13 アレクサンダーによる依頼の受け方講座
ぐっすり眠ってすっきり目覚めた私は、すぐにでもアレクサンダーを呼ぼうとして思いとどまる。
ここは私一人が宿泊している部屋なのだ。
実は昨日も部屋に出入りする時にすったもんだがあったんだよね。
アレクサンダーも部屋に泊まっていると思われたら、実際は泊まらないのに追加料金を支払わなきゃいけなくなる。
ケチの思考とか言ってられない。今の私は本気でお金がないんだからっ!
あと私との関係を詮索されるのも居た堪れないからね。
どれだけ美男子だろうが相手は精霊なんで。どうこうなるとかないんで。
というわけで、昨日はアレクサンダーの身体能力を駆使し、おかみさんにバレないよう窓から部屋に出入りしてもらっていたんだよね。
今も同じように窓から、とも思うけど、夜と違って人目が多そうだし、私の精神衛生上よくない。ひやひやしちゃって心臓に悪い。
だからわざわざ宿に出入りしなきゃいけない時に呼ぶのはやめようと思う。
それに今日は冒険者ギルドで依頼を受けるところから手伝ってもらうからね。依頼をこなしている間に魔力切れで帰っちゃうなんてことになったらいよいよまずいもん。
うぅ、早く魔力増えないかなぁ。そのためにはどんどん召喚したり経験を積んでレベルを上げていかなきゃいけないわけだけど!
ゲームとかでもそうだけど、初期が一番危ないよね。レベルが上がりやすいのも初期なんだろうけど。
ある程度レベルが上がるまでは絶対に無茶しない。
危険な場所には近付かない。
嫌な予感がしたらすぐ逃げる!
これを徹底しよう。ゲームと違って私の命は一つなんだから。
考えないようにしていたけど、元の世界に帰れるかもわからないしね。はぁ、鬱。
っと、こうならないようにポジティブに考えなきゃ。
せっかく違う世界に来たんだから楽しみつくさなきゃもったいない! 貧乏性はこういうところでも発揮されるのだ! よしっ!!
宿の食堂に下りて朝食をいただきつつ、もう二日分の追加料金を支払う。……アレクサンダーから渡されていたお金で。
ぐぬぬ、絶対に自分で支払えるようになってやる……!
人のお金で焼き肉は食べたいけど、生活に必要なお金を出してもらうのはなんか違うんだよ。
ちなみにどういう原理かわかんないけど、お金はアレクサンダーの送還とともに消えることはなかったんだよね。
これで消えていたらまさしく詐欺なので本当によかったよ。すでにロッテさんに支払った後だったし。
先に確認しておけよってね。本当、その通りすぎる。私はもっと思慮深くなるべきだ。
宿を出て、冒険者ギルドに向かう道すがら、人目につかない場所を探してささっと路地に入る。
今の私、すごく不審者……! でも背に腹は代えられないので。
「執事召喚、アレクサンダー」
コソコソと小声で呼び出すと、心なしか召喚する時の光も控えめになった気がした。配慮ありがとう、魔法陣。
「おっはようございます、コトリ様ぁ! 本日も私を真っ先に呼び出していただけるなんて……このアレクサンダー、天にものぼ……むぐっ」
「声が大きいんだってば!!」
しかし空気を読めないのか読まないのかわからないこの執事は現れた瞬間から元気いっぱいすぎる。
慌ててアレクサンダーの口を手で塞ぎ、私は小声で叫んだ。
「コトリひゃま、へっきょくへきでふね」
「し、ず、か、に……!」
何が積極的ですね、だ。
魔法陣でさえ空気を読んでくれるのに、どういうこと!? 執事こそ読むべきではないのかっ!
