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凹凸二人の珍道中  作者: 霧咲紫苑
第1章~遺跡調査とエルフの相棒~
3/10

封印された試練

遺跡へ続く道は、静寂に包まれていた。鳥のさえずりも風そよぎもなく、森は不自然なほどに沈黙している。


「……ここだ。」


アムラスが静かに呟いた。


目の前には、地中へと続く古びた石造りの階段。 苔がこびりつき、長い年月の重みを感じさせる。

闇へと続くその階段は、まるで獲物を飲み込む口のようにぽっかりと開いていた。


「これが……『忘れられた地下遺跡』か。」


ヴィトルは無意識に喉を鳴らす。


遺跡の入口には、風化した文様が無数に刻まれている。


「……慎重に行こう。」


ヴィトルランタンに火を灯し、クロスボウの引き金をすぐに引けるようにして階段を下りていく。


ズズッ……ザリ……。


足を踏み出すたび、濡れた石片が靴底にまとわりつくような感覚がした。苔の生えた床は滑りやすく、時折水滴が落ちると屋根内に聞こえる。


「奥に行くほど冷えるな……気をつけろ。」


アムラスが鋭い目で周囲を見回す。


ランタンの光が揺れ、壁に刻まれた奇妙な文様が記憶のように蠢ていた――そう錯覚するほど、不気味な雰囲気が漂っていた。


階段を下りると、目の前には広大なホールがあった。


天井は高く、壊れかけた柱が無数に立っている。 床には古びた石のタイルが敷き詰められているが、所々にぽっかりと空いた暗い穴があり、その先に何があるのかはわからない。


「……誰かが最近ここを通った跡がある。」


ヴィトルは足元を指差した。


「探索者か?……」


アムラスは剣を構え、さらに警戒を強める。


その時――


コツ……コツ……


微かな遠くから響いていた。


「……水滴の音か?」ヴィトルが囁く。


「いや……違う。何かが動いている。」


ゴトッ……ゴリ……ズル……。


鈍く、湿った音が近づいてくる。


「ランタンを消せ。」


アムラスの声は低く、鋭かった。


ヴィトルは一気にランタンの火を消す。


辺りは完全な闇に包まれた。


耳を澄まし、あたりを伺う。


呼吸音すら飲み込むような静寂。


……そして何かの気配が、目の前にあらわれる。


ジワリ――と広がる、無数の目を見られるような感覚。


ヴィトルの喉がごくりと鳴る。


ズル……ズル……ゴリ……。


何かが這う音。


視界の外、暗いの向こうで巨大な影がほんの少しだけあった。


……それは蛇のような、いや、巨大な昆虫のような……。


――人の目を持つ異形の生物だった。


「……まずい、逃げるぞ!」


アムラスが叫ぶ中、ヴィトルはランタンを再び灯し、全力で走り出した。


ドォン!!


遺跡全体が揺れるほどの咆哮。


石壁に亀裂が走り、天井から砂が降り注ぐ。


「早く出口へ――階段まで戻れ!!」


巨大な生物が追いかけてくる。


ヴィトルはクロスボウを構え、矢を放つ――


ところが、矢は生物の体に吸い込まれて消えてしまった。


「くそっ……効かない!」


「もう少しだ……階段はすぐそこだ!」


ヴィトルが息を切りながら走りながら、やがて外の光が見えた。


……しかし、異形の生物は外までは追ってこなかった。


遺跡の入口でコチラをじっと見つめ、不気味な瞳が二人を見つめている。


――まるで、「これで終わりではない」みたいに。


二人は息を整え、石造りの広間を眺めた。


「……安全なのか?」


ヴィトルが警戒しながらクロスボウを構えた瞬間――


ドンッ!!


隣の扉が激しい音を立てて閉ざされた。


同時に――


石像の目、ゆっくりと光を宿す。


「動き出すぞ!構えろ!」


アムラスが叫び、剣を抜く。


重厚な石の体が軋みながら動き出し、手にした巨大な斧を高く振りかざした。


その刃には、攻撃者の命を断つ確信があった。


――「忘れられた地下遺跡」の試練が、今始まる。

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