暗中飛躍
ヒロは家に着いたあと、キサゲを埋葬する準備を始めた。
リユウは、血のついた衣服や布団を焚き火で燃やしている。
雲のない夜空に煙が多めに立ち上っていた。
「今日は色々あったなー、付き合い長い友人も逝ったし…」
さすがにちょっと今はテンションが低い。
普段適当でふざけてるが。
「2人になっちゃった…」
リユウは無表情で焚き火を見つめている。
いつ帰ってもキサゲは家にいたし、実家から家出しても変わらず引き篭もりで…。
ここに引っ越す前に街で買い込んだ本をずっと読んでたなぁ。
出かけるときはいつも、なにか食べ物くれた。
家に一緒にいる時はハーブティーを入れてくれた。
リユウは色々思い出していた。
「そーだな、家事とか誰がやんだよって」
ヒロは立ち上がるとキッチンからお酒を取り出した。
「俺はちょっくら酒飲んでから寝るからよ、先寝といてくれ」
そう言って、背中越しに右手を上げながら外に出ていった。
「うん」
顔は向けず、目線だけ向けて返事をした。
(ドア閉めてる…)
「そういえば、この辺りって魔物全然いないのになんでオオカミいたんだろう?」
ここは街の少し外れの山で周辺にはなにもない、ただの住んでる小屋と森林、草花と川があるくらいで…。
「なんだか寝る気分じゃないなぁ、いつもの草原に行こうかな」
リユウも外に出ていった。
焚き火はぱちぱちと音を立て、静寂した空気の中
墓の前で、ヒロはひとり、酒瓶を傾けていた。
「……おまえ、本当に死んじまったんだなぁ」
「リユウは10歳だが、泣きもせず全く表情にでねぇよな」
程よく飲んだあと、少し思考を巡らせる。
魔物――それも、最近では本来あり得ないはずの、オオカミの魔物に喰われたと。
突然の襲撃。どう考えてもおかしかった。
「でも……まぁ、難しいことは、明日考えりゃいいか」
ヒロは背後の老木にもたれかかり、そのまま眠りに落ちた。
同時刻、小屋から北西へ数キロほど。
草原を突っ切った先、左手にある川の向こう側──そこに、数日前に作られた小さな洞窟があった。
外見はただの岩の裂け目。しかしその奥には、まだ誰にも知られてはいない錬金術師達の研究所が作られていた。
違法な錬金術を追われた者たちの隠れ家である。
「……この土地には魔力がない、ヒヒッ。つまり魔力に惹かれるものも寄ってこない」
「完璧だ。準備もあと少しで終わる。あとは……器さえ準備すれば、魔人が誕生する」
ローブをまとった錬金術師達が、魔法陣の周囲でひそひそと声を交わしていた。
誰も彼も、目が血走っている。理性はもはやそこにはなかった。
「貴族どもに尻尾を振る時代は終わる……我らが造る魔人の力で、力こそが正義だと知らしめてやろう」
誰かがくぐもった声で笑った。冷たい地下室に、不気味な笑い声がこだました。