恋愛フラグが多すぎて修羅場フラグ
「……あの、おはようございます、イオリ様」
ミナが小さく手を振る。
「ふん。あんた、誰の隣で寝てたと思ってるのよ?」
ルナがじと目で俺を睨む。
「イオリ~! コロも一緒に寝たーい!」
そして、ドアを蹴破って飛び込んでくるドラゴン少女。
……これ、なんの修行だ?
「全員、ちょっと落ち着いてくれないか!?」
俺の声が朝から響いた。
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コロ——正確にはコロナ=ドラグリル。炎竜族の王女だ。
「旅の最中に迷子になってたところを助けたのが縁」ってだけだったはずが、何故かこうしてついてきた。
ちなみに、彼女のフラグはというと——
【死亡フラグ:暴走して討伐される】
【死亡フラグ:掟破りによる処刑対象】
「こいつもまた、ヤバいやつか……」
俺はため息をつきながら、いつものスキル視界でフラグ状況を確認する。
……だが、今日は様子が違った。
【リア=ヴァルキュリア:恋愛フラグ進行中 → 嫉妬フラグ点灯】
【ミナ=ルーミエル:恋愛フラグ進行中 → 疑念フラグ点灯】
【ルナ=ノクティア:恋愛フラグ急上昇 → 攻撃的フラグ点灯】
【コロ=ドラグリル:恋愛フラグ発芽中 → 独占欲フラグ点滅】
「え、なにこれ、まさかの……フラグ連鎖!?」
あまりにも危険な信号だった。
「おい、フラグ精霊、ミナティ。これ、どういうことだ!?」
《どーもー☆ お騒がせミナティちゃんでーす☆ 今回のイベントはー……『ハーレム好感度急上昇による修羅場祭り』でーす☆》
「どんな地獄イベントだよッ!!」
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状況は悪化の一途を辿った。
朝食では、
「イオリ様、口元にソースが……ふきふき……」
と、ミナが控えめにティッシュを差し出し——
「私が先だったでしょ!? はい、イオリ、あーん!」
と、ルナが割り込んで来て——
「コロのも食べてー! コロの卵焼き、うまうま!」
と、コロが無理やり自分の皿を押し付ける。
そして、リアは無言で俺の背後に立ち、剣の柄を握りしめていた。
【嫉妬による暴走フラグ:危険域】
「リアさん、ちょっと怖いです……」
「聖女様こそ、最近距離が近すぎるのでは?」
「う、うう……っ」
「イオリはコロのものー!」
「お前、まだ出会って数日だろうが!!」
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その日の午後。
俺はスキルで全員の未来を再確認することにした。
【リア:仲間の誤解により単独出撃 → 死亡フラグ発生】
【ミナ:イオリを庇って暴走魔族に接触 → 死亡フラグ発生】
【ルナ:嫉妬心から単独行動 → 裏切り疑惑により暗殺対象】
【コロ:感情暴走によりドラゴン化 → 討伐指令発令】
「……これ、全員、俺が原因じゃねぇか……?」
《おめでとうございます♡ 恋愛フラグ過多による死亡フラグ連鎖発動でーす♪》
「喜んでんじゃねぇよ、ミナティ!」
フラグが恋と死を繋げていく。
放置すれば、全員の命が危ない。
「じゃあどうする、イオリ……」
俺は拳を握った。
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そして——俺は行動に出た。
「よし、今日は特別に、全員とデートする!」
「「「「……は?」」」」
リア、ミナ、ルナ、コロ。全員が揃って目を見開いた。
「順番に! 一人ずつ! ちゃんと時間を取って! お話もして、誤解も解いて! それでいいだろ!?」
「……ふ、ふん。最初は私ね」
「イオリ様、それならスケジュール帳を……!」
「コロは、最後でもいいよ~」
「リアは、一番じゃなきゃやだ」
おい待て、なぜか逆に火に油を注いだ気がするんだが。
《ご愁傷様です☆》
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デート——というか、個別フラグメンテナンスの時間は、思った以上に大変だった。
だが、効果はあった。
【リア:嫉妬フラグ → 収束】【恋愛フラグ:安定】
【ミナ:疑念フラグ → 回復】【恋愛フラグ:強化】
【ルナ:攻撃的フラグ → 無力化】【恋愛フラグ:ツンデレモードへ移行】
【コロ:暴走フラグ → 停止】【恋愛フラグ:甘えモードへ移行】
「……なんとか、全員のフラグは安定状態か……」
《おつかれさまデス♡ なお、恋愛フラグのレベルは全員MAXに近づいてまーす♡》
「……この先どうなるんだ、俺の命……」
俺は疲れ果てて地面に寝転がった。
空は青く、世界は穏やかだった。
……たぶん、それも今のうちだ。