パチンカス神官に神託を与える神は居るのか
ギルド「灰渡連盟」のギルドハウスの談話室に設置された女神像の前でリスポーンした俺は、ソファでくつろいでいたセオドアと鉢合わせた。
こいつは、2週間前にこのギルドに加入したばかりの初心者だ。称号は《宣教師》を選び、現在は順調に神官の職業チェーンを解放している。最近レベル3になったらしい。
ちなみに、ヒーラーである神官を選んだ理由をギルドメンバー総出で問い詰めたところ、「他人の生殺与奪の権利を握りたかったから」だそうだ。どう考えても救いようのない屑である。
俺はこいつと何度かパーティーを組んだことがあるが、こいつはとにかく回復をしない。
神官はレベル2で「デミ・ホーリーライト」という唯一の攻撃魔法を習得するのだが、奴は戦闘中それをひたすら連打している。
曰く、その魔法を使うと5%と低確率で「託宣」というバフが得られるらしい。そのバフが付与されているときだけ、「デミ・ホーリーライト」は「デミ・ジャッジメント」という派手なエフェクト付きの強化スキルに変化するうえ、一定時間すべてのスキルによるMP消費が無効化されるそうで、奴はそれを狙って延々と魔法を撃ち続けている。要はMPポーションをケチりたがる屑である。
当然、その間に負傷していく前衛職たちは、文字通り生命の危機にさらされるわけだ。そして当の本人は、戦闘中にもかかわらず「次だ!次打ったら託宣が当たる気がする!」とパチンカスじみたことをぬかしながら連打を続けている。
やはり、紛うことなき屑である。
さて、素材の換金に出かけただけなのに、なぜか死んで戻ってきた俺を見て、セオドアは怪訝そうな目を向けてきた。事の経緯を説明してやると、今度は憐れむような目を向けてきた。なんだその目は。
「君の称号じゃ、誤解されても仕方ないんじゃないか?」
なんだと。いやだから、なんなんだその目は。お前は何様だ。
「ヒーラー様だよ」
俺は黙って土下座をした。
この戦闘狂しか居ない地獄みたいなギルドで回復職を担って下さるのはセオドア様だけですぅ。
「いやぁ、それにしても称号でNPCの態度がここまで変わるなんて驚きだよ」
ははは、そうだな。
俺は持ち前の鋼のメンタルでセオドアを華麗にスルーしつつ、冷蔵庫を開けて無くしたポーションを補充する。
「……あっ、聖水はまだ浄化前だから使えないからねっ、まだただの水だからねっ?」
背後でセオドアがうろうろしながら口を挟むが、こちらは気のない返事で流しておく。必要なのは先程死んで失くした治癒ポーション、それだけだ。
ポーションを装備のポケットにねじ込んでいたところで、廊下に続いている扉からサブギルドマスターのボイジャーが姿を現す。
「セオたーん! 装備の修繕終わったよぉ!」
金髪碧眼、そして恐ろしくたわわな胸元を揺らして駆け寄ってくるその少女は、見た目こそ典型的な美少女で生産職だ。
戦闘狂や脳筋が集うカオスなこのギルドの中で唯一のクラフターである彼女は修繕・強化・クラフト系のスキルの持ち主だ。ちなみに最近レベル4に到達したらしい。
そしてまだ金属系の加工スキルを習得できていないため主に軽装備、つまり布や皮製の装備のみの制作・修繕しかできないのだ。
だから俺はNPCに武器の修繕依頼をしようと思っていた訳だったのである。
……彼女がキャラクリエイトで胸囲を驚異の最大値に設定した結果なのだろう、彼女の一挙手一投足が重力を誘発している。
主にそのスイカ部分に、局所的に。正直に言って違和感しかない。
ボイジャーは薄手のタンクトップにホットパンツという軽装で、修繕済みの装備を胸に抱えている。
「へへっ、完璧に直しておいたよ~。今度はまた即死しないようにね、セオたん♪」
「はぁ~い♡」
セオドアが、どこか幸せそうに頬を緩めて、鼻の下を伸ばしながら装備を受け取った。
……だが、この草食系美青年神官であるセオドアの中身は間違いなく、いい歳した中年男性だ。
そして、このやりとりのもう一方、装備を直していた巨乳美少女系クラフターもまた、中身は同類だ。
俺はそっと談話室から去ることにした。
さあ、さっさとレベル上げの為に兎狩りをしに戻ろうかな。
だが、セオドアがお節介にもこちらに話を振ってきやがった。
「ジェダンもボイたんに装備を修理してもらったらどうだい?さっき死んだなら装備が劣化してるんじゃないか?」
やめろパチンカス神官め。俺はその爆乳クラフターから離れたいんだ。
ボイジャーはそのまま俺の方を見た。ふむ、時すでに遅し。
「えっ?なになにぃ?まだジェダたん死んだの?」
「そうだよ〜。やっぱり僕たちも付き添ってあげるべきだったかもねぇ〜」
「え〜、セオたんったらやさしぃ〜」
クソッ、こいつら俺で楽しんでやがる。俺がNPCに絡まれて死んで帰るといつもこうだ。
そもそも〈追放者〉の称号によるNPCからの好感度低下は、例え〈職人〉や〈宣教者〉らに同伴してもらった所で絶対に軽減されない。
詰まる所このボイジャーというサブマスは、俺がNPCに罵倒されるのを特等席で見物したがっているカスだ。
こいつとこいつが連れて来る野次馬らの尾行を振り切る為だけに俺は【俊敏】ステータスが伸びる《双剣士》を選択して、自キャラの機動性を上げまくる羽目になった。
「……で、ジェダたん今回は何でやられたのぉ? まさかまた聖騎士さんに――」
「黙れ、俺は何も言わないぞ」
「えぇ~っ!!ちょっと気になるんだけどぉ」
俺は黙秘を貫くことにした。
だがまたパチンカス神官が余計な事を言う。
「真実はジェダンと地面だけが知っているね」
「あっ、つまり落下死したんだぁ?」
「……」
Now Roading...




