29 ダメだ、人の良さが滲み出てしまう
昨日はエテルナを追い返……いや、帰った後、きっちり解体の練習もしてから早めに冒険者ギルドに戻った。
昨日より綺麗に処理出来たからか買い取り金額も増え、達成感を味わえて嬉しかったな。でもまだアレクサンダーより下手っぴだけど。
それに、解体に慣れるのにはまだまだ時間がかかりそう。
いくらやっても気持ち悪くて怖いのは変わらない。
早く慣れたいと思う反面、そのためには数をこなすしかなく……複雑な気持ちだ。頑張ろう……。
その後、宿に戻った私は予定通りゆっくりお風呂を堪能し、アレクサンダーが用意してくれた食事を摂りながらエテルナ対策を考えた。今度こそちゃんとね!
おかげでぐっすり眠って今朝は絶好調。うん、きっとうまくいく!
「エテルナ」
「あ、コトリ! ちゃんと来てくれたんだね」
「そりゃあ、約束したし」
冒険者ギルドに到着すると、すでに入口付近にはエテルナが待っていた。
一体、何時からいるんだろう? 私もそれなりに早く来たんだけどな。
「約束しても、守ってくれない人のほうがほとんどだよ。だから来てくれたコトリは良い人だ!」
屈託のない笑顔でそう言われ、思わずうっと言葉に詰まる。
たったそれだけのことで良い人になっちゃうんだ? 約束したら守るのが当たり前では?
いや、ここは異世界。私の常識で物を考えたらダメだよね。
今日、私はエテルナにつまらない女と思ってもらうためにきたんだから、良い人だって点数が上がってしまっては元も子もない。
うーむ、対策を考えていたのに初手から躓いてしまったな。私の人の好さが滲み出てしまったね! ……はぁ。
「そういえば、今日は執事さんいないの?」
「うん。だって約束したのは私だけだったし」
「えー、お嬢様を一人にしていいの?」
「だからお嬢様じゃないんだってば」
「だったらどうして執事なんか連れてるの?」
「それは……秘密」
目を逸らしてそう言うと、エテルナからは文句の声が漏れ出た。その反応は予想済みだ。
でもね、なんでもかんでも正直に話す必要はないのだ。義務もない。だから答えにくいことは秘密で通るつもり。
……興味は引いてしまうかもしれないけど、言えないものは言えないからね。
「まぁいいや。ねぇ、お腹空いてない? 美味しい屋台があるんだー! 一緒に行こう?」
エテルナはサッと私の手を取ると、返事も聞かずにぐいぐいと引っ張って歩き出す。
ふむ、ぐいぐい行くのはイケメンだけではないらしい。たぶん、誰に対しても人懐っこいんだろうな。
なんか、日本にいた時のことを思い出す。
友達の一人に、こんな感じの無邪気な子がいたんだよね。
苦手だったけど、今となっては少し懐かしい。
……私、日本で行方不明扱いにでもなっているのだろうか。
あの子は、友達は、家族は……心配してくれているのかな。
と、少しだけしんみりしている間に目的の屋台についたようだ。
そこでは小判型のパンに具材を挟んで焼いたパニーニを売っていて、馴染みのある料理名に少しホッとした。
名前についてはそう聞こえるだけかもしれないけどね。なぜか最初から言葉がわかったし、翻訳補正みたいななにかがあるのかも。
私たちはそれぞれパニーニを買うと、空いているベンチに座ってさっそく頬張った。
んっ、野菜とハムにとろけたチーズが絡んでいて美味しい。ハムが少ししょっぱいけど、パンと野菜に合うからちょうどいい。
「いやー。カバンを届けてもらえて本当によかった! 今日、こうして屋台でパニーニを買うことさえ出来ないところだったもん」
それは何よりだ。私もドムを召喚した甲斐があるというもの。お風呂に入りたかったのに入れなかった悔しさが報われるよ。
なんであんなところにカバンを放り捨てていたのか、魔物や植物の研究をしているとはどういうことなのか、そもそもエテルナは何者なのか。
正直、色々と気になることはあるけどあえて聞かない。相手から興味を失ってもらうためにはこっちも興味を持たない姿勢で挑む!
「あの日は珍しい色の角ウサギがいたからどうしても近くで見たくて。追いかけるには荷物が重かったから置いてっちゃったんだよねー。おかげで角ウサギの観察は出来たんだけど、満足してそのまま町に帰っちゃったんだ」
「そんなうっかりある!?」
しまった、つい突っ込んでしまう!
だって聞いてて心配になるほどうっかり者だよ、この子!
これまでもいろんな物を失くしてそう。命の危険に繋がるうっかりをしないかが気がかりだ。
って、心配になってる場合じゃない。興味ないフリ、興味ないフリ……。
「えへへ、よくやるんだよー。でも大丈夫! こうして生きてるからね!」
「……いつかとんでもない目に遭わない? 大丈夫?」
ダメだ、突っ込まずにはいられない。私が呆れた目を向けてそう言うと、エテルナはなぜか嬉しそうに笑った。な、何?
「やっぱりコトリは優しいね。心配してくれてるんだ」
「えっ、これは人として当然というか……」
「当然じゃないよ。滅多にいないよ、どうでもいい他人の心配する人なんて」
し、しまった! でも仕方ないじゃん! そういう性分なんだよぉ!
今ここにアレクサンダーがいたらやれやれ顔で見られそう。むかつく。
「だからさ、ごめんね? 初対面の時に失礼な態度とってさ」
「え」
「思い返すと、嫌な感じだったなって反省した。良い人を見るとさ、自分の嫌なところが見えてくるんだね。初めて知った」
意外な言葉に思わず黙ってしまう。
な、なんだよぉ。素直じゃん……。人の都合を無視してくる厄介な子だとしか思ってなかったのに。
本当だね、そう思ってた私もたいがい嫌なヤツだっていうのが見えてきたよ。
「けど、どうしてもドム様をゲットしたかったからつい」
「ゲットって」
「だって、あんな美男子そうそういないよ!? あ、コトリの執事さんもすっごい美青年だったけど!」
まぁ精霊だからかもね、とは言えないのであははと笑っておく。
整った容姿なのは間違いない。そう考えると執事を人目につくところで召喚するのは目立つリスクがあるなぁ。
「それにさ、ドム様ったら拾得物をあっさり私に返してくれたでしょ? あんなに優しい人も初めてだから……」
エテルナは尻すぼみになりながら言うと、ポッと頬を赤らめた。
も、もしやこれ……ガチ恋しちゃってる?
「あーっ! またドム様に会いたいよー! 絶対に私の運命の人だもん!」
あー……。あー、あー……。
ど、どうしようかな、これ。気付かないフリって今からでも間に合いますか?




