31 年頃乙女エテルナの事情
結局、私はエテルナに引っ張られながら町の外れまで走ってきた。つ、つ、疲れた……!
「このままちょっと森まで付き合ってくれない? 魔物が出るとこまでは行かないから」
「い、いいけど、ちょ、休憩、させて……」
「あれっ、コトリ大丈夫? 気付かなかった、ごめん」
ずっと走りっぱなしだったから私はもう息も絶え絶えだよ。だというのにエテルナはどうしてそんなに平気なの? それとも私の体力がなさすぎるだけ?
「体力ないね? お嬢様だから?」
ええい、うるさい。人に言われると腹が立つなぁ、もう!
お嬢様じゃなくても体力のないへなちょこは存在するんだよっ! ここにね!!
と、反撃する気力もないので息が整うまで少し待ってもらった。
すぅ、はぁぁぁ……。うん、マシになったかな。
落ち着いたところで今度は走らず歩いて移動を開始。
町を出て、森までの道を行く。途中、エテルナのカバンが放り投げられていた場所を通り、森の入り口に到着した。
採集以外でくるのはなんだか新鮮だね。木陰があって心地いいのでよくティータイムをする場所だ。
ここなら前みたいなイレギュラーがない限り魔物も出てこないだろう。アレクサンダーが私の解体のために狩ってくる魔物ももっと奥のほうにいるっぽいしね。
手頃な木の下に並んで座ると、エテルナはぽつぽつと自分のことを語り始めた。
「うちはさ、代々素材屋を営んでるんだけど」
「素材屋?」
「うん。薬草、鉱石、金属、あとは毛皮とかね。魔物の素材ももちろん扱ってるよ」
何かお店をやってるんだな、っていうのはさっきの会話で察していけど、素材屋なんてものがあるんだね。
素材を使って薬を作る人や、防具や武器職人、革職人などに卸すお店なんだって。
職人が自ら素材を調達し、加工する人もいるらしいんだけど、大抵は素材屋を挟むのだとか。
特にエテルナの家のお店は素材の加工がうまく、扱いやすいと評判で、大きな店の御用達にもなっているという。それはすごい。
「自慢の店だし、加工するのも結構好きだよ? でもさ、私は素材を加工して売り買いするよりも、素材そのものを研究するのが好きで」
どんな性質をもった素材で、何に強く何に弱いのか、どこで手に入りどんな生き物なのか、どんな環境で存在するのかを知るのが好きなのだとエテルナは早口で語る。
本当に好きなんだなぁ……観察する力というか、洞察力とかも鋭い。
私にはエテルナが語る素材のあれこれをほとんど理解することは出来なかったけど、どれだけ夢中になっているのかはよく伝わった。
すごいよ。それだけ好きになれるものがあるのって本当にすごい。大事にしてほしい。
「昔はそれを許されてたんだ。むしろ素材のことをよく知ることは商売する上でも大事だからってたくさんやらせてもらえてた。でも最近になって、将来店を継ぐために研究ばかりするのはよくないって言われちゃってさ」
「あー、お店を続けるのには他のことも出来なきゃいけないもんね」
「そうなの! 経営とか、仕入れの手配とか、人を雇えばいいってわけでもなくてさー。オーナーとしてはそういう細かい部分も勉強しなきゃなんだけど……そっち方面は私、てんでダメなんだ。大損害を出すのも一度や二度じゃなくて! あはは!」
「笑いごとじゃないのでは」
すでに何度かやらかしていたらしい。それでもご両親は根気よく言い続けてるんだろうな、と思うと苦労がわかるよ。
と同時に、エテルナの気持ちもわからなくもなかった。
「ちゃんと、頭では理解してるんだよ? でも、私はまだ家を継ぐ気も結婚する気にもなれなくて。はぁ……魔物の研究だけをしていられたらいいのになぁ」
大きなため息を吐きながら俯くエテルナを見て、かける言葉に悩む。
やりたいことだけをし続けられたら、それは幸せだよね。でもやりたいことだけやってそれでよしとは、なかなかいかないものだ。
誰だってそう。仕事しなきゃ生活出来ないからやりたくないこともやらなきゃいけない。
生きるのって、実はすごく大変なことなのだ。それはどこの世界でも同じなんだなぁ。
それはエテルナにもわかってるのだろう。よくある逃避だ。
そういう時期があってもいいと思うけどね。
「あと優しくてカッコよくて尽くしてくれる恋人といちゃいちゃ出来ればそれで……」
「高望みするじゃん」
急に乙女モードに入らないでもらいたい。
これでも励ましの言葉に悩んでいたというのに、ツッコミを入れてしまったではないか。
「私だっていつまでもこのままじゃダメだってことはわかってるよ? でもさ、まだ早くない? まだいいじゃない? これからゆっくり考えていくつもりなの! なのに……カイトのやつ、最近になって親より口うるさくてさぁ……」
「カイト、ってさっきの子だよね? 家族かなんかなの?」
「家族であってたまるかぁ! ただの腐れ縁。家が近所で、昔は良く一緒に遊んでた」
やっぱり幼馴染だったか。
で、その幼馴染がエテルナの痛いところを突いてくるから嫌気がさしているってところかな。
まぁ、カイトがエテルナにあれこれ言うのも……焦りからなんだろうなぁ。
自分に振り向いてほしいからこその言動なんだろうけど、面白いくらい逆効果だ。かわいそうに。
「思えば口うるさいのは昔からなんだよね。女の子が外遊びばっかすんなとか、他の男と気軽に話すなとか、どうせ誰もお前なんかと結婚しないとか、俺が世話してやんなきゃ本当ダメだなとか」
「あー、典型的だねぇ」
完全に素直になれない恋心を持て余す厄介な男子じゃん。
前言撤回。かわいそうでもなんでもない、自業自得だ。
「だから、絶対にドム様を目の前に連れて行って見返してやるんだ……! 私でも本気を出せばこんなに素敵な人と巡り合えるんだって」
「そこにドムの意思はあるのかな……?」
急にドムの名前が出てきて驚いてしまった。
ただエテルナの目的はようやくわかったよ。
要するに、カイトよりも遥かにいい男を連れていって、わからせてやる! ってことね。
一番の被害者かもしれないな、ドム。顔が良いばっかりに……。
「ドム様と恋人になれたらもちろん嬉しいけど、難しいこともわかってるよ。でもさぁ、いいじゃん! 夢くらい見させてよ!」
「まぁ、ね?」
「覚めない夢をさぁ!」
「そこは覚めとこ?」
なーるほどねー。事情はわかった。わかったけどさぁ。
これ……どうしよう?




