〜遺跡の最奥にて〜
ヴィトルは剣を構えたまま、目の前の敵を見据えた。巨大な騎士――遺跡の守護者は、まるで生きた戦士のようにわずかに腰を落とし、剣の切っ先をヴィトルに向けていた。無駄な動きは一切ない。戦いに長けた者のそれだった。
「……厄介だな」
ヴィトルは舌打ちしつつも、足元を流れる影の波に意識を向ける。剣を振るうたびに斬り裂くことはできるが、すぐに形を取り戻す。単なる魔法の産物ではない。
その瞬間、守護者が動いた。
圧倒的な速さ。巨体からは想像もできない鋭い突きが、一直線にヴィトルの心臓を狙う。紙一重で回避したヴィトルは、その勢いのまま斬り返す。しかし、守護者は刃の軌道を見切ったかのように身を翻し、寸分違わぬ精度で反撃を繰り出した。
ヴィトルは驚愕した。戦闘経験に裏打ちされた直感が告げる――この敵は、ただの守護者ではない。技量の差は歴然だった。
「……面白ぇ」
口元に笑みを浮かべると同時に、ヴィトルは戦場を駆ける。迂闊に打ち合えば、確実にこちらが削られる。ならば、戦場を動かしながら敵の弱点を探るしかない。
影の波がまた蠢く。剣を振るい、跳躍し、瞬時に間合いを詰める。しかし、切ったはずの影はすぐに再生し、まるで際限がなかった。
(何かを破壊しない限り、こいつらは無限に増殖する……)
ヴィトルの視線が、守護者の胸部へと向いた。そこに微かに光る紋章――まるで、影の波と共鳴するような痕跡が見えた。
(なるほど、そこか……!)
影を斬るのではなく、本体を断つ。その瞬間、戦況が変わるはずだ。
ヴィトルはさらに剣を握り直し、呼吸を整えた。
――――――――――――――
戦場では、ヴィトルが守護者の攻撃をかいくぐりながら、胸の紋章へと狙いを定めていた。
「……これで終わりだ!」
刹那、ヴィトルは敵の一撃をギリギリで受け流し、その瞬間に踏み込む。影の波が彼を呑み込もうとするが、構わず突き進む。
剣が閃き――
守護者の胸を貫いた。
轟音と共に影の波が弾け、守護者の巨体が崩れ落ちる。しかし、安堵する暇もなく、遺跡全体が震えた。
術式の第一段階が完成したのだ。
だが、アムラスの表情は険しい。
「……まだ足りない。最後の鍵が必要だ」
その鍵を掴むのは、果たして――。
戦いは、まだ終わらない。