on the Ground Section 3
リオは召喚された異世界人である。
今回もダンジョンで獲得したアイテムを安値で買いたたかれた異世界人である。
安値での買取をされた事は実はリオは知っていた。本来ならクレームをつける案件である事も理解している。
しかし普通の商人はリオからアイテムを買い取ってくれない。止む無く闇商人を頼るしかないのだ。
どうしようかと過去に対策を考えた事もあった。
しかし現在の生活がキープされているなら問題無しと判断した。余計な労力と考えて放置したのだった。
それが納得できない者?が一名いる。
リオの耳元でプンスカと憤慨しているのだがリオはそれを放置して宿に向かう。
放置されてさらにヒートアップしたそれは更にリオの周りを飛び回っていたのだが。他の人々には認識できないのでリオは放置している。
向かっている宿は格安料金で宿泊できる宿の一つである。
異世界人値引きが適用され通常料金の十分の一で利用できる事ができる格安の宿なのだ。
これはランベルグ全体での方針であり、異世界人であればあらゆる施設の利用や買い物には一定の割引が行われている。
これに従わない施設や店はランベルグでの営業ができなくなるのだ。
この宿は更に格安となるよう値引きをしてくれる。例え死神と呼ばれているリオですら例外でなく値引きしてくれる。
リオとしては大変ありがたい宿なのだ。
異世界人がお金の心配をしないで生活できるための配慮でもある。
しかしながら・・。なぜかアイテムの買取についてはこのような異世界人特典は適用されない。
もっともリオ以外は適正価格で買い取って貰えているようなので誰も疑問に思わないのかもしれない。
買取額が安いリオの収入は他の異世界人に比べて圧倒的に少ない。
現在滞在している宿はスラム街にほど近い場所ではあるが治安はそれなりに良い場所でもある。
豪華ではないが最低限の設備が整った宿のため実は異世界人の利用は殆どない。
収入が少ないリオにとってはこの宿の料金がギリギリであった。
そこに向かって歩いている時だった。
使い魔であるユーリーがリオの髪の毛をひっぱりながら注意を促してくる。
『ねえ、リオってばさ。あの子ちょっと気になるスキルもっているってばよ』
先程までの憤慨を直ぐに忘れたユーリーは何かを注視していたのは知っていた。
無駄とは知りながらも暇さえあればリオのために有益となる人物を探しているのだ。
全てはリオの為の行動であった。
ユーリーはこの世界での初めての友人でもある。
気がついたらリオにつきまとっていた。そして自分と契約するようにアピールしてきた精霊である。
この世界で精霊を契約している者は珍しい。少なくてもランベルグにはいない。
更に精霊から契約を迫って来ることは無い。
何もかも異例の精霊なのだ。
参考までに精霊と契約したからといって能力が爆発的に伸びるとかは無い。とはユーリー談である。
精霊の種類によっては補助に役にたつ能力がある事が多い。
早速ユーリーの能力が生かされたようだ。
『・・どうせ無理だと思うよ』
『もお~!もうちょっと興味ありそうな言い方しなさいよ。久しぶりにあたしが推薦したのよ。受け入れなさいな』
リオの周囲でプンスカしながら飛び回るユーリーを眺めながらリオは年話で念話する。
二人の会話は常に念話である。
『以前は剣豪のスキル持ちだったよね。その人は既にパーティに所属していたから引き抜きは無理だったじゃないか』
『うぐ・・あたしはレアスキル持ちを選んだだけなのよ。所属なんかは知らないのよ。そこからどうするかはあんた次第だわよ』
当然のように丸投げである。
それもその筈で精霊は契約者であるリオ以外には認識できないのだ。当然交渉できる筈もない。
必然リオが対応する事になるが死神認定されているリオの話を聞く人は皆無であった。
リオ自身もコミュニケーションは全く得意ではない。というかかなり苦手である。
結局交渉はできず終わるのが殆どのボッチ暮らしである。
一人である事にリオは苦痛は感じていない。そのように思う感情がないからだ。
