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スキル「執事召喚」でコトリは異世界を優雅に歩く  作者: 阿井りいあ


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1/5

1 スキル、執事召喚!


 家のドアを開けて外に出たら、そこは森の中でした。

 私、浅海(あさうみ)恋鳥(ことり)十八歳。ある日突然、異世界に飛ばされてしまったようです!


 意味わかんないよね。創作の中だけの話だと思うじゃん。いくら流行ってるとはいえ、現実に起こるとは思わないじゃん。


 でも、泣けど悩めど現実逃避すれど、目の前の景色は変わらないしお腹は空く。

 しかもここは森の中。油断していると変な動物に襲われてしまうかもしれない。


 呆然と立ち尽くしている間に角が生えたウサギや体長三メートルはありそうなイノシシを見かけたからね!

 息を殺して気配を消して、そろりそろりと逃げました。めっちゃ怖い。


 どうにか気持ちを落ち着けて、いや落ち着かないけど落ち着けないと。

 まずは持ち物とかを確認しようと思う。


 今の私は髪を適当に後ろで一つにまとめていて、Tシャツの上に長袖シャツ、デニムに歩きやすいスニーカーとリュックという色気もへったくれもないスタイルだ。

 リュックの中身は筆記用具とタブレット端末、タオルと水筒、か。リュックの大きさの割に中身はあまりない。くっ、非常食でも入れておけばよかった……!


 まぁ要するに大学に行く時の格好のままだ。部屋を出た瞬間にこの状況だったからね。

 部屋着のままゴミ出しにいくタイミングじゃなかっただけマシだと思おう。

 ついでにおしゃれ女子大生じゃなかったのも運が良かった。不幸中の幸い。


 途方に暮れつつ動かないだろうなぁと思いながらタブレット端末の電源を入れてみる。


 えっ、ついた!? でもなんか、見覚えのない画面が出てきた。


 これって……もしかして、私のステータスってやつ?


【コトリ・アサウミ】Lv.1

職業:転移者

スキル:執事召喚

特性:魔力成長率5倍、魔力回復速度5倍

HP:20/20

MP:10/10

攻撃力:F

防御力:F

素早さ:E

賢さ :C

器用さ:D

運  :A


 よっわ。なにこれ、吹けば飛ぶじゃん。


 この世界の基準がどの程度かはわからないけど、弱いということだけはわかる。運だけで生き延びるしかない。

 体力や魔力は一桁じゃなかっただけいいと思ったほうがいいのかな……。いやいや、無理がある。


 でも希望があるのはこの特性だよね。人より早く成長したり回復できたりするってことだもん。


 魔力限定で。どうして……。


 でも、魔法が使えるんだ。そんな場合じゃないのにワクワクしてしまう。

 一体どんな魔法が使えるんだろう? と考えたところでようやくスキルに目が向く。


「執事召喚……?」


 各項目をタップすると、さらに詳しい情報が見られたわけなんだけど……。

 どうやら、私が使える魔法はこのスキル執事召喚だけっぽいんだよね。


「なんでよりによって使える魔法が執事召喚だけなの!?」


 つらい。悲しい。ワクワクを返せ。


 ファイヤーボールとか、アイスランスとか、憧れるじゃん!!

 異世界に飛ばされて絶望してるんだから、そのくらいの夢を見させてくれたっていいじゃん!!


