27 夢のようなバスルーム
泥のように眠った翌朝、固く心に誓った通りすぐさまアレクサンダーを呼び出すと、朝の挨拶もそこそこにお風呂をねだった。
アレクサンダーはそんな私を咎めることなく快諾すると、宿の一室にお風呂……どころかバスルームを出してみせた。何がどうなってるんだ。
「では、私は一度執事界に戻っておりますので。お風呂から上がりましたらまたお呼びくださいね」
「え、え、ちょっと待って! アレクサンダーが帰ったらこのバスルームも消えちゃうんじゃないの?」
「消える……? ああ、そういうことでしたか。勘違いですよ、コトリ様」
なんでも、ティータイムセットもバスルームも、他のあらゆる物も全て執事界の保管場所に置いてあるだけのものなのだそう。
つまり、任意でこの世界に置いておくことも執事界に持って帰ることも自由に出来るのだそうだ。
だからお金は消えなかったんだ!? お金だけは特殊なのかと思ってたよ!
「でも、いつもティータイムセットは消えちゃうでしょ?」
「森の中で出しっぱなしにされたら、コトリ様が困るでしょう」
「それはそう、だけどぉ……ならもっと早く言ってよぉ! 昨日ドムにバスルーム出してもらえたってことじゃん!」
「申し訳ありません。私としましても、コトリ様は当然知っておられるものだと勘違いしておりましたので」
「ぐぬぬぬぅ……」
もっと早く知っていればあれもこれも、という思いと、お互いに勘違いしてたんだから仕方ないよねという気持ち……!
ま、後悔したって仕方ない。今ははやくお風呂でのんびりしたい。
というわけで、提案通り一度アレクサンダーを送還し、私は久しぶりのお風呂を堪能した。
なんとシャンプーやコンディショナー、ボディーソープと洗顔フォーム、そして入浴剤まで完備している。
脱衣所にはふわふわのタオルとドライヤー、さらには化粧水や美容液まである徹底ぶり。ここはホテルか?
一体どこでこんな日本を彷彿とさせるバスルームを用意出来たのか謎でしかないけど……。
あるからありがたく使わせていただくのだ!!
◇
「は~、幸せ。毎日入りたい」
「ご満足いただけたようで私共も大変嬉しゅうございます」
「今後はみんなにもバスルーム出してって頼んじゃおう。お手軽に私、満足するよ」
「それはそれは。ですが! 私こそが最もコトリ様を喜ばせることの出来る執事であることをお忘れなく!!」
「わかったから、声のトーン落とそうか」
ま、実際一番頼ってるのがアレクサンダーなのはたしかなんだけどね。
スタンダード執事はあらゆることがそつなくこなせるから本当に助かるんだよ。
あまりにも気持ちの良いバスタイムを過ごせていたから、私は失念していた。
昨日のことなんてサッパリ忘れて、まったくなんにも考えずに冒険者ギルドに足を踏み入れてしまったのだ。
「あーーーっ! 見つけた! 昨日の女ぁっ!」
「えっ、えっ? あっ、しまった」
気付いた時にはもう遅い。
どうやら早朝から冒険者ギルド内で張っていたらしい昨日のぐいぐい系女の子、エテルナちゃんが私を見つけるや否や叫びながら近付いてきた。
なんで忘れてたかな、私!?
いや、疲れ切った精神が思い出すのを拒否していたのかもしれない。人はこれを問題の先送りという……。
「ドム様は! ドム様はどうしたの!?」
「え、えっとぉ……」
掴みかかる勢いで私の前までやってきたエテルナちゃんだったけど、伸ばしたその手が私を掴むことはなかった。
なんとその直前でアレクサンダーが間に立ち、エテルナちゃんの手から守ってくれたのだ。
忘れそうになるけど、アレクサンダーったら有能ーっ!
「失礼、お嬢さん。もしやそのドムというのは昨日の不届き者のことでしょうか」
「ぎゃっ、この人もすっごい美青年!?」
「ああ、はい。美青年です、どうも」
しかし対応は安定のアレクサンダーだった。自分で当たり前かのように言うなよ、イケメンめ。
でもその顔のおかげで動揺したエテルナちゃんが一歩下がってくれたのでよしとしよう。
しかしエテルナちゃん、さては面食いだな? 目がまたしてもハートになっている。
そんな乙女心に気付いているのかいないのか。
いや、腹黒だし気付いていてあえて知らないフリをしているのだろう。
アレクサンダーは態度を変えずに飄々と、それでいて丁寧に言葉を紡いだ。
「昨晩、勝手にコトリ様を巻き込み逃げていった銀髪三つ編みの男のことでしょう? 迷惑な話です。自分があの場を離れたかったからとコトリ様を利用して。見知らぬ男に抱き着かれ、攫われ、酷い目に遭った被害者はコトリ様なのですよ! ああ、お労しいっ! 今度見つけたら容赦いたしませんっ!!」
でも内容がなんか、ちょっと、アレだな!?
「ちょ、アレクサンダー?」
「そうだったの!? そうとも知らず……ごめんね。でもドム様に攫われるなんて羨ましい……」
エテルナちゃんもなんかアレな人だ! ちょっと残念系乙女!
とはいえ、都合のいい言い訳ではあるので否定もしにくい。
これがアレクサンダーなりの場の切り抜け方なのだろうが、私情を挟むな。私がどうこうよりも、個人的にドムが気に入らないだけでしょ。
「もしやお嬢さん、その男に恋をされたのですか?」
「きゃっ、そんなにハッキリ言わないでくださいよぉ。一目惚れっていうかぁ、まだ恋っていうには早いっていうかぁ……貴方にも恋しそうですぅ」
「ドムってやつにしておいたほうがいいですよ。私はコトリ様専属の執事で、コトリ様以外目に入りませんから」
「はわぁぁぁ、羨ましいっ! 専属執事とお嬢様の恋とかロマンチックー! わかりました、貴方のことは別の方向から楽しみます!」
「娯楽か」
思わず突っ込んでしまった。
まぁ。私も他人事だったら同じように楽しんでいたかもしれないけど、当事者なので迷惑でしかない。
しかも恋とかそんな要素は全くないから微妙な気持ちにしかならないよ。
それはさておき、周囲からも注目を浴びたこの状況、どうしたらいいの?
ねぇ、先に魔導掲示板見に行っていい?




