回廊の罠と影の守護者
二人が奥の扉を開けると、薄暗い石造りの回廊が続いていた。空気は湿り、どこか生暖かい。壁面には古びたレリーフが施されており、その中には奇妙な文字と不吉な彫刻が並んでいる。
「気をつけろ。この先はただの石像では済まないかもしれない。」アムラスの声が低く響く。
ヴィトルは慎重に地面を観察しながら進む。「床に細工があるな……見てくれ、微妙に段差が違う部分がある。」
その指摘にアムラスも気づき、しゃがみ込んで確認する。「これは……踏み込んだら作動する仕掛けか。恐らく矢の罠だ。」
「ならばこうしよう。」ヴィトルは腰から小さな金属の杭を取り出すと、罠の段差部分に差し込む。「これで作動はしないはずだ。」
罠を無力化しながら進む二人だが、回廊の終わりに差し掛かった瞬間、再び音が響く。
――ガシャッ!
奥の壁が音を立てて動き始め、そこから巨大な石球が転がり出してきた。
「走れ!!」アムラスが叫ぶ。
二人は全力で回廊を駆け抜ける。後方から迫る石球が床を砕きながら追いかけてくる音が耳をつんざくように響く。
「こっちだ!」ヴィトルが横道に気づき、アムラスの腕を引いて回廊脇の狭い空間に飛び込んだ。
巨大な石球が二人のすぐ横を通り過ぎ、回廊の奥で大きな音を立てて停止する。
「……助かったな。」アムラスが息を整えながら笑う。
「まだだ、次が本番だぞ。」ヴィトルは真剣な表情を崩さない。
回廊の先に開けた空間には、巨大な円形の広間が広がっていた。広間の中央には石で作られた祭壇があり、その周囲にはいくつもの魔法陣が刻まれている。
「どうやらここが試練の中心地か……ただの広間じゃないな。床全体が罠のように見える。」
アムラスは祭壇を見つめ、慎重に歩を進める。
ヴィトルは広間の壁際を進みながら確認する。「見ろ、あの魔法陣が怪しい。あそこに触れると何かが起動するはずだ。」
「罠を逆に利用する手もあるな……。」アムラスは広間を見渡し、閃いたように口角を上げた。「奴らが現れたら、この罠に誘導する。」
作戦はすぐに始まった。広間に足を踏み入れた瞬間、石像ではなく影のような存在――黒い霧に包まれたゴーレムが現れた。
「来るぞ!」
ゴーレムは壁から壁へと瞬時に移動する。物理攻撃が通用しないと悟ったヴィトルは、ゴーレムを魔法陣の上に誘い込もうとする。
「こっちだ、鈍いゴーレムめ!」ヴィトルは挑発的な声を上げ、ゴーレムの動きを誘導する。アムラスも素早く回り込んで魔法陣を調整し、タイミングを計る。
ゴーレムが魔法陣の中央に来た瞬間、アムラスが魔力の封印を解いた。
――ゴォォッ!
魔法陣が激しく光り、ゴーレムを縛り上げる無数の鎖が現れる。その鎖はゴーレムの霧状の身体を締め上げ、逃げ場を奪う。
「今だ!集中攻撃!」
二人は剣とクロスボウで一気に畳みかける。鎖に縛られたゴーレムは逃げ場を失い、次第にその形を崩していった。やがて一筋の光となって消え去る。
静寂が再び広間を包み込む。
「これで終わりか……?」ヴィトルが辺りを警戒しながら問いかける。
「いや……最後の扉が残っている。」アムラスは広間の向こう側にある巨大な扉を見据えた。
「ここまで来たら引き返せないな。」
「当然だ。」
二人は扉に向かってゆっくりと歩き出した。扉の向こうには、試練の本当の意味が待ち受けているかもしれない――だがそれを知るには、進むしかなかった。