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実験水槽サバイバル!ウミサソリくんとウミサソリちゃん

作者: たこはち

R15には該当しないと思うけれども一応。

君の体が食べたい(食料として)。

ここは地球のどこか、あるいは地球じゃないどこか。

そこに一つの研究所があった。


その研究所では、長年にわたり「実験生物」の開発が続けられていた。

テーマは「環境に優しい新たな生物の開発と多様性の促進」。

深海魚に古代生物のDNAを組み合わせ、さらに怪しげな赤い液体をぶち込むという、良識ある科学者なら卒倒するような実験が日々行われている。


ある日、生まれた。

一匹の、小さなウミサソリ。

名前はない。研究員たちは彼を「試作個体E-SCORPION No.7」と呼んだが、それはあまりにも長すぎたため、いつしか「ウミサソリくん」と呼ばれるようになった。


その1週間後、もう一匹のウミサソリが誕生した。

こちらは「No.8」、通称「ウミサソリちゃん」。見た目はほぼ一緒だが、まつ毛が少し長い。


水槽内の生物たちは、静かにその誕生を見守っていた。

特に左奥のナマズ3号は「またヤバいやつが来た…」と目を逸らしていた。

その数時間後、彼は食べられた。


「ねぇ、それ、美味しいの?」


ウミサソリちゃんが聞いた。

ウミサソリくんはナマズ3号のしっぽを咥えながら首をかしげた。


「……うーん、泥の味がするけど、悪くないかも」


「私も食べていい?」


「いいけど、ヒレは硬いよ」


こうして、二匹のウミサソリによる捕食活動が始まった。

金魚型の試験体、電気うなぎ型の試験体、さらには「全身がゼリーでできている魚(再生能力あり)」など、バリエーション豊かな仲間たちが次々とおやつになっていく。


ウミサソリくんは、日に日に大きくなった。

身体は倍に、次はそのまた倍に。

最初は研究員の小指サイズだったのが、1週間後にはクーラーボックス級になっていた。

それを見た研究員たちは喜んだ。


「すごいぞ!成長率が……このままいけば……地球征服も夢じゃない!」


「なんで征服する前提なんだよ」


「……いや、そういう夢を見るくらいすごいって話です」


会話のレベルはお察しである。


その日の夜、水槽の隅で事件が起きた。

ウミサソリくんが、ウミサソリちゃんににじり寄っていたのだ。


「……あれ、なにしてるの?」

「うーん、なんか……おいしそうだなって思って……」


「私!?私なの!?」


「ううん、ちが……その……ちょっとだけだから……味見……」


「食べようとしてるじゃん!!!」


水中で壮絶な追いかけっこが始まった。

そして、ウミサソリくんが水槽の端にバチーン!とぶつかって沈黙。

2分後には普通に並んで泳いでいた。


「……許すけど、次やったら甲羅かち割るからね」


「はい……ごめんなさい……(でもちょっとだけ食べてみたい)」


「最近、あの子たち、目つきが変わった気がしますね……」

研究員の一人が水槽をのぞき込みながらつぶやいた。


「気のせいでしょ」

「でもこの間、俺の夢に出てきたんですよ。ウミサソリくんが、俺の足をむしゃむしゃって」

「それはただのストレスです」

「ですよね!」


研究員たちは今日ものんきである。

しかし水槽の中では、確実に「異変」が起きていた。


「ねえ、もうこの水槽、狭くない?」


「狭いね。ていうか君、ちょっと太った?」


「失礼な。成長です。あと昨日タコ12匹食べた。」


「そりゃ太るわ……」


ウミサソリちゃんはぷりぷりしながらヒトデ型の試験体をつまんでいた。

それを横目に、ウミサソリくんは思う。


(今なら……一口でいける気がする)


