封印された試練
遺跡へ続く道は、静寂に包まれていた。鳥のさえずりも風そよぎもなく、森は不自然なほどに沈黙している。
「……ここだ。」
アムラスが静かに呟いた。
目の前には、地中へと続く古びた石造りの階段。 苔がこびりつき、長い年月の重みを感じさせる。
闇へと続くその階段は、まるで獲物を飲み込む口のようにぽっかりと開いていた。
「これが……『忘れられた地下遺跡』か。」
ヴィトルは無意識に喉を鳴らす。
遺跡の入口には、風化した文様が無数に刻まれている。
「……慎重に行こう。」
ヴィトルランタンに火を灯し、クロスボウの引き金をすぐに引けるようにして階段を下りていく。
ズズッ……ザリ……。
足を踏み出すたび、濡れた石片が靴底にまとわりつくような感覚がした。苔の生えた床は滑りやすく、時折水滴が落ちると屋根内に聞こえる。
「奥に行くほど冷えるな……気をつけろ。」
アムラスが鋭い目で周囲を見回す。
ランタンの光が揺れ、壁に刻まれた奇妙な文様が記憶のように蠢ていた――そう錯覚するほど、不気味な雰囲気が漂っていた。
階段を下りると、目の前には広大なホールがあった。
天井は高く、壊れかけた柱が無数に立っている。 床には古びた石のタイルが敷き詰められているが、所々にぽっかりと空いた暗い穴があり、その先に何があるのかはわからない。
「……誰かが最近ここを通った跡がある。」
ヴィトルは足元を指差した。
「探索者か?……」
アムラスは剣を構え、さらに警戒を強める。
その時――
コツ……コツ……
微かな遠くから響いていた。
「……水滴の音か?」ヴィトルが囁く。
「いや……違う。何かが動いている。」
ゴトッ……ゴリ……ズル……。
鈍く、湿った音が近づいてくる。
「ランタンを消せ。」
アムラスの声は低く、鋭かった。
ヴィトルは一気にランタンの火を消す。
辺りは完全な闇に包まれた。
耳を澄まし、あたりを伺う。
呼吸音すら飲み込むような静寂。
……そして何かの気配が、目の前にあらわれる。
ジワリ――と広がる、無数の目を見られるような感覚。
ヴィトルの喉がごくりと鳴る。
ズル……ズル……ゴリ……。
何かが這う音。
視界の外、暗いの向こうで巨大な影がほんの少しだけあった。
……それは蛇のような、いや、巨大な昆虫のような……。
――人の目を持つ異形の生物だった。
「……まずい、逃げるぞ!」
アムラスが叫ぶ中、ヴィトルはランタンを再び灯し、全力で走り出した。
ドォン!!
遺跡全体が揺れるほどの咆哮。
石壁に亀裂が走り、天井から砂が降り注ぐ。
「早く出口へ――階段まで戻れ!!」
巨大な生物が追いかけてくる。
ヴィトルはクロスボウを構え、矢を放つ――
ところが、矢は生物の体に吸い込まれて消えてしまった。
「くそっ……効かない!」
「もう少しだ……階段はすぐそこだ!」
ヴィトルが息を切りながら走りながら、やがて外の光が見えた。
……しかし、異形の生物は外までは追ってこなかった。
遺跡の入口でコチラをじっと見つめ、不気味な瞳が二人を見つめている。
――まるで、「これで終わりではない」みたいに。
二人は息を整え、石造りの広間を眺めた。
「……安全なのか?」
ヴィトルが警戒しながらクロスボウを構えた瞬間――
ドンッ!!
隣の扉が激しい音を立てて閉ざされた。
同時に――
石像の目、ゆっくりと光を宿す。
「動き出すぞ!構えろ!」
アムラスが叫び、剣を抜く。
重厚な石の体が軋みながら動き出し、手にした巨大な斧を高く振りかざした。
その刃には、攻撃者の命を断つ確信があった。
――「忘れられた地下遺跡」の試練が、今始まる。