〜遺跡の最奥にて〜続き
守護者の崩壊とともに、戦場は一瞬の静寂を取り戻した。しかし、それも束の間、遺跡全体が悲鳴のような振動を上げる。
「ヴィトル、聞こえるか?」
アムラスの声が響いた。
「第一段階は終わった。だが、封印を完成させるには“鍵”が必要だ」
ヴィトルは荒い息を整えながら、崩れゆく守護者の亡骸を見下ろす。胸の紋章――そこには、わずかに光る欠片が残っていた。
「……これか?」
ヴィトルは剣の先で欠片を弾き、手のひらに収める。瞬間、指先が焼けるような熱を帯びた。
「っ……!」
頭の奥に、遺跡の記憶が流れ込む。
幾千年も前、この遺跡はかつて神殿だった。知識を守り、世界を支えるための場所。しかし、何かが歪み、力が暴走し、守るべきものが崩壊した。そして、今なおその力は世界を侵食し続けている――。
(だから、核を封じなきゃならねぇってことか)
ヴィトルは歯を食いしばりながら、拳を握る。
一方、アムラスの前にも、もうひとつの“鍵”が姿を現していた。
祭壇の中央、まるで彼が術式を完成させるのを待っていたかのように、光る球体が浮かんでいた。しかし、その周囲にはまだ封印を拒む力が渦巻いている。
「……なるほど、そういうことか」
アムラスは手を伸ばし、光を掴む。その瞬間、またしても幻覚が襲いかかる。しかし、今度はただの記憶ではない。
“お前は、本当にそれを手にする覚悟があるのか?”
声が響く。
彼の前に立っていたのは、かつての師だった。
「……今さら、そんな問いを投げかけるのか」
アムラスはわずかに目を細める。
師は厳格だったが、同時に優れた魔術師だった。幼い頃の彼に知識を与え、力を磨く道を示した存在。しかし、師は彼に“ある選択”を迫った末、アムラスはそれを拒んだ。
“お前は、あの時と変わらず、まだ迷っている”
「いいや、違うな」
アムラスは静かに言い放った。
「俺は、あの時とは違う。だからこそ、今ここにいる」
幻影が崩れ、アムラスの手の中に“鍵”が宿る。
その瞬間、彼とヴィトルの持つ“鍵”が共鳴し、遺跡全体が再び大きく揺れた。
「アムラス、そっちはどうだ!」
「問題ない。今から封印を発動する!」
二つの“鍵”を持つ彼らに応じるかのように、祭壇が光を帯びる。しかし、それと同時に――
遺跡の核が、最後の抵抗を始めた。
歪んだ空間の奥から、黒き波動が広がる。それは怒りにも似た力だった。
「来るぞ……!」
ヴィトルとアムラスは互いに視線を交わし、最後の試練へと向かう――。