それにユーリーという精霊と念話で常に会話しているため決して一人でいるという感覚はなかった。
参考までにダンジョンに潜る際には精霊は人数にカウントされないのは確認済みであったりする。
また、リオがどこを見ているか分からない目線になる時はユーリーと会話している時が殆どである。
分からない者達には無視しているように取られるがユーリーと会話中だったりするのだ。
今回もユーリーと会話しながら失敗するだろうなとリオは思っている。既に交渉をする気はこれっぽっちもないのだ。
『まあそうだよね。それでどこの人?』
『あそこの路地でぐったりしているわ。結構衰弱している感じだわね。危ないんじゃないかしら?』
ユーリーが指差す方向を見るが全く分からない。
『ぐったり?どこなの?・・見えないんだけど』
『もう~、仕方ないわね。ついてきなさいな』
言うなりユーリーは指差していた方向へ飛んでいく。
リオは歩いてついていく。すれ違う人を気にするためスイスイ飛んでいくユーリーから離れてしまう。
離れてはついてこれないリオにプンスカするユーリーを宥めながらもなんとか目的の場所に辿りつく。
そこはスラム街の中でもジメジメとしたゴミ捨て場のような場所だった。
確かにボロで包まれた何かが蹲っているのがやっと判別できた。
相変わらずユーリーの感度は高い。視覚だけでなくなんらかの感覚があるのだろう。
リオは慎重にユーリーが発見した何者かに近づき声をかける。
「ねえ、そこの君生きているかな?・・返事をしてほしいのだけど」
反応を待つが返ってこない。
『この子結構危ないのよ。あんたの言葉で表現するとHPが0に近いのよ』
『え?そうなの。それでこの人は僕を害するスキルは持ってないんだよね』
『そんなのあたしに分かる訳がないのよ。スキルは使い手次第では毒にも薬にもなるのよ』
ユーリーの反応から推測するに使い方によってはリオをダメージを負わせる事が可能なスキルのようだ。
だったら見つけたと言って欲しくなかったとリオは思う。思うだけで口にはしない。
少し考えてみる。
今の自分の生活に目の前の人は必要なのか。
ユーリーは単純に良いスキルがあれば教えてくれる。それだけだ。
人柄については当然のように保証しない。
助けたはいいが後に害する事をされては意味が無いと思いもしている。
それに自分はこの街の人には嫌われている事は自覚している。
目の前の人が同様の感情を持っている可能性は高い。
迷ったのは少しの間だけだった。
倒れている人物に近づき抱き上げ口元に水を含ませる。
ダンジョンから帰ったばかりで補給ができていない。水もあまり残っていない。
暫く様子を見ると弱いながらも水を飲んでいく様子が分かった。
そのまま背嚢から固形食を取り出す。
ダンジョンに潜る際の固形食はマズイ。しかし固形食はリオのお手製である。味の保証はあるつもりだ。
その固形食を口元にもっていくとゆっくりと一口かじる。ゆっくりと咀嚼をし始める。
途端に閉じられた目が見開き上体を完全に起こしてきた。
その勢いでリオから固形食をひったくるように奪い食べ始める。
様子から見るに窮地は脱したようである。
『お~お~お。元気がよくなったのよ。よっぽどお腹すいていたのね。何日食べていないのかしら?』
勢いよく食べていたのでむせ始めた相手に残りの水を渡したリオは応答する。
『ユーリーが勧めるから助けたけど。この人大丈夫だよね?僕がこの街の人から嫌われているからなあ。助けても助けられたと思わないんじゃないかな』
『そんな事あたしは知らないのよ。見ての通り死ぬ寸前だった所を助けてあげたのよ。恩に感じる事はあっても嫌われる事はないんじゃないかしら』
リオの不安を気にしないユーリーの発言に困るリオであった。
本当にそうであれば自分は嫌われていない筈だ。と、リオは思う。
ともかく助けた以上はこれからどうするかだけでも話をしないといけない。
その会話を成立させる事が厄介なんだとリオは思う。
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