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スキル「執事召喚」でコトリは異世界を優雅に歩く  作者: 阿井りいあ
一章

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17/43

17 精一杯の罵倒


 魔法陣が現れ、ゆっくりアレクサンダーが姿を現していく。

 こんなに時間がかかったっけ? 気が急いてるからか、いつもよりずいぶん時間がかかっている気がした。


 そうして姿を現したアレクサンダーは──


「おっ呼びですか、コトリ様ぁ! あっ、そうそう。ご生還おっめでとうございまーす!!」


 ──ものすごく明るく元気にクラッカーを鳴らしながら現れた。


 乾いたクラッカーの音と共に紙吹雪が頭上で舞っているけど、私の頭は理解が追い付いていない。


 ……どういう、こと?


「おやぁ? どうしましたか? チャズからコトリ様が無事だということは聞いておりましたが……私、心配で心配で仕方ありませんでしたよ! ああ、よくぞご無事で。お怪我などもないのですよね? ……あの、コトリ様?」


 あまりにも私が無反応だったことが気になったのだろう。

 笑顔で上機嫌だったアレクサンダーは急に心配そうに私の顔を覗き込んできた。


 いや、心配していたのは私のほうなんですけど。


「……アレクサンダーは無事、なの?」

「ああ、私のことですか? あまりそういうことを言わせないでくださいよ。ご主人様の前で無様に敗北してしまったというのに」


 バツが悪そうな顔で苦笑いするアレクサンダーの胸倉を両手でガッと掴む。


「無事なんだね!?」

「っ!? え、ええ。我々執事は、執事界に戻れば勝手に怪我が治りますので。そもそも『死』という概念が存在いたしませんから」


 執事界? なんだそりゃ。まぁ送還するなら帰る場所くらいあるか。

 なんかよくわかんないけど、とにかく無事なんだね? アレクサンダーは怪我一つない状態なんだね!?


「ぅ、わぁぁぁん!!」

「!?!?」


 一気に力が抜けて、その場に座り込んで泣いた。

 小さな子どものように大声を上げて。


 珍しくアレクサンダーが酷く動揺した様子を見せているけど、それをまじまじと堪能する余裕も今はない。


「い、いかがされましたか!?」

「無事でよかったよぉ……私、アレクサンダーが死んじゃったかもしれないって……うっ、召喚した時に怪我が酷かったらどうしようって……ぐすっ」

「コトリ様……」


 本当に怖かった。

 異世界にたった一人で召喚されて、途方に暮れていた時に初めて召喚した執事がアレクサンダーで。

 やたらうるさいけど、なんだかんだと世話を焼いてくれて、側にいてくれる存在が本当にありがたくてさ。


 なのに、こんなにすぐにお別れになっちゃうの? って。私のせいで大怪我したり、死んだりしたらどうしようって、怖くて怖くて堪らなかった。


 目の前で元気な姿を見せてくれていても、あの時の血まみれなアレクサンダーが脳裏に浮かんで、もう、もう……!


「ああ……お湯に、傷薬や飲み薬、包帯もこんなに……コトリ様。私のために用意してくださったのですね」

「うぅっ、ぐすっ」

「こんなにも泣かせてしまうなど執事失格です。事前にお伝えしておくべきでしたね。我々は死ぬことはない。怪我をしてもすぐに治りますから問題ないと」


 片膝をついて反省したようにぺらぺら喋ってるけど、違う。そうじゃない。


「問題なくないっ!」


 涙声になりながら叫ぶ。

 アレクサンダーはまた目を丸くして戸惑っているけど、そういう態度が腹立つんだよ。


 問題ない? 大有りでしょ!

 なんで平気そうにするの。精霊だったら何しても、何されても構わないみたいなことを言うな。


「怪我したら痛いじゃん! 今回は仕方なかったかもしれないけどさ、ああなる前にチャズを呼ぶことだって出来たもん! 二度と! あんな怪我するような……自分を犠牲にする選択なんかしないで!!」

「は、い……」

「死なないから、治るから平気じゃないんだよ。痛いものは痛いでしょ! 馬鹿! アホ! すっとこどっこい!」

「すっとこ……?」


 その後、思いつく限りの悪口をひたすら並べて罵倒しまくった。

 でも正直、人に悪口を言う機会なんてあんまりなかったから、語彙が少ないというか小学生並みになった自覚はある。


 ついに叫ぶこともなくなって、はぁはぁと息を切らしながら俯く。

 涙がボタボタ床に落ちて、拳を作った両手が震えているのが見えた。


 怖くて震えているのか、怒りで震えているのかわかんないや。

 でも言いたい放題言って、ちょっとすっきりしたかも。


 ……ちょっと気まずいな。

 アレクサンダーは今、どんな顔をしているのだろう。


 しばらくして、アレクサンダーが身じろぎしたのがわかった。

 それから静かな声で、今度こそ深く反省したような声色で謝罪を口にした。


「申し訳ありませんでした。コトリ様の言う通りにします。ですからどうか……どうか、泣き止んでくださいま、ごふぅっ」

「あ、ごめん」


 勢いよく頭を上げたものだから思いっきりアレクサンダーの顎に頭突きしてしまった。

 思っていたより近くにいたんだね。ほんとごめん。


 というか、どうやら抱きしめてくれようとしていたみたい? 行き場を失った両手が虚空を掴んでいる。


 なんだよ、いいとこあるじゃん。


 ならば、と思った私は勢いよくアレクサンダーの首に手を回し、ぎゅうぎゅうと抱きしめてやった。

 そっちがやろうとしてたことを、こっちが先にってね。


「コ、コココココトリ様っ!?」

「なにさ。ギュってしようとしてたのはアレクサンダーじゃないの?」

「そ、それは、その、そうですが。しかしそれはあまりにもコトリ様が」

「うるさいなぁ。主人より先にハグしようだなんて烏滸がましいよ」

「はっ! それは確かに。このアレクサンダー、コトリ様の最初の執事として甘んじて、そしてありがたくコトリ様からのハグを頂戴いたします!!」

「ええい、やかましい! 耳元で叫ぶの禁止!」


 照れ隠しなのはなんとなく伝わったよ。

 意外と初心なんだね、精霊のくせにさ。


 でも、本当に良かった。アレクサンダーが無事で。

 それにしても……なんだかどっと疲れちゃった。


 アレクサンダー、あったかいな。精霊もちゃんと体温があるみたいで、安心、した。

 ほんと、人間と、変わら、ない……。


「? コトリ様? ……眠ってしまわれましたか。まったく、こんなご主人様は初めてですよ」


 もう二度と、執事が傷付く姿を、見たくは、ない、なぁ……。


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コトリがいい子過ぎる
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