ひと悶着ありながらも無事にアレクサンダーを召喚出来たので、私たちはその足で冒険者ギルドへと向かった。
アレクサンダーは妙にご機嫌な様子で釈然としない……。
冒険者ギルドに到着すると、今日はまっすぐ依頼が張り出されている掲示板に向かった。
「わぁ、依頼ってたくさんあるんだね。昨日はあんまり見なかったのに」
朝だからかたくさんの依頼がずらーっと表示されている。
みんながこの時間に依頼を選んで受けていくから、午後以降は少ないのかもね。今後は時間帯も気を付けよう。掲示板前、混んでるし。
というか、よく見たら依頼書……紙じゃなくない? 昨日は遠目だったし数も少ないから気付かなかったけど、掲示板は電子画面みたいになってて、冒険者たちが次から次へとカードをかざしている。
「依頼書は紙かと思ってたよ」
「大きな町であればあるほど、冒険者もたくさんいますから。いちいち紙でやり取りすると時間もかかりますし、ギルド職員が大忙しになります。そうなるとミスも増えますしね。人の少ない町や村はいまだに紙の依頼書を使ったりもしますが、今の主流はこの魔導掲示板です」
「技術が進んでるなぁ……」
そうなると、どうやって依頼を受ければいいんだろう? 初めてセルフレジを使う時の気持ち。
助けて、の意味も込めてアレクサンダーを見上げると、彼はパッと顔を輝かせた。
「受けたい依頼に昨日作成したギルドカードをかざせばいいだけですよ」
「それは見てればなんとなくわかるけどさ、注意事項とかは?」
「もちろん、お教えしますとも。コトリ様、ギルドカードを貸していただけますか?」
教えるのが嬉しいのか、ワクワクした様子なのがちょっと微笑ましい。
差し出された手にギルドカードを載せると、アレクサンダーは意気揚々と説明を始めた。
「まず、このギルドカードには持ち主の個人情報が保存されております。といっても、登録時に記載した以上のことは記録されておりません」
「名前と年齢、特技だっけ。特技は空欄にしたけどいいんだよね?」
「ええ。特技は特殊な依頼があった時、ギルド職員が頼める人を探す際の参考用ですから」
昨日も何度か確認したもんね。
精霊召喚のことを秘密にするのは心苦しいけど、召喚魔法と書いただけで大騒ぎになるかも、なんて言われたら書けるわけもない。
「これは初期データになります。ここから依頼をこなしていくことで、持ち主が過去にどんな依頼を受けたか、成功と失敗の割合はどうか、依頼遂行頻度などが記録されていきます」
「なるほど、情報が更新されていくわけか」
「はい。受注は掲示板で簡単に出来ますが、依頼を終えたあとは受付でカードの更新手続きをしてもらい、依頼完了となります。期限のある依頼に関しては、たとえ失敗でも期限内に手続きをしないとカードにペナルティとして記録されてしまいますのでご注意を」
ペナルティになるより失敗と記載されていたほうが信用度が失われないんだっけ。うまいこと作ってるんだなぁ。
感心していると、アレクサンダーが掲示板に近付いて行ったので後を追う。
「では次に、依頼を受ける方法です。カード情報をもとにその人が受けられるであろう依頼のみ受注することが出来ます。このように……」
アレクサンダーが魔物の討伐依頼にカードをかざすと、依頼書が赤く点灯した。なんかダメって言われた気がする。
「今日が初めての依頼であるコトリ様が難易度の高い依頼を受けられるはずもないので、このように受けることが出来ません。逆に誰でも受けられるような初心者向けの依頼であれば……」
今度は薬草採取の依頼書にカードをかざすと、依頼書が緑に光ってポンと音が鳴った。
「こうして受けることが出来ます。あとは依頼を遂行し、終わったら受付で手続きですね」
「なるほど。……あれ、私この依頼を受けることになった?」
「一定時間内であれば取り消しにペナルティはありません。何度でも変更出来ますよ。ただ」
「ただ?」
アレクサンダーが目で掲示板を見るよう促してくるので私も視線を移す。
……ふむ。ふんふん、なるほどね。
「今の私が受けられるのはこれと似たような採取依頼くらいってことか」
「その通りです。別の薬草採取にしますか?」
にっこり笑顔を向けてくるアレクサンダーにじとっとした目を向けてしまう。わかってて聞いてるでしょ。
でも、最初から私が受けられる中で一番良さそうな依頼を選んでくれたんだよね。そういうところは信用してるよ。胡散臭いけど!
「ううん。せっかくアレクサンダーが選んでくれたし、これでいこう!」
「なんと、コトリ様が私を全面的に信用してくださっている……!?」
「召喚時間も限られてるから」
「ああっ、元も子もないっ!」
というわけで時間も節約! さくさく行くよー!




