3 アレクサンダーのステータス
魔力が1回復した。今の残り魔力は6になる。これでまたアレクサンダーを召喚できるね。
っていうか……。
「たった五分程度で1回復したんだけど? これが魔力回復速度5倍の力……!」
つまり、普通は1回復するのに約三十五分かかるってことでしょ?
これはありがたい。ただ執事を召喚中は回復してくれないっぽいよね。だってもし回復していたら、アレクサンダーをずっと召喚し続けられるもん。
そううまくはいかないってことか。私に優しくあれよ、異世界……。
いや十分優しいか。今の私の魔力量であれば十分も待てば全回復するわけだし。
そもそもの魔力量を増やしたいところではあるんだけどなぁ。
まぁいい。スキルについては基本的なことがわかったわけだし、使いながら慣れていきたいね。
次はこの世界についてを知りたいな。
近くに町があるのか、とか、角の生えたウサギはなんなのか、とか。そういう生きるのに必要なあれこれを聞かせてもらおう。
「執事召喚、アレクサンダー!」
名前を呼ぶ必要があるのかはわからないけど、そのほうが確実に彼を召喚できる気がしたので呼ぶ。
なんでかはわからない。なんとなくだ。
さて、先ほどと同じように地面に私の紋章の魔法陣が光り輝き、そこからアレクサンダーが現れた。
……ん? あれ? なんか両手で顔を覆ってお姉さん座りしている。
「っ、コトリ様が……! 私の名を呼んで召喚してくださった……!!」
「そんなことで!?」
なんか敬われすぎて若干引くんだけど? 泣いてるし……。
と、とりあえずまた三十分しかないんだから時間は無駄にできない。
「あ、あのー、アレクサンダー? その。今度はお菓子じゃなくて軽食を用意してもらえたらありがたいんだけど……できるかな? お腹空いちゃって」
「もちろんでございますっ!! んああああっ、恥じらうコトリ様が天使のように愛らしぃぃぃぃっ!!」
「ちょ、やめてよっ! そんなこと大声で叫ばないで、恥ずかしいからっ!!」
本当にいちいち大げさだなぁ、もう!
でもアレクサンダーは感動しながらもきっちり仕事をこなし始めた。手際がいい……!
というか、なるほど。そうやってテーブルや色んな物出してたんだね。
何もない場所に手を突っ込んだかと思うと、歪んだ空間からぽいぽいといろんな物を出していくのだ。その中は一体どうなってるんだろう?
なんとも不思議な光景。と同時に、本当に異世界なんだなぁって思っちゃう。執事召喚しておいて今更だけど。
あっという間にアフタヌーンティーのセットが準備され、私はありがたくサンドイッチからいただいた。
今度は遠慮なくもりもり食べます。次に時間切れになったら今度は二十分待たなきゃいけなくなるからね。
二十分くらい待ちなよって話ではあるけど空腹の二十分はつらいもん。もぐもぐ。
「さて、食べながらではございますが、何かご質問はありますか?」
「あるっ! まず私のステータスなんだけど……すっごく弱いよね? この世界の一般的なステータスってどれくらいなんだろうと思って」
「なるほど。一般的なことを知るというのは大切ですからね。ちなみにコトリ様はか弱き乙女です」
「あ、やっぱり弱いんだね……」
すごく良さげな言い回しをしてくれたけど、結局それって弱いってことだからね。配慮、ありがとうね……。
「いえ、実際レベル1なら皆さん似たようなものですから。ただこの世界の住人は生きているだけで次第にレベルは上がります。コトリ様くらいのご年齢ですと、一般人でだいたいレベルは10~15というところでしょうか」
「あっ、私はさっき転移してきたばかりだからそもそも出遅れてるんだね?」
「心苦しいところですが、その通りです。けれど悲観することはありませんよ!」
アレクサンダーは申し訳なさそうに眉尻を下げたかと思うと、すぐにパッと笑顔になって人差し指を立てた。表情も豊かだな、この人。
「きちんと訓練をすればあっという間に一般レベルなど超えてしまうでしょう。その上、コトリ様には特性もございますからね。今の調子で私や他の執事を召喚していくだけで、半年もすれば追いつけるのではないかと」
「そんなに早く!?」
「ええ。そもそもスキルを持っている者が希少です。一般的にスキルの発動は難しいものだと言われていますし」
「えっ。でも召喚はすごく簡単だったよ?」
「それは偏にコトリ様の素晴らしき才能によるものでしょう! やはりコトリ様は素晴らしいっ!!」
アレクサンダーはまたしても大げさに私を褒め称えている。小刻みな拍手が上手いな?
そんなことより、今とても大事なことをさらっと教えられた気がする。
スキルを持つ人は希少。当たり前のようにスキルのことを誰かに話していたら大変なことになるとこだったよ。
「ちなみに、私や他の執事のステータスは随時そちらの端末にアップデートされていくかと思います。いつでもご確認くださいませね」
「そうなの? あっ、本当だ。へー、すごいね。この世界も技術が発展してるんだ」
「していませんよ」
「え?」
タブレットに視線を落としながら感心していると、そうではないとの答えに慌てて顔を上げる。
「その端末はこの世界にはございませんし、専門用語などもこの世界では通じないでしょう。私どもは召喚された時点でコトリ様の世界の知識をある程度インプットされますから」
「じゃ、じゃあ今後はそういう、この世界では伝わらない言葉や習慣なんかも気付いたら教えてほしい! できるだけ目立たないように、この世界での常識を知っておきたいの」
「ご自身の能力を決してひけらかさないその姿勢……! なんて奥ゆかしいのでしょう。畏まりました!」
奥ゆかしいとかじゃないんだよ。こういうのはね、隠すのが大事なの!
希少な力ってだけで人は珍しがったりするんだから。それで、悪い組織とかに狙われたらたまったものじゃない。
特に私はまだまだこの世界では生まれたてみたいなもの。いいカモにならないように気をつけないと。
「それにしてもアレクサンダーはすごいんだね。HPもMPもたくさんあるし、どの項目も全てCなんて」
再びタブレットに視線を落とし、アレクサンダーのステータスを確認する。
普通に、とても強いのでは……? すべてが同じ値なのはスタンダードだからかな?
「お褒めに与り光栄です。けれど我々は精霊のようなもの。まずレベルという概念がございませんから、これ以上の成長も衰退もしないのです」
「そうなんだ……たしかにレベル表記がないね。でもこんなに人間っぽいのに精霊なんだ」
なんとなく只者ではない雰囲気を察知してはいたけど、まさか人間じゃないとは。ますます不思議だなぁ。
「厳密には少し違いますが、その認識で問題ありませんよ。ただ私はスタンダード執事ですからね。何でもそつなく平均以上にこなせる、中の上程度のオールCランクの男でございます」
「んー、でも執事ってだけで普通の人より有能な気がするし、やっぱりすごいと思う。心強いよ」
「コトリ様……っ!!」
ああ、ついに言葉を失って口に手を当ててしまった。ものすごく感動させてしまったらしい。
でもこれは慣れてもらうしかない。
アレクサンダーほどじゃないけど、私だって感謝の気持ちや誉め言葉は積極的に伝えていきたいからね。
だからそろそろ自分の世界に入り込んで感動に打ち震えるのはおしまいにしてほしい。おーい、戻ってこーい。
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【アレクサンダー】
タイプ:スタンダード
HP:10000/10000
MP:9950/10000
攻撃力:C
防御力:C
素早さ:C
賢さ :C
器用さ:C
運 :C




