21 これまでの主人たちのこと
今日も今日とてコツコツ採集。やっぱりね、地道な作業が一番だよ。
毎日の宿代は支払える稼ぎだけど、金額は少ないし結局アレクサンダーに頼りっぱなしだけどね。
ただロッテさんへの返却を考えなくてよくなったのと、食事代がかからないのは大きい。精神的に。
今は少しずつレベルと経験値を上げて、稼げる金額が増えたらアレクサンダーに返していくつもり。
この調子で稼げる金額が増えるのはいつなんだっていうのは考えないことにする。
だって今は気分がいいからさ!
ちょっとモヤモヤしちゃったけど、しっかり悩めて答えも出せて、アレクサンダーにも話せてすっきりした。
無理なことはどうしたって無理だし、その中で自分がどうしたいかを考えるのが大事だって思うようにしたら吹っ切れたというか。
今考えたって意味がないのは、どうしたら元の世界に戻れるかということ。
まずは身近な執事に聞いてみるというのが一つ。
知らないなら手がかりを探す。
大まかに考えて私がやるべきことはそれしかない。
結局、アレクサンダーにも元の世界に帰る方法は知らないと言われてしまったけれど、「手段がない」とは言われなかった。
だから、もしかしたらあるのかもしれない。それをのんびり旅しながら探すのが今後の私の行動指針だ。
これさえ決まれば大丈夫。目的があれば頑張れるってやつだ。
「コトリ様、そろそろ休憩なさってはいかがでしょう」
「そうだね。たくさん採集出来たし、腰がやばい」
「マッサージします?」
「ありがとう。でも手をワキワキさせながら言うのやめてくれる?」
アレクサンダーは相変わらずふざけたことばかり言う。
でも悩みを聞いてもらって、ちょっとだけ距離が縮んだ気がして嬉しい。
だからさ、色々調べてその結果もし二度と元の世界に帰れないということが確定したら、その時は大泣きしてやろうと思う。
この世界で親しくなった人や執事たちにたくさん慰めてもらって、やけ食いして、また笑いながら過ごすんだ。
ご主人様らしく、ワガママ言ってみるとかね!
逆にもし帰れるのなら、この世界への未練が残ると別れが辛いんじゃないかと考えもしたけど……それも無駄だと気付いた。
アレクサンダーにも言ったけど、人生には出会いがあれば別れもある。
いつか別れが来るのなら、楽しかったなって思い出をたくさん作って、名残惜しい気持ちで帰ろうと思う。
来てもいない未来を想像してわざわざ落ち込む時間がもったいない。
だったら、別れるのが辛いくらい信用出来る好きな人をたくさん作って、思いっきり涙の別れをしたい。
そう考えたら旅の終わりも、旅が終わらなくとも気持ちは沈まない。はず。たぶん。
ふぅ、今日も紅茶が美味しいなぁ。
森の開けた場所に出されたティータイムセットで採集の合間の休憩をするのにも随分慣れた。優雅な冒険者生活だ。
「思ったんだけどさぁ、元の世界に帰るための情報収集なんてどうやったらいいんだろ? まさか手当たり次第に『私、異世界人なんですけど』なんて言えないし」
普通に考えたら不審者だよね。いやでも、異世界人が珍しい存在じゃない可能性もある、か?
うーん。私には判断出来ないし、リスクが高い。私が変なやつ認定されるリスクが。
そこまで考えてふと思う。
「っていうか、アレクサンダーたちはさ、これまでもいろんな主人に仕えてきたんだよね? その中に異世界から来た人はいなかったの?」
「いますよ。というより、私たちが使えるご主人様は全員異世界から召喚されてきた方々ですから」
「えっ!?」
特にあてにせず聞いてみたらまさかの回答。思わずテーブルに両手をついて立ち上がる。
ガチャンという食器の音が響き、アレクサンダーがサッとテーブルを押さえてくれた。あ、ごめん。でも今のは仕方ないと思う!
「なんで早く言わないの!」
「聞かれませんでしたので」
「ここは気を効かせて言うところだよぉっ!」
一人であれこれ考えていたのが馬鹿みたいじゃんっ! その姿を黙って眺めるなんて、どんな気持ちだよぉ!
そう思って恨み言が飛び出しちゃったんだけど、理由を聞いて納得した。
「そうは言いましても、元とはいえご主人様の情報を軽々しく口にすることは出来ませんから。今のご主人様であるコトリ様にも、お伝え出来ることと出来ないことがございます」
「う、それもそっか……守秘義務ぅ」
よく考えなくてもそれは当然のことだ。私だってもし次の主人に自分のことをペラペラ話されるのは嫌だもん。
……ん? 次の主人?
そこまで考えてまたしても気になったことが浮かぶ。
これも答えてもらえるかはわからないけど、聞くだけ聞いてみよう。
「じゃあさ、答えられることだけでいいから質問したら教えてくれる?」
「もちろんでございます。なんなりと」
「これまでの主人の中で、元の世界に戻れた人はいる……?」
私の質問にアレクサンダーはぴくりと眉を動かした。
それだけで答えがわかっちゃった。というか、予想は出来ている。
「……いえ、残念ながら」
「そんな言いにくそうにしなくていいよ。意外と優しいとこあるじゃん、アレクサンダー」
「むっ、私はずっと優しいでしょう!? こんなに紳士で優しい執事は他にいませんよ! あ、いえ、いるかもしれません」
「いるんかい」
まったく調子の良い。けど、やっぱりアレクサンダーにはこうして軽口を叩いてもらいたいよね。そのほうがこっちも気が楽だ。
「たぶんいないんじゃないかな、とは思ってたから大丈夫。だって、もしいたら私が聞いた時に『わからない』なんて言わないじゃん」
「なんてこと……私の純情を弄んだのですね?」
「だから言い方! 別に弄んでないし!」
でもふざけすぎはどうかと思う。
アレクサンダーはスタンダード執事だからもっとこう……お手本のような紳士的執事なんじゃないのか。
ただ、この前の姿を見た私には少しだけアレクサンダーのことがわかるようになったもんね。
やたらふざける時は、私を気遣ってくれている時か照れ隠しだってこと! んふふ!




