12 身分証はここにいることの証
無事に冒険者登録も終え、宿に戻ってギルド用カードを眺めながらニマニマしてしまう。
「コトリ様……少々、人にはお見せ出来ないお顔になっておられますよ」
「失礼な!」
「ここが宿の一室で良かったです。私しか見ていませんからね!」
ちょっとにやけちゃっただけじゃん! 主人に対してどんどん遠慮がなくなってきてない? この執事。
まぁいい。気にしたら負けだ。それに今の私はご機嫌なのでこの程度どうってことないもんね。
「そんなに嬉しいですか? 身分証みたいなものですよ?」
「身分証になるから嬉しいんじゃん。この世界に、私という人間が存在するって認めてもらったみたいでさ」
身分証って大事だよ。日本での身分証はここでは意味がないからね。
世界に認められたって言い方は大げさかもしれないけどさ、やっとこの世界の住人になったみたいでやっぱり特別感がある。
そんな私の言葉に思うところがあったのか、アレクサンダーはそれ以上からかってくることはなかった。へぇ、空気読めるじゃん。
「帰りに少しどんな仕事があるか見てきたけどさ、やっぱり素材採集がいいかなって。図鑑も借りられるみたいだし、私でもなんとかなるかもしれない」
「ええ、きっとコトリ様でも出来るでしょう。それでは明日から依頼を受けに行ってみますか?」
「うん。だからアレクサンダーには護衛としてついてきてもらいたいな。魔物が出てきたら私、絶対に死ぬし」
「諦めるのがお早い」
諦めが早いんじゃないの、自分が無知で無力なのを知ってるだけ!
それにいずれは自分で対処したり逃げられるようになってやるんだから。
もう、わざわざそういう言い方してさぁ。天邪鬼なところあるよね。
口を尖らせてブツブツ言っていると、アレクサンダーがどことなく不思議そうな顔で話を続けてきた。
「もちろん、護衛は引き受けますよ。せっかく出会えたばかりだというのにコトリ様を死なせるわけにはまいりませんから。……ですが、一点気になることが」
「? なに?」
余計なことをずけずけ言うアレクサンダーが少しだけ言い淀んでいる。え、何? そんなに言いにくいこと? 緊張するから神妙な顔はしないでほしい。
「私でよろしいのですか? そりゃあ私は優秀ですからなんでもそつなくこなせます。その辺の魔物なら難なく駆除も出来るでしょう。有能な執事ですので」
「自己肯定感高ぁ……」
「けれど、執事の中には戦闘に特化した者もいます。そういった者に頼まなくても良いのですか?」
「ああ、そういうことか」
でも、アレクサンダーの疑問はびっくりするほど拍子抜けする内容だった。
自分を呼んでもらえて喜ぶくせに、いつも頼られると心配になるって感じ? 他の執事への配慮とか? 可愛いとこあるじゃあん?
「私も考えたことはあるよ? でも一度召喚してみないとどんな執事かわかんないじゃない? 必要魔力もあるし、余裕のある時じゃないとなかなか手を出せないっていうか」
「まぁ……一理ありますね」
「アレクサンダーが教えてくれてもいいんだけど」
「それは」
おっ、アレクサンダーの目が泳いだ。
ふふん、いつもからかってくるから少しは意趣返しが出来たかな。
私が得意げにふふんと笑うと、アレクサンダーが訝しげにこちらを見た。
「たぶん、出来ないんじゃないの? 知ってても、詳しい説明をすることがアレクサンダーには出来ない」
「! なぜそうお思いに?」
「だって、豆知識とか必要な情報は聞かなくても教えてくれるほどお喋りじゃん。でも執事については曖昧なことしか言ってくれないから」
「……意外とよく見てらっしゃるのですね」
「意外ってなにさ。私のこと馬鹿にしてたでしょ、その反応」
「まさか! 主人に対してそんな不敬な!」
わざとらしい。まぁいいよ。私がただの小娘だってことは私が一番よく知ってるから。
それによく知らない世界に転移しちゃったんだもん。誰から見ても警戒されるより侮られるくらいがちょうどいい。
とはいえ、絶対的な味方でもある執事たちには私の意思を知っていてもらいたいよね。
「執事にどんな事情があるのかは知らないけど、別に詳しく聞いたりしないよ。それに、自分の目で見て、経験してわかっていくのも楽しそうだし!」
最初から全部知ってるのってワクワクしないもん。あらかじめ知っておいたほうがいいこともあるだろうけど、そうじゃないなら楽しみにとっておきたい。
プレゼントも一気に開けるより、一つずつ丁寧に開けたいタイプなのだ。アドベントカレンダーとか大好きだったんだよね。
「だからもっと魔力が増えてからいろんな執事を召喚してみるよ。あとはどうしても助けてほしい時、かな。今はアレクサンダーがいれば十分だから」
「コトリ様……」
アレクサンダーの目が潤んでいる。また感涙してるよ……。
憎まれ口を叩くし、胡散臭いし、腹黒っぽいけど、全身で感動を表現してくれる姿は嫌いじゃないよ。
「あと単純に顔と名前をそんな一気に覚えられる気がしない」
「……せっかく感動しておりましたのに」
仕方ないでしょ、ただでさえ人の顔と名前を一致させるのが苦手なのに、外国人風の名前だと余計に覚えにくいんだもん。
今はまだアレクサンダーとバリーだけだからね。大丈夫、覚えてる。
助けてくれた冒険者ギルドの女性はロッテさんで、あと二人……えーっと。うーんと。
……よし! 明日の依頼に備えて今日は早く休もうっと! アレクサンダーもまた明日ね! 送還~!




