22 執事たちのエコな栄養源
また照れたアレクサンダーが見たい気もするけど、それは置いておいて。
せっかくだからこの流れでいろいろ聞いちゃおう。
「質問に戻るよ! これまでの主人はどんな人がいたの?」
「申し訳ありません。それはお答えしかねます」
「おっけ。じゃあ次の質問。……主従関係が終わる時って、やっぱり主人が亡くなった時?」
アレクサンダーが息を呑む。まぁ、意地悪な質問だったよね。
答えられないならそれでいい、そう思っていたんだけど以外にもこれには答えてくれた。
「ええ、その通りです。ですが、別の方法もございます」
「えっ、そうなの? どういう時?」
「ご主人様が我々に解放を命じた時です」
「何そのランプの魔人みたいなシステム」
三つの願いを叶える運命にあるランプの魔人が、心優しい青年の最後のお願いで解放されるやつ。瞬時にあれを思い出しちゃった。
ただ違うのは、執事たちは三つどころか制限なく主人の助けになってくれるということだ。
今更だけど……辛くはないのだろうか。本当は解放されたいと思っている、とか?
アレクサンダーはいつも嬉しそうに世話をしてくれるし、バリーやチャズも嫌な顔一つしないからそういうものだと思っていたけど……。
本当はみんな自由を求めていたとしたら?
だとすると、私がしていることはものすごく残酷なことなのでは。
「これまでにも解放を命じてくださるご主人様はいらっしゃいました。けれど、失敗したのです」
「えっ、なんで!? せっかく解放しようとしてくれたのに」
「どうやらご主人様にも資質というものがあるようなのです。私どもにもよくわからないのですが」
淡々と説明しながら飲み終えたティーセットを片付けていくアレクサンダーをなんとも言えない気持ちで眺める。
執事たちにもわからない、か。けど、主人が命じれば解放されることは知っている。
実はアレクサンダーも条件は知っているけど、それを私に伝えるわけにはいかないからこんな言い方をした、とか? 考えすぎだろうか。
「私も試してみようか?」
「え」
わからないならやってみるしかない。それで無理なら諦めるほかないだろうけど……何事もチャレンジだと思うし。
「誰が資質を持ってるかなんてわからないんでしょ? それならとりあえずやってみ——」
「いけません!」
「っ!?」
軽い気持ちで提案しただけだったのに、思いのほか強い口調で止めらえて驚く。
見ればアレクサンダーは本当に深刻な顔を浮かべていて、いつものふざけた様子とか胡散臭い笑みとか、そういうのは微塵もなかった。
「万が一解放出来てしまったら、コトリ様はこの異世界でどう生き延びるおつもりなのですか! 解放されたら執事たちがどうなるかもわからないのですよ!」
「それは、そうかもしれないけど……」
「コトリ様は! 私がいらないのですか!? 出会ったばかりだというのに、もう我々と別れてもいいと……っ、あ、いえ、その」
泣きそうな顔で叫んでいたアレクサンダーが、ふと我に返って冷静さを取り戻す。
しどろもどろになって急に慌て始めたぞ……? 新たな一面を見た。
「な、なーんて、冗談ですよ、冗談! こんなに役に立つ執事を手放しかねないリスクを冒すなんてもったいないですよ! 私の有能さはコトリ様も十分ご存じでしょう?」
「わぁ、すっごい早口」
誤魔化そうと必死なアレクサンダーを見てたらなんだかちょっとかわいそうになってきたな。
仕方ない、ここはアレクサンダーに乗ってあげよう。
「なーんだ、アレクサンダーったら寂しいんだね? そっかそっかぁ。いつも大げさに褒めたり喜んだりしてくれるのがどこか胡散臭いと思ってたけど、それが本音か~」
「胡散臭いと思っていたのですね?」
「よしよし、捨てたりなんかしませんよー。アレクサンダーもバリーもチャズも、他の執事もみーんな愛してあげるからね。良い子良い子ー」
「ぐ、ぬぬ……!」
普段してやられることも多いから反撃出来て私は満足だ。
それと、頭を撫でられて満更でもない様子のアレクサンダーも見られたし。
なんだこいつ、可愛いじゃん。口元がにやけて緩んでるぞ。
たぶん、さっきのが本音なのは間違いなさそう。
そこにどんな感情や考えが隠されているのかまではわからないけど、今解放されるのは嫌だって思っているらしいことは伝わった。
というか、正直なところ私も今見捨てられたら困るしね。
魔物も存在するこの異世界を、執事なしで生き残れる気がしない。
「安心してよ。もう軽い気持ちで試すなんて言わないから。ちゃんとアレクサンダーとも、それから他の執事たちとも仲良くなって、この世界を堪能してさ。元の世界に帰るか、一人でも生きられるようになってから挑戦するね」
「……左様でございますか」
「あっれー? いつもの勢いはどうしたのかなー?」
「ぐっ、もうからかうのはおやめください、コトリ様! それは私の仕事です!」
「からかうのも業務の一環だったんだ?」
へっへっへ。いつもの仕返しだよ。
胡散臭いアレクサンダーの仮面が少しだけ剥せた気がして嬉しい。
「アレクサンダーもさ、命令を聞くのが辛くなったら言ってよね。私に出来ることならなんでもするし。解放のことだって……私は本気だよ」
「お気遣いありがとうございます。ですが心配無用。我々執事は主人の役に立てば立つほど喜びを感じる生き物ですから」
「そうなの?」
「ええ。むしろご主人様の満足度こそが我々の栄養素。人間でいうところの食事のようなものですから」
「エコだね?」
相変わらず執事の生態系が謎だ。確かに飲食をしている姿を見たことはないけど、生命維持に必要なのが主人の満足度とか。どんなふうに変換されてるわけ?
……はっ!
「ちょっと待って! じゃあまだ呼んでない執事は食事をしてないってことじゃん! 大丈夫なの!?」
「それも問題ございません。まだ召喚していなくとも、コトリ様と執事界が繋がっていますからね。執事の誰かがコトリ様の役に立てば、それが執事全員の栄養となります」
「もっともっとエコだった」
さらっと言われたけど、私と執事界が繋がってるっていうのも意味わかんない。
召喚する以上、世界と繋がりがあるのはわからなくもないけど……そもそも執事界って何。
召喚執事、まだまだ謎が多いなぁ。
「じゃあ、私がいつも申し訳ないとか思って気にしすぎると、あんまり栄養にならなかったり?」
「その奥ゆかしさがコトリ様の美点でもありますから、私からはなんとも」
「なるほど、遠慮なくお世話してもらうのがいいっぽいね」
こんな時でさえ主人の気を遣って正直に言えないとは。
うーん、遠慮なくお世話されてみるってどんな感じかな。最初に呼ばれたみたいに、お嬢様にでもなる?
「いつもわたくしのためにお茶の準備をしてくれてとても偉くてよ、アレクサンダー。……みたいな?」
「コトリ様のお嬢様解像度がそのくらい、ということでございますね。勉強になります」
「いっそ笑い飛ばしてほしいんだけど!?」
くっ、お嬢様も奥が深いっ!
この世界にいる本物の執事とお嬢様を見て勉強させてもらいたいよ、割と切実に!




