表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

STORIES 067: 遠い雷鳴

作者: 雨崎紫音

STORIES 067

挿絵(By みてみん)



高校を卒業した年。

隣の市にある百貨店、レディースのフロアにある国産ブランドのショップで、私は働き始めた。


従業員口から入り、開店前の売場を抜ける。

まだ止まったままのエスカレーターを歩いて上がる。

パンプスの低めのヒールが、通路にカツカツと響く音が心地よい。


開店前のフロアは、まだ眠っているみたい。

この感じが好き。


.


やがて栄転の話が出た。

都内の大型店で頑張ってみたらどうかと、支店長から聞いたときは、飛び上がって喜んだ。


ようやくこの街を離れられる。

それこそが、私の夢であり原動力だった。


東京へ。


.


人の流れも、時間の流れも、まるで違ってた。


満員電車と物価の高さに押し潰されそうになったけれど…

立ち並ぶビル群と、そこから見下ろした光のるつぼ、華やかな通り、眠らない街。


私は、私の居場所を見つけた。

きっと、ここ。


.


毎年たくさんの社員が入社する。

そして脱落してゆく。


新人の子が、泣きながら店長に相談する。

頑張ってるよね、優しく諭す。


売上の落ちている店長は、改善プラン報告の後、ため息混じりに呟く。

スタッフの仲が悪いのがどうにもならなくて…


次の異動の時期に、あの子とあの子を入れ替えてみようか。

私は、東京・東エリアのマネージメントをするようになっていた。


.


水曜の夜、落ち着いた居酒屋のカウンターに座る。明日は休暇だし、少しゆっくり飲みたい。


今夜はお客さんが少ない。

カウンター越しの彼が、冗談を言いながら慣れた手つきで調理を続けている。


この店舗に移ってだいぶ経つ。

同郷の彼が経営するお店。


彼との付き合いは、けっこう長い。


.


深夜の高層マンションから見下ろす夜景が好き。


彼は眠ってしまったようだ。

スキンケアをして、火照った体をソファに投げ出し、天井を見上げる。

救急車のサイレンに混じって、遠くで雷鳴が聞こえる。


このまま、朝まで起こさないでおこうかな。


彼には帰るべき家がある。

待っている人もいる。


だから帰したくない。


.


いつか私と一緒になりたいと言ってくれた。

よくある話。


でも、奥さんが身籠もり…

事情が変わったことに気付いてしまった。

うんざりするくらい、よくある話。


彼はとても優しい。

だから、いつまでもこのままが良かった。


.


本当は分かってる。


偽りの優しさは、無責任さの表れ。

何も背負わなくていいんだもんね。


優しくもできるよ、それだけでいいんだから。


私の夢って何だったかな。

目を閉じて、暗闇に沈んでゆく…

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