32 執事は便利な道具なんかじゃない
その夜、私たちは作戦会議を開いた。
「ドムなんか差し上げてしまえばいいんですよ」
「ちょ、アレクちゃん酷っ! いくらオレちゃんのほうがコトリ様に好かれているからって嫉妬はよくないゾ☆」
「誰が誰よりコトリ様に好かれているって?」
「はいはい、ストーップ。会議にならないから喧嘩は禁止!」
今の私の最大MPは22なので、二人同時に召喚し続けられるのはおよそ一時間。
貴重な時間を割いてまで二人を呼んでいるんだから、余計なことで無駄にしたくはない。
でも相性が悪いのか……というか、アレクサンダーがドムを敵視しているせいで顔を合わせばすぐこの調子。まったく、困ったものだね。
時間は有限! 私は目的を端的に伝えることにした。
「……とまぁ、今はこんな感じの状況なの。さすがにエテルナの問題を解決までは出来ないけど……せめてカイトを反省させたいんだよね」
「話を聞くに、そのカイトという青年はとんでもない未熟者のようですしねぇ」
「あれは誰も幸せになれないよ。あの後エテルナに聞いたけど、両親からカイトを婿にすればいい、って言われたこともあるみたいで。このままじゃ、その通りになりそうだって絶望してた」
さすがに最終的にはエテルナの意思を尊重してくれると思いたいけど、店を継ぐ以上いつか結婚はしなきゃいけないみたいだし。
そうなると次は相手を連れてこいという話になり、今のままだと両親はカイトがいるじゃない、と話を進めそうなのだとか。
なんか、大変だな……。他人事だけど、ちょっと同情しちゃったんだよね。
カイトにとっては嬉しいことなのかもしれないけどさ、エテルナが好きならもっと態度を改めるべきだと思う!
ツンデレも、いきすぎれば害でしかないよね。
「だからさ、ドムにビシッと教えてやってほしいんだよ。カイトに女性の扱いってやつをさ!」
「女性の扱い方っすか? オレちゃんが?」
「そう! エテルナはドムが好き。というか、ドムのような優しくてカッコいい人が好きなわけ。容姿はどうにもならないけど、優しいって部分は改善の余地があるでしょ?」
ドムのような顔面はそうそういないからね……。
でも、態度の改善なら出来るはず。エテルナに恋心を抱いているなら余計に、だ。
そうじゃないと、さすがにエテルナがかわいそうすぎる。
「カイトの気持ちが成就するかどうかはどうでもいいけど、態度が変わったらエテルナも少しだけ楽になるんじゃないかって」
「コトリ様……」
「ドムをエテルナにあげるわけにもいかないし。私たちに出来るのはそのくらいだしね」
「コトリ様ったら! オレちゃんのことがそんなに大事なんすね! 嬉しいっす~!」
「コトリ様の魔力がない限り我々はここに存在出来ないからですよ、勘違いするんじゃない、この馬鹿者がっ」
何をどう受け取ったのかドムが急に感激し始め、すかさずアレクサンダーのお叱りが飛ぶ。
また言い争いが始まっても面倒なので、二人まとめてぎろっと睨んでやった。よし、黙った。
「こほん。ですがコトリ様。なぜそこまで?」
「あー、うん。アレクサンダーが言いたいことはわかるよ。私が何かしてあげる義理なんかないってことだよね?」
私だって深く関わる気はなかったよ。今日だっていかにエテルナから興味を失ってもらうか、ってことばかり考えて会いに行ったわけだし。
「でもさ、絆されちゃったんだよね。初めてこの世界で出来た同年代女子の友達だから」
えへへ、と笑って誤魔化すことしか出来ない。我ながらちょろいと思うもん。意思が弱いとも。
けど、自分に大きな害がなければ少しくらいは力になってあげたいって思っちゃったんだよ。エテルナってば、意外といい子だったんだもん。
「……カバンを見つけてからの対応もそうですが、コトリ様は本当にお人好しですね」
「そうかなぁ。普通だと思うんだけど」
「お言葉を返すようで申し訳ありませんが、絶対に普通ではございません」
「えー。じゃ、お国柄ってヤツだよ。少なくとも、私の知る限り同じ行動を起こす人はたくさんいるよ。私だけじゃない」
「そうだとしても、この世界ではとても珍しい存在です。コトリ様はお優しすぎます。はぁ、お守りする執事として、心配が尽きませんね」
「そこまで……?」
アレクサンダーが過保護なだけだと思うけどなぁ。
えっ、ドムまでうんうん頷いている!? 余計に納得いかない。
こういうところでは意見が一致するのなんなんだろう。執事が主人を守る本能みたいなものだと思って気にしないでおこう。
「話を戻すね。つまり、しばらくはドムに協力をお願いすることになるって話なんだけど」
「もちろん、協力するっすよ!」
「簡単に返事してくれるけどさぁ……せっかくの俊足を活かすような召喚じゃないし、ドムにとっては迷惑でしかないと思う。だからもし嫌だったら嫌って言っていいんだよ?」
いくら召喚執事といえど、やりたくない仕事を無理してまでさせたくはない。
出来ることなら執事たちの意思は、常に尊重したいのだ。
そうじゃなきゃ、私は嫌な人間になる。そういう危険を認識しておかなきゃいけないんだよ、このスキルは。
執事たちは道具じゃない。私のために動いてくれるけど、それを当たり前だと思い始めたらダメ。
「コトリ様のお役に立てるというなら、どんな願いでも喜んで叶えるっすよ!」
「うぅ、ドムの笑顔が眩しい! 主人という立場を利用しているみたいで心苦しいな……」
「何言ってんすか!」
本音をぽろっと溢すと、すごい勢いでドムが叫ぶ。わぁ、びっくりした。
「コトリ様はオレちゃんに、命令なんかしてないじゃないっすか。お願いをしてくれたんす! オレちゃんはそれを喜んで引き受けるだけっすよ!」
「ドムぅ、なんて良いヤツなの~~~!」
笑顔だけじゃなくて心まで眩しいなぁ、ドム。
こらこら、ドムをすごい顔で睨むんじゃない、アレクサンダー。
まったく、本当に執事ってやつは困った精霊だ。
「私が貴方たちの意思を尊重するのは、もちろん執事たちのためでもあるけど……一番は、私が私を嫌いにならないためなんだよ。自分勝手な理由でしょ? だからあんまり感謝しないで。貴方たちが主張するのは当たり前のことなんだから」
居た堪れない気持ちになるからね。感謝されすぎると、自分が偉い存在になったって勘違いしちゃう。
そういうのを避けるためにも、出来る限りは対等でいたいと思うのは変なことかな?
「……それが当たり前と言えるご主人様は、大変貴重なのですよ」
「え? アレクサンダー、今何か言った?」
「いえ、なんでもございません! 我々のご主人様はとても素晴らしいなと感動に打ち震えておりました!」
「だから大げさなんだって」
ま、執事って時点で難しいか。ならば、主人である私が気を付けることとしよう!




