俺のスキルに限界はあるのか
「これは……回避できない……だと……?」
その瞬間、俺の心臓が冷えた。
いつものように《フラグ解析》で未来を見たはずだった。だが——そこには、見慣れた死亡フラグではなく、奇妙な異物が浮かんでいた。
【フラグ種別:不明】【状態:変動中】【影響対象:全員】【回避不能】
「ミナティ……これはなんだ?」
《ごめんなさいイオリちゃん☆ ミナティちゃんも初見です☆ いわば、スキルの外側にあるフラグってやつデス!》
「……そんなのアリかよ……」
====
それは、ある遺跡での出来事だった。
王都の情報屋が「フラグ理論に関わる遺物が眠る」と噂していた、かつて預言者と呼ばれた人物の眠る場所——《未来の書庫》
イオリ一行は、そこで謎の装置を見つけた。
「これは……時空の観測機……?」
「かつて未来を断定的に予言した、未来を見た者が使っていたとされる道具ですわ」
ミナが聖文から読み解いた情報は、俺のスキルとどこか通じるものがあった。
だからこそ、俺は装置に手を触れた。
——そのとき、見えたんだ。
世界そのものに浮かぶ、巨大な《滅びのフラグ》
【大災厄】【発動条件:ヒロインの誰かが死亡すること】【回避不可能】
====
「おい、ミナティ。俺の《フラグ回避》スキルって、万能じゃなかったのか?」
《えっとね、説明しますとぉ〜、イオリちゃんのスキルは、個人の因果に基づくフラグを対象にしてるんだよね☆》
「じゃあ、今の世界に発生するフラグは……?」
《スキルの適用範囲外でーす☆ アウトです☆》
「ふざけんな……」
スキルに限界がある。
俺の力は絶対じゃなかった。
「じゃあ、どうすれば——この滅びのフラグを止められる?」
ミナティは言った。
《選ぶしかないよ、イオリちゃん。誰を救うかを——》
====
その夜。
仲間たちはいつものように焚き火を囲み、笑い合っていた。
リアが焼いた肉をコロが盗み食いして、ルナが怒鳴り、ミナが仲裁して——俺はその様子を、ただ黙って眺めていた。
「なぁ、イオリ。最近、様子が変だぞ?」
リアが、隣に座って声をかけてきた。
「……そうか?」
「お前、何かを一人で抱え込む時の目をしてる。私にはわかる」
「……リア」
彼女は、目を逸らさず言った。
「何があっても、私たちはお前の味方だ」
その言葉が、胸を刺す。
俺は——全員を救いたい。ただそれだけだ。
だが、《滅びのフラグ》は、誰かの死がトリガーになっている。
誰かが死ねば、全員が道連れになる。
誰かを守れなければ、全てが終わる。
====
そして翌朝。
「イオリ! 大変です!」
先に目を覚ましたミナが、血相を変えて俺のところへ飛び込んできた。
「ルナが、勝手に村を出ました!」
「……なに?」
コロが怯えるように震え、リアは即座に剣を構える。
「昨日の夜、《滅びのフラグ》に感応した気配がありました……。もしかして、ルナも何かを察知して……」
——まさか。
ルナ、お前……
《ルナ=ノクティア:自己犠牲フラグ発生中 → 発動準備段階》
「ルナ……っ、てめぇ……!」
自分が犠牲になれば、全てを救えるとでも思ったのか?
ふざけんな……それだけは、させない!
「全員、今すぐ出発だ!」
====
夕刻、山間の谷にて。
ルナは、魔力を全解放し、災厄の器を呼び寄せていた。
「お前たちは、あのフラグを見たのだろう……!」
「だからって、お前が犠牲になることはない!」
「私にはそれしかない! お前らのように、全部欲しがることはできないのよッ!!」
「違う! 俺たちは、全員で未来を選ぶんだ!!」
《最終選択フラグ:発動条件・全員の意志統一》
——その瞬間。
俺のスキルが進化した。
【《フラグ書き換え》スキル獲得】
条件は——諦めない心と全員の想いの一致。
「ルナ! 戻ってこい!!」
「イオリ……っ、バカ……!」
爆発的な魔力がルナを包んだ。
俺は叫ぶ。
「——《フラグ書き換え》発動!!」
刹那。
滅びのフラグが断ち切られ、ルナの身体が光に包まれた。
「……イオリ……お前って、本当に、バカね……」
彼女は小さく笑って——俺の腕の中で、意識を手放した。
====
幸い、ルナの命は助かった。
しかし、代償は重い。
《フラグ書き換え》は、使うたびに《フラグ回避》を一時的に無効化する。
次に使えば、俺の命は保証されない。
——それでも。
「この力で、全員を救ってみせる」
俺は、覚悟を決めた。
次は……《世界そのもののフラグ》だ。