遺跡の意思と戦う者たち
ヴィトルとアムラスが遺跡の最奥部に足を踏み入れた瞬間、空間全体が揺らぎ、壁が粘土のように歪み始めた。
「異空間か……まずいな」
ヴィトルが警戒の声を上げるや否や、天井から無数の石の槍が降り注ぐ。二人は即座に飛び退き、瓦礫を蹴り上げながら体勢を立て直す。
「これが“遺跡の意思”か。まるで生きているようだな」
アムラスが鋭い視線を巡らせ、杖を構える。その言葉通り、壁が脈打つように蠢き、床が波のように隆起していく。遺跡そのものが彼らを侵入者と認識し、排除しようとしているのは明らかだった。
「時間がない。このまま崩壊が進めば、核を封じる前に俺たちごと消されるぞ」
ヴィトルが歯を食いしばる。彼らの目的は、この遺跡の核心である“核”を封印すること。それがなければ、遺跡は際限なく拡張と破壊を繰り返し、世界を侵食するだろう。
アムラスはすぐに周囲の構造を観察し、すばやく戦略を練る。
「核を封じるには、二カ所で同時に術式を発動しなければならない。おそらく、あそこが一つ目の祭壇……問題はもう一つの位置だが」
ヴィトルは戦場となる異空間を睨みつつ、思考を巡らせる。
「それなら俺が時間を稼ぐ。お前は術式の起動に集中しろ」
「……俺一人でいけると思うか?」
アムラスの目がヴィトルを捉えた。その視線には、単なる冷静な判断ではなく、相棒としての信頼と懸念が混ざっている。
「思わねぇよ。ただ、お前の方がこの場の構造を理解するのが速い。だったら、お前が術式を担うのが最善だ」
言葉を交わす暇もなく、地面が弾け飛び、新たな敵が姿を現した。
遺跡の守護者――全身を石と金属で覆った巨大な騎士が、瓦礫の中からゆっくりと立ち上がる。その背後には、無数の影が波のように蠢いていた。
「……なら、頼んだぞ」
アムラスは短く言い残し、術式を展開しながら祭壇へと向かう。その背中を見送り、ヴィトルは剣を握り直した。
「さぁて……俺がどこまで耐えられるか、試してやるよ!」
次の瞬間、戦場が再び大きく歪んだ――。