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on the Ground Section 4

 リオはソロでダンジョンに潜る探索者である。

 ダンジョン探索から戻った後はアイテムの換金を真っ先にする。

 これは金銭の貯えが殆どできていないので当座のお金を確保する目的があるからだ。

 そこから宿泊代の更新、食事、備品等の購入をすれば殆ど残らない。

 まさに生活のためにダンジョン探索をしているのだ。

 万が一活動ができない負傷をしてしまえば翌日の生活すら覚束ない状況なのである。

 それが良くない事はリオも承知している。

 しかしどのようにすれば改善できるかが分からない。

 リオに親身になってくれる人はランベルグにはいないのだ。

 そのような懐具合にも関わらず行き倒れている人を助ける事は以ての外な状況である。

 余裕がある者が助けるべきである。

 リオもそう考えていた。

 瀕死状態の人を見捨てられず少ない食糧を与えてしまった。

 小腹を満たした相手はそのまま気絶するように眠ってしまった。

 このまま放置する訳にもいかない。そのまま宿に連れてきてしまったのである。

 加えて宿の主人より助けた人の宿泊代を支払うように言われる始末である。

 そこには何の同情も無い。非常にビジネスライクな対応だった。

 宿屋の主人と親しい訳ではないのだから仕方ない。だが、想外の出費であった。懐具合はかなり痛かった。

 とりあえず一拍だけさせるつもりではあった。

 起きたら話をする。おそらくまともな会話にはならないだろう。

 結果お帰り頂くコースになるだろうな、とも考えている。

 

 ・・・考えていたのだが。

 

「・・ユーリー」


 どことなく棘があるリオの言葉にユーリーはファイティングポーズを取る。

 なんならシャドーボクシングまでしている。文句あんのか、といういつもの態度だ。


『何よ?なんか文句あるの』


 悪びれない口調にリオは力が抜けてしまった。

 この精霊の常識は現地人や異世界人であるリオとは全く違うのだ。

 このような時の意思の疎通には苦労する。所謂、そういうもんだと思っていた問題だ。

 精霊の常識で事を進められるのは困るのである。分かっていたつもりではあったが考慮が足りなかった。

 これはリオが悪い。ユーリーも当然同じ考えなので絶賛威嚇中なのだ。

 小さい精霊のシャドーボクシングは可愛いものである。なので全く威嚇にはなっていないのだが。

 過ぎた事は仕方ない。目の前の事に対象すべきである。

 だが、連れてきた人物が想定外だった。


『この人・・女性だったんだね』

『あ~、そういう事?でもね。大人の女にはまだまだだから子供でいいんじゃないかしら?』

『女性だったって事は視えていたんだよね?』

『何よ面倒くさいわね。そうよ女の子よ。ボロっちい格好しているから騙されるわよね。でも何かまずいの?』

『マズイよ。男が宿泊している部屋に女の子を連れ込んだんだよ。少なくても宿屋の主人は誤解するよ』

『誤解って何の事?あたし分かんないわよ。何を誤解しちゃうのかしら?』


 ニヤけながら揶揄い始めるユーリー。

 絶対に分からないフリをしているのが丸わかりだ。こうなると悪ノリを始める。

 ここで言い合いをしても口喧嘩ではリオは敵わない。

 なるべく穏やかな空気の元話を進めるしかない。


『分かっているくせに。この人が目覚めたらどういう態度を取るか分かっているでしょ。僕の評判は良くないんだよ。この件で更に悪くなると最悪街から追い出されるかもしれないかもよ』

『そんな街なら出ていけばいいんだわ。あんたの扱いが酷い事についてはあたしは結構怒ってんのよ。どうやって仕返ししてやろうかいつも考えているんだわさ』


 自分の事を心配してくれるのは嬉しい。リオの唯一の味方はユーリーだけだといってもいい。

 ありがたいのだが自分の扱いは置いておいておく。

 目の前の女の子の扱いを決めないといけない。

 

『僕の事はまずは置いておこう。今は目の前の女の子が重要だよ。僕に乱暴されたとか思わないかな。その誤解が街に広がるのはあんまり嬉しくないんだよ』

『もう遅いんだわ。仲間にするしかないと思うのよ。嫌がっても強引にいう事聞かせちゃえばいいんだわさ』


 なぜかシャドーボクシングを再び始めるユーリー。

 それは暴力的な何かで解決しろという事なのだろうか。物騒なヤツとリオは考えてしまう。

 そもそも現地人に対して乱暴な行為をする事をリオは好まない。大多数の異世界人はどうやらそれをやっているらしいのだが。なぜそうするのかリオには不思議で仕方ない。

 なるべくなら話し合いで穏便に仲間になってもらえるのが一番だ。

 ユーリーが視たというのはユーリー固有の能力である。

 対象のステータスやスキル、加護等がレベル差に関わらず分かるのだ。一部の例外を除いて。

 目の前の女の子は有望なスキル持ちとユーリーは判断した。

 リオもソロで活動するにもそろそろ厳しいとは考えていたタイミングだ。

 無理ではないけどギリギリの生活は改善すべきだろうと考えていた。

 仲間になってもらえるのであれば少しは楽になる筈だ。

 だが自分の悪評邪魔をする。

 おそらく拒絶されるだろう。それが普通の反応なのだから。

 ならば悪評を消せばいいのではないかとユーリーはこの話になると憤慨する。

 しかし悪評の殆どが自分には全く理解できない件ばかりなのだ。

 もの凄い尾ひれをつけられてしまっているケースもあり、リオ本人が何を言っても誰も取り合ってくれない。


 過去のパーティメンバーを自ら殺したと信じられている。

 むしろ自分が重症を負いながらも必死に生還させたくらいだ。

 そういえば助けたのに罵倒された時もあったと過去を思い出す。

 

「う・・・」


 とりとめなく考えていたら目の前の女の子が目覚めたようだ。

 少しじゃなく、相当緊張するリオ。

 着衣の乱れはないからその手の行為はしていないのは納得してもらえるとは思う。

 しかし悪名高いリオである。

 場合によってはこれから罵倒されるかもしれないのだ。

 

 女の子はしばらく呆然としていたようだ。徐々に状況を把握してきたようだ。

 自分が寝台に寝ている事に気づき慌てて身を起こす。

 そしてリオに気づく。

 相当緊張した表情で女の子はリオに問いかける。


「あ、あのう。あなたが助けてくれたのですか?」


 リオはコクリと頷き肯定する。

 

「ボクはケイといいます。助けて頂きありがとうございます。それで貴方はどなたですか?」


 少しの間を置きリオは緊張を表にださないよう気をつけながら返答する。

 

「異世界人のリオと言う。君はスラム街で倒れていた。そこから保護した。ここは僕が宿泊している宿の部屋だ」


 効くなり反応は早かった。

 やはりリオの悪名は知っているようだ。

 すぐさま距離を取るように離れた。だが寝台であるがためにそれ程距離はとれない。寝台から落ちないように慌ててしがみついていた。

 その表情は怯えているように見える。

 

「貴方があの・・・」

 

「他人はどう言っているのか興味は無い。僕は異世界人のリオだ。それで君は僕と話をする準備はできるのか?」


 怯えている女の子はリオを拒絶するのだろうか。

 ユーリーはリオと女の子の間を気儘に飛び回っている。緊張感のある空気の中のんきなものだとリオは思う。

 飛行中シャドーボクシングをするという意味のない行動は全く分からないと余計な事を考えながら。

 目の前の女の子の反応を待つのであった。


読んでくださりありがとうございます。


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