14 緊急事態発生!
移動中、依頼書の中身を確認する。ギルドカードに記載されている受注中の依頼欄に触れるとディスプレイが表示される仕組みなんだとか。近未来的ぃ。
「オトギソウか。オトギリソウみたい」
「オトギリソウ、という名の薬草があるのですか?」
「うん、聞いたことがある程度だけどね」
外傷に効く薬になる、か。用法や薬効なんかも似てる気がする。詳しくないからなんとも言えないけど。
絵も描いてあるからそれを参考に採集しよう。特徴も細かく書いてくれてるしね。さすがは初心者向けの依頼だ。
「日当たりのいい場所に自生してるって」
「ええ。オトギソウはどこででも見かけますからね。その上、あればあるほど助かる薬草ですから常に依頼書がありますよ」
「なるほどねー」
これぞ、誰にでも出来る依頼! でもそういう依頼こそ小さな子どもが受けたがるらしいから、慣れたら別の依頼を受けるようにしたほうがいいとのこと。
小さな子どもの仕事を奪うことになっちゃうもんね。オッケー、把握。
アレクサンダーに連れられて広い野原に着いた。目的のオトギソウは探さなくてもすぐに見つかった。
「十株から五十株か。取りつくさない程度に、それでいて上限いっぱいは集めたいね」
「この季節はバンバン生えてきますから、五十程度なら問題なく採集出来るかと」
「そっか。なら遠慮なく作業を始めちゃおう。アレクサンダーは見張りと護衛ねっ。採集は私一人でやらせて!」
「かしこまりました」
なんとなく幼い子どもを見守るような目で見られている気がするけど考えないことにする。
いいんだよ、私はこの世界において赤ん坊みたいなもんだしね……ははっ。
オトギソウを見つけてはせっせと根っこから採集していく。葉も花も根っこも別の薬になるんだって。すごいねぇ。
なお、作業は黙々と作業して三十分たつ直前でアレクサンダーを送還し、休憩を挟んで魔力を回復させる。これを繰り返すことで少しでも長く安全に作業をする計画だ。
もし魔物が現れた場合はすぐに召喚出来るように余裕を持つことも忘れません。
ビビりだって? いいの! 安全第一!
結局、アレクサンダーがいる時に小さな魔物が二、三体現れたくらいで無事に五十株集めることが出来た。
さすがは運だけ少しいい女。こういうところで仕事をしてくれるのありがたい。
と思っていたんだけど、なんだか騒がしい……?
顔を上げると森のほうから走ってくる人たちが見えた。
走ってくるというか、逃げてるというか、なんかすごい必死じゃない!?
「おいっ、逃げろ! 今すぐにっ!」
「えっ? あ、痛っ」
逃げてくる人の一人がそう叫んだので慌てて立ち上がろうとしたのに、後から続く人にぶつかって尻もちをついてしまった。いったたたぁ。
「あの野郎、コトリ様にぶつかっておいて何を……」
「いや、なんか必死だったしいいよ。それより何が起きてるの? これって私たちも逃げなきゃいけない雰囲気ない!?」
転ばされたことよりもそっちのほうが気になって仕方ないよ。だってあの形相はただ事じゃない。
アレクサンダーとともに森のほうに視線を向けると……な、なんかすごく大きい上半身裸の大男が追いかけてきてる!?
な、な、なんだあれーっ! 全身赤い大男だっ!
あっ、角がある。まさか鬼!?
「オーガ!? なぜこんなところに」
「あ、あの鬼のこと? やばそうなことはわかるっ!!」
「さすがはコトリ様、察しがよろしくて助かります!」
今はそれ、褒められても嬉しくない!
とにかく逃げるしかないと思って慌てて走り出す。
でも私の足はお世辞にも速いとは言えず、このままだと追いつかれるのも時間の問題だ。
嘘でしょ、ここで死ぬ!?
息が上がってきたところでアレクサンダーが急に立ち止まった。えっ、何!?
「コトリ様。私の戦闘力ではオーガを倒すことは出来ません。足止めはいたしますからこのまま町まで逃げてください!」
「えっ、アレクサンダーはどうするの!?」
「いいから、早くっ!!」
ただ事ではない雰囲気だ。そうしたほうがいいのはわかる。
そりゃあ私は足手まといだよ。追いつかれそうになったから、アレクサンダーが足止めしなきゃいけなくなったんでしょ?
でもアレクサンダーはオーガに勝てないって言ってた。
そんなの、やだ。いくら精霊で人より丈夫だからってさ、捨て駒みたいに扱えないよ。
でも私には何も出来ない。非力で、体力もなくて。足止めしてもらわないと逃げ切ることさえ出来ないんだ。
とはいえ、せっかく身体を張ってくれてるのにそれを無下には出来ない。うじうじしてる暇なんてない!
私は覚悟を決めて再び走り出した。
うぅ、足がもつれそう。運動不足が過ぎるでしょ、私。でも前に行かなきゃ。前へ、前へ……。
「ぐ、はぁっ」
「っ、アレクサンダー!?」
背後でうめき声が聞こえ、思わず振り返る。
その瞬間、バランスを崩してしまった私はその場で盛大に転んでしまった。もうっ、どうして私はこう……!
体を起こそうとした時、すごい勢いで転がってきた血まみれのアレクサンダーが目に飛び込んでくる。
オーガによって吹き飛ばされたんだと理解するのに少し時間がかかった。
え? い、生きてる、よね……? 死んでないよね!?
「コ、トリ、さま……執事、召喚を……」
「アレクサンダー!!」
最後にそう言い残し、アレクサンダーはふっと姿を消してしまった。
まだ魔力には余裕があるし、送還だってしてないのに……!
どうしよう。アレクサンダーはどうなったの? ううん、それ以前に!
「グルァァァァ!!」
「ひっ」
オーガと目が合ってしまった。間違いなく標的にされてる。
死ぬ。私、ここで死んでしまう……!
……諦めて、たまるか!
最後にアレクサンダーはなんて言ってた?
私に出来ることなんて、これしかないでしょ!
「執事召喚っ!!」
お願い、誰か助けて……!




