第一章 転生
…ーい ぉーい おーい!
遠くからの声で目が覚めた。
(…いつのまにか寝てた?)
木にもたれ掛かり寝ていたらしい。
立とうとして左手をついた時にボキッと幹が折れる感触がした。
(折っちゃった…)
紫色の花が幹の根本から折れてしまった。
応急処置として、木の枝で添え木してみた。
(ここの草原には ちらほら花は咲いているけど、この花だけ綺麗で気に入ってる)
真ん中に黒紫色の繊維状があって、花びらは白い紫色をしている。
「一番綺麗な花だから治って欲しいな…」
「おーいリユウ、こんなとこにいたのかぁ!」
屈んでいた僕は、立って呼んでいる声の方に振り向く。
「もうすぐ夕方になるから帰ろーぜ!」
(ヒロ兄ちゃんだ)
180cmくらいの背丈で坊主、少しタレ目でメガネをかけている。髭は無精髭で目つきが少し悪い、でも良い人、僕の直感だけど。
「うん」
短く返事をして合流した。
帰路の途中、歩きながらの会話。
「今日はなんかしてたのか?」
「いつもの昼寝」
「あっこ好きだなぁ?」
「あと、起きたら手で花折っちゃったけど治る?」
「治るんじゃね?生命力たけーだろ、しらんけど」
「今日のめし何にするの?」
「よくぞ聞いた!釣りで魚を釣ったんだわ、それで釣り上げたら鳥に持ってかれそうになってだな?
石ぶん投げたら鳥は落ちてきたけど魚はどっかいっちまったよ!がははは」
そのへんの動物に盗られちゃったか。
「今日のメインは焼き鳥ってこと?いいね」
「そーいうこった!帰った頃にはできてるだろーよ」
(鳥の肉おいしーんだよな、さっぱりしてて)
僕は口元が少し緩んだ。
「おーいキサゲ、帰った、ぞ…?」
帰ったら、キサゲの左腕が噛み千切られ、横腹には噛みつかれた跡があった。
「なんでこうなった?」
ヒロはキサゲの近くで屈んで話を聞いていた。
僕は会話の様子を後ろで見ていた。
「ごふっ…持ってきた鳥の血の匂いを嗅いでか…来た……いつのまにか、背後にいたが…ドア閉め忘れただろ…」
「あーまじで?そーいや血垂らしながら持って帰ってきてたわ、がはは」
どう見ても重症、致死量の出血と怪我をしてるキサゲという青年はヒロの同期だ。
親に紹介されたお見合い相手にも興味持たず、引き篭もり生活をしていたらしい。
たまにぺったんたんとか褐色肌がーとか変な話してるけど、良い人。
「どんくさいおまえが悪いな!相手はオオカミか?」
「たぶん、な…鳥投げたら…持っていったわ…ゲホッ」
「俺らの晩御飯がねぇ、そのオオカミとやらを狩るかぁ。お前は寝てろ、運んでやる」
「いてて…ヒールくれよ」
その冗談にヒロがニヤケながら言う。
「ほんじゃ10年間ありがとうよ、楽しかったぜ今まで。あと俺ら魔法使えんだろ」
僕ら3人、魔法のセンスはゼロだ。
魔力なんてあったもんじゃない。
「知ってた、…ふっ」
「全く…。俺は子供の頃くらったDVで右目ほとんど見えねぇし勝てるか分からんが」
ヒロ兄ちゃんは15歳の頃、親父(仮)に籍も入れずに家に住んでんじゃねーよと啖呵を切って、暴力で逆にねじ伏せられた。その時に右の視力をかなり失ったらしい。
その数日後は狩りから帰ったら家族皆殺しにあっていた。
親父のせいだなきっと…窃盗団にいたらしいし、ろくな人じゃなかったに違いない。
「リユウ、お前はここに…」
「僕も行くよ」
ヒロは残るよう提案しようしたが、リユウは即答した。
「いやあぶねーぞ?もうすぐ夜になる」
「大丈夫、貰ったナイフあるし」
腰から果物ナイフを取り出す。
「それ小動物狩る用の…まぁこれも狩りっちゃあ狩りか、がはは」
もしかしたら怪我するかも知れないけど。
「うん」
ヒロは斧を武器にしている。
自作で作った握れる程度の1mある木の棒に研いだ鉄の刃を紐で括り付けている。
「そんじゃ行くか」
リユウはなにか言いたげな感じでこっちを見ていた。
視線を感じ取ったキサゲは、右手で握りこぶしを作ってリユウに向ける。
もう喋る元気がないので仕方なく顔を少し振って、行けって合図をした。
リユウは差し出された拳にグータッチしてヒロと外出した。
いつも無表情なリユウの去り際に見えた少し悲しそうな顔を見て、キサゲは少し驚いていた。
(普段なに考えてるか分からないが、ちゃんと表情に出るんだな)
嬉しくもあり、そしてキサゲは二人の背中を見送ると…
「だからちゃんとドアを…」
そう思い残し、キサゲは目を閉じた。