女神の正体と、隠された本当の運命
「イオリちゃん、聞こえますか?」
その声は——夢の中から響いた。
暗闇の中、目の前に現れたのは、あの女神だった。
「アルシア……!」
異世界召喚の時に現れ、俺にスキルを与えた張本人。神々しい微笑を浮かべる女神アルシアは、今も変わらず俺を見下ろしていた。
だが、俺はもうあの時の俺じゃない。
「……あんたが、全てのフラグの創造主なんだな?」
女神は笑みを深くした。
「さすがですね、結城イオリ。あなたの成長は、私の想定以上です」
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《フラグ解析》のスキルが、進化したことで、俺は見えてしまったのだ。
——世界そのものに貼り付けられた、創造者の印。
フラグとは、アルシアがこの世界に施した運命の監視装置に他ならない。
誰がいつ死ぬか。誰が誰を好きになるか。何が破滅を招くか。
全ては——最初から決められていた。
そして俺のスキル《フラグ解析》《回避》は、その監視装置の「点検ツール」にすぎなかった。
「お前は……神じゃない。観察者だ」
女神は、あえて驚いた表情を見せる。
「正解です。私はこの世界を、観察し続ける存在。数千回、数万回のループを繰り返し、観測データを収集してきました」
——ループ?
俺は、胸が締めつけられるのを感じた。
「じゃあ、この世界は——」
「はい。すでに何度も滅びた世界です。あなたが来る以前にも、幾度もこの物語は繰り返されました」
——終わりのない、死と運命のループ。
その中心に、ヒロインたちの死があった。
リアが戦場で死に——ミナが世界を救って消え——ルナが裏切られ——コロが討たれる。
それが、この世界の既定ルート。
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「じゃあ、俺は……そのループを壊すために選ばれた?」
「……いえ?」
女神は、心底愉快そうに笑った。
「あなたは、たまたま、私の実験に反応した例外個体です。つまり……失敗作の副産物にすぎません」
「……!」
「でも、面白いので観察を続けていたのですよ。あなたが、どこまで抗えるかを」
「……てめぇ……っ!」
怒りが、爆発しそうになる。
だが、女神はあくまで笑っていた。
「さあ、どうしますか? この世界は、フラグで構築された牢獄。あなたがいくらフラグを壊しても、根本が変わらなければ、いずれ全ては元に戻ります」
「なら、壊してやるさ」
「……え?」
「お前が貼り付けた、その《牢獄の設計図》ごと、全部な」
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——その瞬間、夢が終わった。
目覚めた俺の前に、ミナティがいた。
「イオリちゃん、おはよう☆ とんでもないもの見ちゃったネ☆」
「……見てたのか?」
「うん。ぜーんぶ見てた。ループのことも、女神の本性も。ついでにイオリちゃんの黒歴史的セリフもね☆」
「うるせぇ……」
ミナティは、いつもの能天気な口調をやめ、真剣な顔をした。
「イオリちゃん。この世界を、本当に救うには、《世界そのものの書き換え》が必要なんだよ」
「世界を……書き換える?」
ミナティが差し出したのは、黒く染まったフラグの欠片。
「これは、さっき女神との対話で発生した《創造主フラグ》。今なら……この力を逆利用できる」
「つまり、女神のシステムを使って、逆に運命を再定義できるってことか……!」
「そゆこと!」
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その夜、全員を集めて、俺は真実を語った。
——この世界がループしていること。
——ヒロインたちの死が、何度も繰り返されてきたこと。
——女神アルシアが、その外側で見下ろしていたこと。
リアは怒りで拳を震わせた。
ミナは祈るように目を閉じ、涙を浮かべた。
ルナは静かに、それでも真っ直ぐに俺を見つめた。
「……で、イオリ。あんたはどうするの?」
「決まってる。書き換える。全てのフラグを、システムごとぶっ壊して——新しい未来を選ぶ」
全員が頷いた。
たとえそれが、世界そのものを敵に回すことになっても。
「よーし! じゃあイオリちゃん、ついにラスボスの部屋に突撃だネ!」
「……誰がラスボスだよ。あの女神が『裏の創造神』だってのは間違いないが、まだ『本当の黒幕』がいる気がしてならない」
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イオリたちは《創造の祭壇》と呼ばれる禁忌の地へ向かう。
そこに眠るフラグ創生の核——世界そのもののテンプレートを書き換える装置。
それを奪い、使いこなし、全ての因果を自由にするために。