えられないかな……カイト、悪くはないけどパッとしない顔なんだよねぇ」
「エテルナ。手心って言葉、知ってる?」
うーん、面食い。
なんか、これだけしたたかなら私が手伝わなくてもなんとかなる気がしてきた。
しかし、乗りかかった船だからね。最初のきっかけくらいは手伝ってあげようと思う。
「それで、結局どんな作戦になるの?」
「今からカイトのところに突撃しよう。ドムも一緒に」
「オレちゃん、お嬢さんのエスコートするっす!」
「へあっ!?」
「まだ! まだなにもしてないから鼻血出して倒れるのは早いよ、エテルナ!」
前途多難だなぁ。大丈夫なの、これ?
時間もないので強行突破するしかないけど。
「ドムの完璧っぷりに打ちのめされて、危機感をもったカイトがどう反応するか。まずはそこを確認してみよう」
「危機感? カイトがぁ? あっ、同じ男として格の違いってやつを見せつけるのね!?」
「まー、そんな感じ。というわけでドム、出来そう?」
昨日もたくさん練習していたからきっと大丈夫だよね?
スマートなエスコートの仕方とか、女性への接し方のあれこれとかをアレクサンダーから教わっていたし。スパルタだったけど。
「んー、よくわかんないっすけど、なんとかしてみせるっすよ!」
ん? あれ? まさか昨日のスパルタレッスンもすでに忘れて……?
いや。出てくるときは静かに、も忘れていたくらいだもんね。そうだよね、難しいよね。ごめん……不安になってきた。
「さ! 今すぐ行くっすよ! お嬢さん、お手をどーぞ!」
「は、はひ……」
すでに軽い。とても優雅とは言い難い。ノリと勢いでなんとかしてやろうという意気込みが透けて見えるっ!
でもエテルナの目がハートだし、なんとかなる、か?
いやっ! いろいろ不安すぎる! 今更だけど穴だらけの作戦な気がしてきた!
私だけでどうにかフォロー出来るかなぁ!?