「やめて」

「まだ何も言ってない」

「顔に“食べたい”って書いてあるから」


「……見ないで。恥ずかしいから」


2度目の“ウミサソリちゃん食べようとした未遂事件”は、未然に防がれた。


食欲は止まらなかった。

というか、止める気がなかった。


日に日に水槽内の生物は減り、ついにあの「再生するゼリー魚」まで完食。

研究員たちも焦り始めた。


「……やばくない?あいつら、もう水槽内の9割食べたよ」


「え、うそ、昨日カレイ型まだ結構いたよ?」


「今日、食べられたって。カレイのくせに逃げ切れなかったって」


「せつないな……」


残されたのは、観賞用として導入されたフグ型試験体と、岩の下に隠れてるウツボもどきくらいだった。


ある夜のこと。

水槽の中で静かなざわめきがあった。


「……また、君を食べそうになった」


「またか……」


「ごめん。でも、どうしても我慢できなくて……」


「……わかった。じゃあ、条件付きでいいよ」


「えっ!?本当に!?いいの!?」


「いいけど、“味見”程度ね。1ミリくらいだけなら……」


「マジで!?やったー!!!」

ウミサソリくんのテンションが水中3メートル分くらい跳ね上がる。


「でも一回だけ!すぐ治るしね~!」


「わかった!!」


ぱくっ


「ぎゃあああああああああ!!!!!」


やっぱり1ミリじゃ済まなかった。

この事件は「第三次ウミサソリちゃん捕食未遂事件」として記録され、以降、距離感は明確に定められることとなる。


そして運命の日が来た。


その朝、ウミサソリくんが水中で体を伸ばした瞬間、

「バキィッッ!!!!!」

という音とともに、天井のアクリル板がひび割れた。


研究員A「おい!今の音聞いたか!?」

研究員B「……聞こえました。やばい……やばいやつだこれ……」


水槽の警報が鳴り、施設中に赤いライトが点滅する。


「E-SCORPION No.7、臨界成長点突破!すぐに別の水槽に移送を!」


「ムリだ!もう既にサイズが合わない!あと怖くて近づけない!」


「じゃあどうするんだよ!!」


「祈るしかない!」


研究員の科学力、ついにスピリチュアルに屈する。


そして、ついに――


「ウミサソリちゃん」

「なに?」


「もう、ここ出よう。こんな狭いとこ、嫌だ」


「……でも、外って、行けるの?」


「わかんない。でも、あの壁を壊せば……きっと、海に繋がってる!」


「根拠は?」


「勘!」


根拠皆無のまま、ウミサソリくんは助走をつけて壁に突撃した。

水槽が揺れる。研究員たちが叫ぶ。


「やめろおおおおおおおおおお!!!」


「誰か止めてくれええええええ!!!」


「おれたちのボーナスがああああああ!!!」


そして――バリンッッッッッ!!!!

水槽は砕け、無数の水とともに、ウミサソリくんの身体が施設内の壁を突き破る。

その先にあったのは――まさかの、海!


水しぶきを上げて、巨大な影が海へと滑り込んだ。

浜辺のカニたちは叫び、クラゲたちは震え、イワシたちは無言で方向転換した。


「うわー!広い!でかい!うねってる!」

「波が怖い!しょっぱい!あと冷たい!!」


ウミサソリくんとウミサソリちゃんは、初めての“本物の海”に大興奮だった。

さっそく近くを泳いでいたカツオに「こんにちは」と声をかけたが、秒速で逃げられた。


「感じ悪……」

「まあ、あっちから見たら俺たち怪獣だしね……」


そう、ウミサソリくんの体長はもはや全長15メートル。

アザラシくらいなら、スナック感覚でいけるサイズだった。


一方、海底では新たな問題が発生していた。


「おい……お前ら、何者だ……」

声をかけてきたのは、海底に構えるフカヒレ系ヤクザ魚「ボス・アンコウ」。


「新入りか……?でかいツラして泳いでんじゃねえよ。ここはオレのシマだ」


「え、海って全部オープンじゃないんですか?」


「バカか。ここは“第五海域・西端分区・深度130の溜まり場”だ。通行料払ってもらうぜ」


「いくら?」


「小魚100匹」


「少な……いや、高いわ!!」

ウミサソリちゃんが正論を突きつけた瞬間、ボス・アンコウの目が光る。


「こいつ……やる気か……?」


「え、戦う流れ!?」

「ちょっと、今こっち来ないで、ウミサソリくん!絶対私を盾にしようとしたでしょ!!」


「え!?違うよ!?うん、たぶん!」


「たぶんじゃねえ!!」


言い合いをしているうちに、ボス・アンコウが突っ込んできた。


(どんっ!)


しかし――

ウミサソリちゃんのトゲが、ボス・アンコウの腹をピンポイントでヒット。


「がふっ……!?な、なんだその武器は!?」


「え、知らん。生えた」


「生えるなよ!!」


ボス・アンコウは泡を吹いて沈んでいった。

第五海域・西端分区、完全制覇。


「はー……疲れた……」

「でも……なんか、生きてるって感じする」


「わかる。自由って、いいね」


波間に漂いながら、ウミサソリくんとウミサソリちゃんは初めての“世界”を満喫していた。


ただし――


「……ちょっと聞いていい?」


「ん?」


「ここから、どうやって生きてくの?」


「……」


「この先、誰も餌くれないよ?」


「……」


「あと、私たち……再生能力あるけど、不老不死じゃないよ?」


「……」


「夜はめっちゃ寒いし」


「……海、怖……」


「帰ろうか」


「帰ろう……」


その頃、研究所では。


「――え、戻ってきた!?」


「はい。夜明けにドアの前で“ただいま”みたいな顔してました」


「なんだあの怪獣ども、情緒あるな!?」


「あと冷蔵庫の中の実験用イカ全部食べてました」


「情緒ねえな!!」


結局、ウミサソリくんとウミサソリちゃんは、再び研究所で暮らすことになった。

ただし、特別待遇のVIP水槽。専属餌係と日替わりおもちゃつき。


「まあ、ここでもいっか」

「うん。餌あるし」


「でも、また海行きたくなったら――」


「次はもっと準備してからね!」


「だね!」


そして今日も彼らは、実験水槽で仲良く並んでいる。

ウミサソリくんがたまにウミサソリちゃんを食べようとするのも、もう日常の一部である。

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