15 とんでもなく強くて不器用な
私とオーガの間に魔法陣が現れた。こんな時なのに可愛らしい魔法陣が光っているのがなんだかすごくシュールだ。
ただ召喚時の光によってオーガが怯んでいる。
祈るような思いで見つめていると、魔法陣から長い赤髪をうなじのあたりで一本に結んだ二十代半ばくらいの青年が姿を現した。
あ、いや、ちょっと待って。
左頬に可愛い紋章があるーーーーっ!?
いくらなんでもかわいそうすぎる。どうしてそんなところに……?
本当にごめん。なんか、ほんと、ごめんな……。
しかし現れた彼はそんなこと一切気にしたふうもなく、現れた瞬間すぐにオーガに向き直ったかと思うとそのまま突撃した。
突撃した!?
えっ、待って。私はなんの執事を召喚したの!?
慌ててタブレットを出しつつ、赤髪執事の姿を目で追う。
いや、目で追えなかった。速すぎて。
今、目の前で一体なにが起きてるんだろう。
気付いた時にはオーガが大きな音を立てながら倒れていて、赤髪の青年がビッと持っていた剣を振りながら血を落としていた。
た、た、倒した……? え、本当に何者なの?
危険も去ったみたいなので、改めてタブレットに視線を落とす。そして執事のタイプを見てすぐに納得した。
「バトル執事……?」
ぽつりと呟いた時、すっと影が落ちたので顔を上げると目の前に赤髪のバトル執事が無表情で立っていた。
いや、怖いから。何か言って……。
「あ、の。ありがとう。助かったよ」
「いや……」
「……」
会話が続かない。これはあれだ、話下手タイプだ?
こっちが質問しないと答えてくれなさそうだと察した私は、一つ一つ確認していくことにした。
「えっと、名前を教えてくれる?」
「チャズ」
「チャズね。もう一度言うけど本当にありがとう。あの、あのさ。オーガはもう、倒したんだよね?」
「うん」
「あれって……どうしたらいいの?」
震える手で倒れたオーガを指さして質問すると、チャズは少し黙ってから口を開いた。
「……討伐部位と素材を取る。肉は食えないから後は全部燃やす」
「な、なるほどね。素材を……ど、どうやって?」
「どう、って。こう……」
チャズは少しだけ手を動かす素振りを見せた後、その動きも止めて黙ってしまった。何か困っているようにも見える。
わかった、説明が苦手なんだね? その気持ちはちょっとわかるよ。
でも大丈夫。私は説明が聞きたいわけじゃないから。
「あのね、私は討伐部位がどこかもわからなければ、どうやって取ればいいのかもわかんないんだ。だからチャズに取ってもらって、その後燃やしてもらいたいんだけど、出来る?」
「……わかった。やる」
私の指示を聞いたチャズは少しだけ難しい顔を浮かべた後すぐに動き始めた。
あんまりやりたくなかったのかな? だとしたら申し訳ないことした。でも私には出来ないし放置も出来ない気がしたから……。ごめんね!
しばらくの間、黙々とオーガの解体をしていくチャズを見守っていたけど……あまりにもグロくて見ていられない。
申し訳ないけど終わったら声をかけてもらうことにして、少し離れた場所で待つことにした。
その間に、チャズのステータスを確認する。
=====
【チャズ】
タイプ:バトル
HP:測定不能
MP:測定不能
攻撃力:測定不能
防御力:測定不能
素早さ:A
賢さ :C
器用さ:F
運 :F
=====
なんか、こう……いろいろと、すごいな。
チャズがあっさりオーガを倒した理由がわかったというか、恐ろしいスペックだ……。
何とも言えない気持ちになっていると、チャズが声をかけてきたので振り返る。
背後ではオーガの死骸が盛大に燃えている。魔法も使えるんだね。すごい。MPが測定不能なんだから当たり前か。
「少し……傷がついたけど」
「……少し」
そうして渡してきたのはオーガの素材……らしきものだった。
かろうじて原型をとどめている角と、ほぼ潰れている目玉や臓器? がいくつか。グロすぎてあまり直視出来ない。
ああ、そうか。器用がFだったね……。
だからちょっと嫌そうだったんだね。納得。
「……ごめん」
「ううん、ありがとう。十分だよ」
頼んだのは私だし、そもそも私には何も出来なかったんだからやってくれただけ大感謝だよ。
そう思ってお礼を言うと、チャズは目を丸くした後さっと逸らしてフードを被った。それもギュッと引っ張って顔が隠れるようにしている。
もしや照れているのだろうか。可愛いところあるじゃん……。
「そろそろ、時間」
「あっ、そうだね。最後に、周辺に危険な魔物とかはもういない?」
「いない。気配を感じない」
「よかった……ありがとう。また困った時に助けてくれたら嬉しいな」
最後にもう一度お礼と挨拶を伝えると、チャズはまたしても照れたような、戸惑ったような反応を見せた。ちょっと癖になりそう。
「僕は執事だから。呼ばれたら助ける」
「まぁそうなんだけど。でも嬉しいものは嬉しいって言いたいんだよ、私は」
「……変な主人」
「変って。普通だよ、私は。あと恋鳥って呼んでね」
「わかった。コトリ様、また」
チャズは素っ気なくそう言うと、スッと姿を消した。
わかってるよ、その態度が照れ隠しだって。
辺りに静けさが戻る。目の前にはオーガが燃えた後と、わざわざ革の袋に入れてチャズが置いていってくれた素材たち。
袋越しでもあまり触りたくなかったけど、そんなこと言ってられないよね。
オーガが燃えた匂いがすごいことになっているので、なんとなくこの場所にとどまるのは良くない気がした。よし、急いで町まで戻ろう。
頑張って集めた薬草を冒険者ギルドに持って行って……この素材もついでに渡して、手続きをして、それで真っ直ぐ宿へ。
行きは一緒に来てくれた存在がいないことが、ものすごく不安で、同時に考えないようにしていた件が一気に頭の中を巡る。
「アレクサンダー、死んでないよね……?」
血まみれになって倒れたアレクサンダー。
魔力にも余裕があって、送還もしてないのに勝手に消えていった。
それでも、最後に私のためを思って執事を召喚するよう助言してくれた。
「っ、早く、魔力回復して……!」
再び呼び出すことは出来るのかな。大怪我をした状態で現れたらどうしよう。
心配と不安と恐怖で心がめちゃくちゃだったけど、出来るだけ考えないように私は走り続けた。
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【コトリ・アサウミ】Lv.2
HP:22/22
MP:1/15
攻撃力:F
防御力:F
素早さ:E
賢さ :C
器用さ:D
運 :A