 荒れること数分。


「嘆いたって仕方ない。とりあえず使ってみよう。まずはスキルについて調べなきゃ」


 私は切り替えの早い女なのだ。メソメソしながら白馬の王子様が助けてくれるのを待つだけのお姫様ではない。


 スキルの項目をタップすると、予想通り細かな説明が出て来た。

 なんで授業用タブレット端末にこんな画面が出てくるのかとか、電源はいつまでもつのかとかは考えない。今はね。


 使えるものは使えるんだからありがたく使う、ただそれだけ。


「えーと。魔力を消費して執事を召喚できる。今の自分に必要なものを想像しながら召喚すると、最適な執事が現れあなたを助けてくれることでしょう……うん、わかんない」


 最適な執事? つまり、私に合う執事ってことかな。


 うーん、そうだな。私が想像する執事といえば、身の回りの世話をしてくれて、主人を助けてくれる存在って感じなんだけど。

 あとはあらゆることがそつなくこなせて、物語の中の執事だと護衛とかもできたりするよね。


 あんまり欲張ってもよくない気がする。


 えーと、今の私に必要なものといえば、知識だ。

 専門的なものではなく、この世界で生きるための基本的な知識。それがなきゃお話にならないと思うんだ。一人ぼっちで生きるのでなければ。


 一人の時間もほしいけど、私は人恋しくなるタイプだ。

 町があれば行きたい。村でもいい。とにかく人と接したい。


 思考が少し逸れた。スキル、やってみよう。


 基本的なことを教えてくれる執事、って想像しながら召喚すればいいんだよね? よし。


「召喚する前に、あなたの紋章を描いてください? わ、お絵かき画面が出てきた」


 紋章とか言われてもよくわかんないけど、これを描かなきゃ話が進まないっぽい。


 んー、紋章か。思いつくのは小学生の時に流行った自分のサインだ。

 かといって名前をそのまま書くのもなってことで、サインの後ろに描いていたイラストをアレンジしてみようと思う。


 私の名前「恋鳥」を表すような、小さな鳥がハート型の花を嘴で咥えているイラスト。シルエットっぽくして、「浅海」を表す波を後ろに描いて……。


「こんなもんかな。童心を思い出しちゃったね」


 こういう作業はちょっと楽しい。いい感じにできたんじゃなかろうか。


「次は、このイラストに手をかざしながら『刻印』と言う……? わっ」


 右手をかざしながら刻印と言った瞬間、右手の甲が温かくなり、急に光輝いた。

 よくみると私が描いたイラストが手の甲に現れて光っている。な、なんだこれぇ!?


 かと思えば光が収まるとなにもなかったかのように消えていった。わぁ、魔法っぽい。


「ふんふん、いよいよ最後がスキル発動っぽいね。よし!」


 私の心の中の女児が「はやく、はやく」と急かしてくる。まぁ待ちなさい。今やるから!


「執事召喚っ!」


 右手を前に突き出しながら唱えると、さっきと同じように光の紋章が右手の甲に現れ、目の前の地面にも同じ光の紋章が浮き上がる。

 紋章というより魔法陣って感じ! その魔法陣からじわじわと何かが現れ始めた。


 黒く艶やかな髪、スタイリッシュでシンプルな執事服に、白い手袋。


 長身の美青年執事が現れた!

 わ、わ、わぁぁぁぁ! 本当に出たっ!!


「召喚、誠にありがとうございますっ! 私はスタンダード執事! さぁ、なんなりとご命令くださいませ、お嬢様!」

「えっ、お嬢様!?」


 人生で初めて呼ばれたんだけど!? なんだろうこの、羞恥心がこみ上げてくる感じ。


 しかしそんな私の戸惑いもなんのその、執事は私の手を取り指先を口元へ持っていくと軽いリップ音をたてた。


 ひぇっ、むず痒いっ! 鳥肌がっ!

 っていうか、近付いたことで彼の首筋に私の描いた紋章が刻印されているのが見えたんですけど?


 ちょっと待ってよ、そんなことになるならもっとデザインを考えたのに……! 何だ、この羞恥プレイ。


 執事の顔とスタイルが良くて様になってるのが余計にいたたまれない。


 なんか、ほんと、ごめんね……。


「召喚してくださった貴女様がご主人様となります。つまりお嬢様でございます!」

「や、やめてやめて! そういうタイプじゃないから! 私、恋鳥っていうの。だから名前で呼んでほしい」

「なんと! 名前を呼ぶことを許してくださるとは……! はぁっ! ありがたき幸せ! 承知いたしました、コトリ様!」

「大げさすぎない?」


 テンションがやたらと高すぎる執事はとても嬉しそうで、敬称もやめてとは言いにくいな。

 なんとも言えない気持ちを押し込んでどうにか納得した私は、早速執事に訊ねる。


「えっと、まずあなたの名前は? それとこの執事召喚について知りたいのと……ああ、とにかくこの世界のことは何もわからないから、基本的なことは全部教えてほしい!」


 何がわからないのかわかないって状況だからね!

 とはいえざっくりとした質問をしちゃったな。反省。


 けれどそこはさすが執事というべきか、彼はしっかりと頷くと胸に手を当て、もう片方の手をさっと天に向けて高らかに告げた。


 まるで絵画か石膏像、またはダンサーがしてそうなポージング。指の先まで美しい……。


「コトリ様のご指示、全て理解いたしました! この私、アレクサンダーにお任せあれっ!」

「意外すぎる名前だな?」


 アレクサンダーって。いや、まぁ、人の名前に文句なんてないけど。


 というかこのテンション感。

 ほんの少しばかりうざ……あ、えっと、鬱陶し、じゃなくて、賑やかすぎる。


 ま、まぁ? 気が紛れて助かるかもね。


ステータス関係や恋鳥のメモのみ英数字で表記しております。

その他は漢数字です。

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