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on the Ground Section 1

 リオは探索者である。

 探索者とはダンジョンに潜る者達の総称である。

 ダンジョンの魔物を倒し戦利品を獲得するのが主な仕事となる。

 ある者は依頼を受けて特定のアイテムを持ち帰る事を生業としている。

 ある者は未知の深層に潜り自身の鍛錬を生きがいとしている。

 ダンジョンに潜り生還する事は地位や名声、富が約束されているようなものなのである。

 ダンジョンに潜る事さえできればば探索者と名乗ってよい。ユルい職種でもあった。

 よって化け物のように強い探索者から一般人より少し強い程度の探索者と実力差が大きい。

 ユルい条件には理由がある。

 ダンジョンに潜る事自体が難しいのだ。

 異世界から召喚された生物がパーティに存在している事が条件である。

 この世界で生まれた現地人はいかに優れていてもダンジョンに潜る事はできないのだ。

 故に召喚された者を一人はパーティに入れる事になる。

 ダンジョンに潜っているときに召喚された者が死亡した場合は一緒に潜っていたメンバーも死亡してしまう。

 よって召喚された者は大事に守られてダンジョンに潜る事になるのだ。

 

 一部の例外を除き。

 

 リオは召喚された異世界人である。

 異世界人が選択する一番多い探索者の道を選んだ。

 異世界人がいるだけでダンジョンに潜る事ができるのでパーティ内では大事にされる。

 異世界人側から見ても選択肢が殆ど無いから探索者を選ぶしかないのだ。

 現地人にすら優しくないこの世界。

 知識が全くない異世界人には更に優しくない。

 迷宮を探索する能力が無くても異世界人であれば探索者に大事に扱われる。

 結果、探索者を選択する事になる。

 

 リオも流されるように探索者となった。

 現在はソロでダンジョン探索をしている。

 ダンジョンに潜る実力があったのは確かだ。

 だがパーティを組んで潜るほうがずっと危険度は少ない。

 いや、普通はソロでダンジョンには挑まない。

 パーティで行動をするのが一般的な常識であるのだ。

 

 リオは死神という二つ名で呼ばれている。

 パーティを組んだメンバーの生還率が著しく低いためだ。

 彼と行動を共にするメンバーは殆どが死亡する。

 ごく僅かな生還者ですら体の欠損が激しい、または精神に甚大な障害を負って戻ってくる。

 生き残ったメンバーはダンジョン内で何が起こったのか頑なに語らない。

 勿論リオも語らない。

 故にリオとパーティを組みたがる者はいなくなったのだ。

 

 リオには感情が無い。

 異世界人は全員召喚前の記憶が殆どない。

 漠然とした何かを覚えているようだがそれをアウトプットする事ができない。

 召喚前は家族や恋人、友人だったかもしれない異世界人達。

 現在の彼らはそれを認識する事ができない。

 異世界人の一部には感情も忘れてしまっている者がいる。

 例えば恐怖の感情が無い者は未知の恐怖に震える事無くダンジョンに潜る事ができる。

 後に名を残す事になる者はこのような感情の欠落がある者が圧倒的に多い。

 リオは殆どの感情を忘れてしまっているようだ。

 怒り、恐怖、驚き、悲しみ、幸福、嫌悪というような感情表現をした事を見た者がいないからだ。

 口数も極端に少ない。

 どこを見ているか分からない鋭い目線は会う者に不気味な印象を与えてしまう事になる。

 誰にどう見られても気にしない。

 服装も気にしない。

 ボロ布のような黒衣と伸ばしっぱなしの黒髪が特徴的である。

 長身で痩身。手足が長いため長い鎌を持てば死神に見えない事もない。

 

 ダンジョン活動歴や容姿も含めて死神と呼ばれるのに時間はかからなかった。

 

 リオはランベルグの街に戻って来た。

 ランベルグはダンジョン探索者の拠点の街の一つである。

 探索者が持ち帰ったアイテムを各都市の交易品として流す事で栄えている中規模の街である。

 人口は五万人程度で殆どが何らかの形でダンジョンに関連する仕事に就いている。

 ダンジョンの入口が発見された後に探索者が多数集まってきたため発展した街である。

 比較的新しくつくられた街のため領主はいない。

 街の有力者の合議制で運営されている街である。

 高名な探索者を抱えているため貴族からの圧力にも屈しない力があるからだ。

 この世界では冒険者ギルドはない。

 探索者はランベルグの商人と契約してアイテムを捌く、自身で商会を立ち上げてアイテムを売る、その他の手段で報酬を得る事になる。

 そしてランベルグの街で宿泊、飲食等をして金を循環させているのである。

 ソロで活動しているリオには膨大なアイテムを持ち帰る事はできない。

 二つ名も災いしてリオと取引をする商人はいない。自身で商会を立ち上げる財力もない。

 闇商人に二束三文の値でアイテムを卸して日々の生活費を得る事でやっとである。

 まっとうな商人であれば闇商人の十倍以上の値をつけるアイテムであってもだ。

 その事にリオは気づいているのか闇商人にすら分からない。

 感情が分からないからだ。

 今回もふらりとやってきて無雑作にアイテムを取り出し無言で査定を要求してくる。

 闇商人は慣れているので何も言わず査定を行い、僅かばかりの金額を提示する。

 実は表情には出していないが査定額は最低限の値段で計算している。

 いつかバレるのではないかと冷や汗をかいているのは内緒である。

 相手であるリオはどこを見ているか分からない無表情のため満足なのか不満足なのかも表情から読めない。

 自分以外からのルートで売りさばく事ができないのは知っているがそれでも恐怖はある。

 何しろ相手はダンジョンに潜って帰還できる実力者だ。

 しかもソロでの行動である。

 闇商人の見た所リオが持ってくるアイテムはそれなりに深く潜らないと獲得できないモノばかりである。

 ソロで行動しているため持ち帰る品にも限界があるだろう。

 よって持ち帰る品を厳選しているのだろうという事は想像に難くない。

 リオは文句も言わず渡された金を財布にしまい去っていく。

 その姿を見ながらなんとか自分の専属にして多数のアイテムを持ち帰る事はできないかと考えるが、、、。

 リオの評判が知れ渡っているためパーティを組む探索者は既にいない。

 現状維持という事になるかと闇商人は思考をやめる。

 そもそも今までの取引でかなりの利益が出ているのだ。

 欲張って今の関係を悪くする事は悪手でもある。

 それにしても、、と闇商人は思考を切り替え呟く。

 

「ソロでダンジョンから帰還できて性格も粗暴じゃない。探索者にしてはできたヤツだ。なのになんで死神って呼ばれてるんだ?」


 闇商人の呟きに答える者はいなかった。

 

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