25 なんかほんとやかましい
アレクサンダーが言った通り、ドムはものの数分ほどで戻ってきた。
もちろん、その手にはあのカバンがある。
「助かったよ、ドム! すっごく速いね!」
「あざーっす! オレちゃん、足の速さだけは誰にも負けないんで!」
「よし、じゃあこのまま冒険者ギルドに行こう」
「え? オレちゃんもっすか?」
そりゃあ当然でしょ。さっきまでカバンを持ってなかった私が急に持って現れたら怪しすぎるもん。
「ドムが旅人のフリをして、さも自分が見つけたかのようにギルドの人に持って行ってほしいんだよ。そうしたら、持ち主が気付いてくれるでしょ」
「なーるほど! これは落とし物だったんすね!」
あ、そうだった。ドムには細かい説明をしてなかったね。
遅ればせながら事情を説明すると、ドムは軽い調子で「おけおけのオッケーッス☆」とよくわからないノリで快諾してくれた。
引き受けてくれるならそれでよし。ただ、私との関係をうっかり口走りそうで心配だ。
実は心配していることがあって。
すでにギルドの人たちにはアレクサンダーが私の執事だと思われている。
それはいいんだけど、ロッテさんたちは袖なし執事服のバリーとも遭遇しているし、これ以上執事服を着た男性が現れたらそろそろ私に関係があるんじゃないかって疑われそうなんだよね。
「んー、その執事服……どうにか隠せないかなぁ」
「この服っすか? 気に入ってんすけどねぇ」
「似合ってるのは間違いないよ。ただ目立っちゃうから。私と知り合いだと思われると少し不都合があるっていうか……」
「そんなっ!? オレちゃんにはコトリ様の側にいる資格がない、ってことぉ!?」
「違う、そんなこと言ってないでしょ!」
改めてドムに説明するも、いまいち理解してもらえない。ドムはどうやら察しが悪いタイプらしい。
アレクサンダーは最初から説明を諦めているかのような態度だし。ちょっと、協力してよ、アレクサンダー!
「ドムのことは頼りにしてるんだよ? もうすぐアレクサンダーが帰還しちゃうし……その後、宿に戻るまでドムに一緒にいてもらいたいから!」
「えっ、まじっすか! よぉし! オレちゃん、アレクちゃんより役に立ってみせるっすよ!」
「聞き捨てならないですね、ドム。私より役に立つなど、貴方には百万年早いです」
「百万年早いぃ!? でもスピードはオレちゃんのほうが速い、ってね! だっはははは!」
しょーもな……。アレクサンダーもスッと目を細めて無反応になっちゃった。
あのアレクサンダーを黙らせるとは、ドム……なかなかやるな。
「ほらほら! さっさと帰りなよ、アレクちゃん。あとはオレっちに任せといて!」
「ぐっ、この頭スカスカ執事がっ! お前なんかがコトリ様に——」
「はい、アレクちゃん帰った~! コトリ様、二人っきりだネッ☆」
「あ、ソウネ」
どうしよう、不安になってきた。
結局なぜ私がドムと、というより執事服の男とこれ以上一緒にいるわけにはいかないのか、って部分をまるで理解してないんだよね。うーむ。
「あっ、そうだ。ドムもさ、アレクサンダーみたいにどこからともなくいろんなアイテムを出せたりしない?」
「出来るっすよ! 執事界に保管してる物を出すだけっすから、オレちゃんでも簡単☆」
あれって執事界から物を出し入れしてたんだ? 物だけなら執事たちはいつでも執事界と繋がれるのだそう。初めて知ったよ。
それならば!
「じゃあ、執事界にドムが着られるコートかマントとかある? それを上から着てくれるなら、私も一緒にいられるから!」
「マジっすか! オッケー、着る着るぅ!」
ドムは急にご機嫌になってどこからともなく全身を隠せるほどのマントを出すと、素早く頭から被った。いや、フードまではしなくていいよ……?
「いい? これからギルドに行くけど、このカバンはドムが町に来るまでの道で見つけたの。私とはすぐそこで会っただけ! コトリ様とかご主人様って呼ぶのは禁止!」
「えー? なんでっすか?」
「あーもう。そういうゲームってことで!」
「ゲームっすか! いいっすね! オレちゃん、そういうの大好きっす!」
扱いやすいんだか扱いにくいんだかわかんないな、ドム。
他にもいくつか注意点を言い聞かせてから、ようやく私たちは再び冒険者ギルド内へと向かった。
受付まで行くとマルコさんが不思議そうに声をかけてきた。
「あれ、コトリさん。どうしたんですか?」
「あー、えっと。この人をギルドまで案内してて……」
「ちーっす! オレちゃんさ、えーっと……? あ、そうそう! 町に来るまでの道でカバン見つけちゃってー! 落とし物だって思ったから持ってきた、ってことになってるんすけどぉ」
「あーーーっ、そっ、そういえばさっき、カバンを落とした人がいたからもしかしたらと私も思って! あはは、ははは……」
くっ、ドムめ! 「ってことになってる」とか言ったらダメじゃんっ! しかもすでに忘れかけてたし!
バ、バレた? さすがにおかしいと思われたかな? なんて思っていたんだけど、マルコさんより早くカバンの落とし主がものすごい勢いで突進してきた。
「わぁぁぁ! わっ、わっ、これぇぇぇ! 私のですぅぅぅ!」
ピョンっとカバンに飛びつき、そのまま微動だにせず女の子ごとカバンを片腕で持ち上げたままのドムの図。
……ものすごくシュールだ。
「あ、あの、エテルナさん。お気持ちはわかりますが……冒険者の拾得物は拾った者に権利があるので。拾ってくれた彼に許可を得る必要があります」
「そ、そうでしたぁぁぁ……」
えっ、冒険者にはそんなルールまであるんだ?
あー、でもそういう世界だってアレクサンダーも言ってたっけ。ただルールにまでなっているとは知らなかった。
なるほど、これはたしかに持ち主によっては揉めそうだ。ルールだから一応従うけど、不満に思う人は多いだろうなぁ。
うーん、どうしたものか。
「ねー、じゃあこれはオレちゃんの物ってことぉ?」
「そう、なりますね」
「うわぁぁぁん!」
カオス。ちょっと、なんでそんな確認したのさ、ドム!
……と、文句を言いそうになった時、ドムは急に泣き叫ぶ女の子にズイッとカバンを差し出した。
「じゃあ、お嬢さんにオレちゃんのカバンあげるー!」
「え……」
「はい、どーぞ!」
「え、わ……あ、ありがとうございますぅぅぅぅ!!」
へぇ……やるじゃん、ドム! 見直したよ!




