26 絶対に恋人と思われたやつ
エテルナちゃんというその女の子は、何度も何度もドムにお礼を告げていた。
それはもう、何度も何度も……。まずい、召喚時間が切れそう。
今の私の残り魔力は3だから、延長することも出来ない。
ドムもさすがに消える瞬間を見られてはいけないとなんとなくわかっているのか、少し焦っているようにも見えた。
「ドム様! どうか受け取ってくださいっ」
「いらないっすよぉ。お金には困ってないんで」
「頑なですね……! じゃあせめてお礼を! この後食事でもどうですか!」
「いや、遠慮するっす!」
あのドムが女の子に押されている……! エテルナちゃん、恐るべし。
心なしか目がハートになっている気がするんだよね。まぁ、ドムも顔が良いからなぁ。
今のところ呼び出した執事はみんな顔が良い。バリーはイケメンというより男前顔だけど。
いや、感心している場合ではない。ドムを助けなくては!
「あ、あの。困っているみたいですし、放してあげては……?」
「私はただ、お礼をしたいだけなんです! 恩は返すのが信条!」
「でも、それが押しつけになるなら意味がないんじゃ……」
「押しつけなんて、そんなことないですよね!? だいたい貴女には関係ないでしょ! 話に入ってこないでくださいっ」
わぁ、恋する乙女怖い。なんにも言えなくなっちゃった。
たしかに私とドムはさっき道案内しただけの関係、ということになっている。
うーむ、なかなか頑固な女の子だ。困ったなぁ。
「関係なくないっす!!」
そこへ、さらに困る反応を見せた大馬鹿者がいる。
そうです、ドムです。
設定が全て吹っ飛んでない……!?
これ以上はダメだぞ~、という念を込めてドムに視線を送ってはみたんだけど、さすがは賢さF。まったく通じなかった。
ドムの暴走は止まらず、あろうことかギュッと私に抱きついて元気いっぱい叫んだのだ。
「この人はオレちゃんの大事な人っすからね!!」
「何言ってんの!?!?」
誤解を招く言い方をするんじゃない!
あ、いや、でも一応「私の執事だって言っちゃダメ!」の部分は守っているからドムにしては頑張ったのかもしれない。
いやでもこの状況でそれはダメでしょーーーー!
ギルド内で騒ぎに注目していた人たちから一斉に歓声が上がる。
ええい、そういうんじゃない。盛り上がるな、面白がるな、野次馬は帰れ!
「というわけで、オレちゃんはこの人と一緒にもう帰るっす! それじゃ!」
ドムはさらに続けて叫ぶと、ひょいっと私を肩に担いだ。ぐえっ。
「え、ちょ、わっ……きゃあああっ!?」
「コトリさん!?」
「ああっ、待ってください、ドム様ぁっ!」
マルコさんが私を呼ぶ声と、ドムを呼ぶエテルナちゃんの声があっという間に遠ざかっていく。
うっ、はっ、速いっ! さすがスピード執事ぃぃぃあああああああ!!!!
◇
「気持ち悪い……」
「ごめんなさいっす……」
まさか猛スピードで移動した後、宿の窓から侵入するとは。
アクロバティックな跳躍も入ったものだから私の目はぐるんぐるんに回っている。
一方、ベッドに寄りかかるようにして床に座り込む私のすぐそばで、ドムが土下座で反省していた。
あまりにもしょぼくれているのがなんかかわいそうに見えてくる。
ドムなりに一生懸命あの場を切り抜けたんだよね? わかってるよ、わかってる。
「いいよ、まぁ、どうにか、なったから……」
「面目ねっす」
ドムが帰還前に宿に着いたんだから結果オーライだ。次にギルドに行った時が怖いけど、そこは明日にでもゆっくり言い訳を考えておくことにしよう。うん。
ようやく落ち着いてきたので顔を上げると、ドムは変わらぬ姿勢で土下座していた。
やけに綺麗な土下座だけど、このままだと床にめり込みそうな勢い。
「ガチ凹みしてるじゃん」
「そりゃ凹みもするっすよ。オレちゃん、アレクちゃんより役に立つって言ったのに……」
「あー、そんな言い合いしてたっけね」
しっかし、あんなにも元気だったドムがこうもしおらしいと調子が狂うなぁ。
まったく、手のかかる弟みたいな執事だ。
私はポンとドムの頭に手を置くと、そのままわしわし撫でまわす。
ちょっとごわついた銀髪だけど、撫で心地は悪くない。
「役に立ったよ。大変なこともあったけど、それはそれ。ドムはちゃんとカバンを届けてくれたし、宿まで私を送ってくれたじゃん」
「コ、コトリ様ぁ……」
「だから落ち込むのはおしまい! また呼んだ時は力になってよ」
「もちろんっす!!」
顔を上げたドムの顔は涙と鼻水でぐちゃぐちゃだったけど、とびきりの笑顔だったから思わず笑っちゃった。
そうこうしている間に時間が切れ、ドムはブンブン大きく手を振りながら執事界へと帰っていった。
急に一人になった部屋は、やけに静かに感じるなぁ。
は~~~、なんだか疲れた。
今日は初めての解体も頑張ったし、あとはのんびり……。あっ。
「ああっ、お風呂に入り損ねたぁっ!!」
ううっ、アレクサンダーの魔法で汚れは綺麗にしてもらえたけど、魔物の解体で血まみれになったからお風呂にゆっくり入りたかった……。
体の汚れは落ちても精神的安らぎはお風呂じゃなきゃ取れないのに~~~!!
はぁ、言っても仕方ない。今の私は魔力だって少ないんだから。
回復まで待つという手もあるけど、お風呂に入っている間は召喚し続けなきゃいけないし、三十分じゃ足りない。せめて一時間ほしいって考えると、回復するまでしばらく待たなきゃいけない。
待ちたくない……今すぐ寝たい……。
心が折れた私はお風呂を諦め、ドムについて軽くまとめてから寝ることに決めた。
それで朝になったらアレクサンダーをすぐ呼んで、お風呂の準備してもらうんだからっ!
長風呂してやるんだからーーーっ!!
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スピード執事
名前:ドム
外見年齢:10代後半
身長:163㎝
必要魔力:6
銀髪で襟足に細長い三つ編み。
執事服は膝下丈のズボンにスニーカーといういかにも足が速そうなスタイル。
実際とんでもなく足が速い。急ぎの伝令とかあったら重宝しそう。
良く言えば陽気、悪く言えばチャラくてアレクサンダーよりテンションが高い。
忙しなくて疲れるし、空気は読めず察しも悪いけど、なんか憎めない弟キャラって感じ。




