16 そうだよね、事後処理があるよね
冒険者ギルドに行ったらすぐに手続きをして宿に帰ろうと思っていたんだけど、オーガの件でまたしても別室に連れて行かれてしまった。
そ、そうだよね。ぐちゃぐちゃにだけど素材を渡したし、事情を聞かずにはいられないか。
それに、どれだけ急いだって魔力の回復には時間がかかる。色々と準備もしたいし、冷静になる時間だと思おう。
先に逃げていったあの冒険者たちから報告があった後、ロッテさんがすぐ現場に向かったらしいんだけど、どうやら彼女とはすれ違ったみたいだね。
チャズがいるところを見られなくてよかったと言えるかも?
というわけで今私の対応をしてくれているのは、あの時会った男性の一人で義手の人……な、名前は、シュンとかシャンとかそんな響きだった気がする。忘れた。
まぁ、どうにかなる……!
「お前さんがオーガの素材を持ってきた時はたまげたぜ」
「あ、あはは。私も驚きましたぁ……」
ちなみに事情については嘘と事実を混ぜて説明したよ
『オーガに追われる冒険者とすれ違った後、私も慌てて逃げたんですけど……途中でオーガの攻撃の風圧で飛ばされて意識を失ってしまったんです。次に気付いた時、オーガの死骸が燃えていて、素材の入った袋が残っていたんですよ。誰が倒したのかはわからないです……』
という無理のある説明をね!
私の精一杯だよ……! 頑張ったんだよ、これでも!
でも、気を失ってたという部分以外はほぼ事実だからね。気付いたら戦いは終わっていたし、あっという間に燃やしてくれたし。
最大の謎である「誰の仕業か」も隠しているけど。そろそろ胃が痛くなりそう。
こんなとんでも説明ではあったけど、バリーの一件があったからか義手の人はすぐに信じてくれた。
私のような小娘がオーガを倒せるわけがない、ってのもあるだろうね。そうだよ、倒せるわけないでしょ。
「あのマッチョがまた来てくれたのかもなぁ」
「ど、どうでしょうねぇ? 結局今回もよくわからなかったです」
目が泳ぎそうになるのを必死で耐えて笑顔で相槌を打つ。
バリーがやってくれたことになりつつあるけど、訂正も出来ないのでそのままにしておこう。
実際は別の執事なんですけどね、などと言えるわけもない。
そうこうしている間に、部屋にワンレン眼鏡さんが入ってきた。
この人もあの時の! えーっと、マ、マ……。
「ショーンさん、ロッテさんと連絡が取れました。周囲をもう少し調べてから戻るそうです」
「おう、ありがとな。マルコ」
ショーンさんとマルコさんだ! 呼び合ってくれてありがとう!
今度こそ覚えておかないとなぁ。ギルドに来る機会は増えそうだもん。ショーンとマルコ……。あとでメモしておこうっと。
「でも、原因は大体わかってますけどね」
「あのチームだろ。前科があるからまたか、って感じだな」
「巻き込まれたコトリさんがあまりにもかわいそうです。ついこの間も大岩のせいで森に取り残されたというのに……」
ん? あの逃げていった冒険者たちには何かあるのかな?
首を傾げていたらマルコさんが眼鏡をクイッとしながら教えてくれた。
「以前から素行の悪さが目立っていたチームなんですよ。手柄を横取りしたり、大げさな報告をしたり。依頼書を無視して実力に見合わない魔物を狩りに行ったこともあって、おそらく今回も同じことをしたのでしょう」
「前回、痛い目に遭ってんのに懲りない奴らだよな。そういう根性は別のところで発揮してもらいたいもんだ」
つまり、突かなくていい藪を突いて鬼を出してしまったってことか。
しかもあのままオーガが暴走していたら町まで追いかけて来ただろうからと、あの冒険者たちには重いペナルティが科されるのだそうだ。
「ったく。逃げるなら人のいないほうに逃げるのが鉄則だろうに」
「町に逃げるなんて冒険者というより人としてダメです。馬鹿です。救いようがありません」
辛辣だ……。でも、ずっとどうにかしたいと思っていた冒険者チームにようやく罰を下せるとあって、二人は少しだけホッとしているように見えた。
事が事だけに喜べないけど不幸中の幸いみたいな感じなのだろう。
「しかし、コトリはよく無事だったよなぁ。大岩の時もだが、運よく助けられたみたいで本当に良かったぜ。もしかしてステータスの運がよかったりするか?」
「まぁ、そうですね」
「やっぱりか! ただあの運ってやつは変に良いとトラブルにも巻き込まれやすいんだよなぁ。手放しで喜べないのが辛いよな」
「えっ、そうなんですか!?」
「ん、知らないのか?」
ショーンさんが言うには、良いことが起こる前というのは大体にしてトラブルがつきものだという。
そしてラッキーというのは、不幸を回避出来た時に感じることが多い、と。それは確かに。
「おとぎ話に出てくる宝の山だってドラゴンが守ってるだろ? 運の良さってのはそういう『引き』も強くなるってのが通説だな」
「そんなぁ……」
「現に、コトリは大岩のせいで森から出られないところだったが、無事に町にたどり着けた上に俺たちに保護されたし、今回だってオーガの素材をタダで手に入れたじゃねぇか」
「運のステータスがSであれば、トラブルなども知らないうちに素材を入手、なんてことになるんですけどね。まぁ、滅多にいませんが」
素直に喜べない……っ! Aという中途半端に良い運がトラブルを呼んでいたなんて!
トラブルメーカーじゃん。悪運じゃん!
「今後もこういうことがあるかもなぁ。だが運の良さも絶対じゃねぇんだ。くれぐれも気を付けてくれよ」
「特に今回は本当に危機一髪でしたよね。誰かわかりませんが助けがなければ今頃ロッテさんはコトリさんの無残な姿を……」
「わーっ! 聞きたくないですぅ! 気を付けますよ! それはもうめちゃくちゃ気を付けますっ!」
慌てて話を遮ったら二人に苦笑されてしまった。
わかってるよ、あまり重たい雰囲気にならないように注意してくれたことくらい。
私だって命が惜しい。本当に、ちゃんと、気を付けます!
◇
冒険者ギルドを出る頃には日が落ちかけていたので、私は真っ直ぐ宿へと戻った。
おかみさんには食事をどうするか聞かれたけれど、ちょっとした買い物をしてしまったし、どうも空腹を感じなかったので断った。
部屋に戻って鍵をかけ、ベッドに腰掛ける。
今日やることは全部終わった。魔力も全回復してる。
「うっ、だめだ。思い出しちゃう」
すぐにでも確認したかったんだけど、脳裏に血まみれのアレクサンダーが浮かんでなかなか動けない。
チャズを召喚して、オーガを倒してもらって、ギルドにいって……いろいろあったから考えずにいられたけど……こうして一人で静かになるとだめだね。
私、こういうのに弱かったんだ。
ま、平和な世界で生きてきたんだから当たり前なのかもしれないけどさ。
この世界で生きていくのなら、少しは慣れないとだめ、かな? 慣れる日は来るのだろうか。
「すぅ、はぁ、すぅ、はぁぁぁ……。よし」
深呼吸を繰り返して、どんな状態で現れても受け入れられるように心を落ち着かせる。
「……執事召喚。アレクサンダー」
覚悟を決めるのに時間がかかったし、声も震えたけど、ようやく私はアレクサンダーを呼び出した。




